【ゆっくり文庫】紅魔大作戦「謎の球体」パイロット版 The Corbomite Maneuver (1966) from Star Trek

2019年 ゆっくり文庫 ファンタジー 映画やテレビから
【ゆっくり文庫】紅魔大作戦「謎の球体」パイロット版
084 明るい未来を──

深宇宙探査するUSSエンタープライズのまえに、第一連合の巨大宇宙船・フェサリアスが出現した。宇宙ブイを破壊された報復として、エンタープライズを破壊すると通告してきた。

原作について

ジーン・ロッデンベリー

ジーン・ロッデンベリー
(1921-1991)

 スタートレックは、SFドラマの金字塔。1966年に放送され第1作は、のちに『Star Trek: The Original Series』(TOS)と呼ばれる。日本放送時のタイトルは『宇宙大作戦』。若い人は違和感を抱くかもしれないが、私はカタカナを使わない邦題が好き。

 放送当時の視聴率はふるわなかったが、再放送で多くのファンを獲得、続編となるのドラマ、映画、アニメなどが制作され、長寿シリーズとなった。
 まぁ、私もリアルタイムで視聴していたわけじゃないから、詳しいことは Wikipediaや専門サイトを参照していただきたい。

私はニワカ

 『宇宙大作戦』(TOC)は子どものころ再放送を見たはずだが、記憶はあいまい。ちゃんと視聴したのは大人になってからで、未視聴の作品も多い。つまり私はニワカだ。ファン(トレッキー)を名乗るほどの見識は持ち合わせていないが、それでも好きだから【ゆっくり文庫】で紹介したい。
 というわけでテストショット(試作品)を作ってみた。

テストショット

 最初に考えるのはキャスティング。というか、キャスティングを思いついたから動画を作りたくなったというのが正解。今回ひらめいたのは、レミリア@カーク船長とパチュリー@スポックの組み合わせ。この2人の掛け合いはおもしろそうだ。
 せっかくだから、紅魔館メンバーで固めてみよう。マッコイが埋まらず、ジャニスを省略したり、ルーミアを加えることも考えたが、霊夢に決定した。マッコイは指揮系統から外れたところがあるから、ちょうどいい。

紅魔大作戦
※この3名に決まった。

 胸にあるアサイメント・パッチ(司令部門記章)を髪飾りにしたら、予想以上によかった。調子に乗ってパチュリーの耳も尖らせる。いけるぞ! こあくまも耳が尖ってるからバルカン人かもしれない。

紅魔大作戦
※スタートレック:ゆっくり文庫キャスティング

木造三階建てのエンタープライズ号

 特撮パートはドラマのカットをそのまま使うつもりだったが、ふと『東方儚月抄』の住吉三神式月ロケットを思い出す。探したらMMDモデルが見つかった。私はMMDを使いこなせないが、静止画なら撮影できる。加工して、素材として配置。悪くない。というか、おもしろくなった。
 ブイとフェサリアスもMMDで制御したいので、陰陽玉と八卦炉に置き換える。しかしフェサリアスを知らない人は多そうだから、リマスター版の映像を使うことにした。

紅魔大作戦
※住吉三神式月ロケット

紅魔大作戦
※フェサリアス 八卦炉Ver.

特撮は難しい

 余勢を駆ってオープニングを作った。イメージがふくらんで楽しくなったが、制作の困難さも見えてきた。やはり特撮シーンが鬼門だ。MMDを使いこなしたくなる。AviUtl、AfterEffectの効果も欲しい。特殊な小道具、効果音が多い。カメラワークも工夫しなければならない。住吉ロケットのモデルデータもいじりたくなる。
 欲張るのはよくないが、着手すればハマる。私単独では無理だ。ツイッターに動画を流して、反応をみることにした。「特撮パートをやりたい」という人がいるかもしれない



スタートレック二次創作ガイドライン

 コメントで、スタートレックには厳しい二次創作ガイドラインがあることを教わる。なんだって? 調べてみると徹底的なファンムービーつぶしだった!

 詳しくはリンク先を見てほしい。
 簡単に言うと、ファンがクラウドファンディングで約120万ドル(約1億3,200万円)を集め、プロの役者、プロの制作会社を使って二次創作の映画「Axanar」を作ったのだ。その規模、品質、方向性に驚異を感じた権利元が訴訟を起こし、和解の引き換えとして「二次創作の10個のガイドライン」を制定した。つまり、このガイドラインに違反したら訴訟になるのだ。

 権利元が脅威に感じるのもわかる。これは二次創作じゃなくて海賊版。これが認められるなら、権利は価値を失ってしまう。しかしここまで規制する必要があったのだろうか? ライセンス料を取ればいいのに、なぜつぶすのか?

 つまり権利者は、自分たちに制御できない作品展開を永劫に封じたのだ。ファンは黙ってプロの作品を買え。妄想するのはいいが、映像化してはならないと。
 スタートレックは原作者、製作者、ファンがいっしょになって築いてきた「文化」である。そもそも原作者のロッテンベリーは、契約の不備から報酬をもらえていない。それを、権利を買い取っただけの企業が抑圧していいのか? 理不尽を感じるのは無理ないだろう。

 MMDドラマ「東方航星譚」の作者も嘆いていた。必読。

ガイドラインを回避できるか?

 すでに制作をあきらめていたが、「もし作るとしたら?」を考えてみる。「スタートレック」の名前は使えない。まぁ、「紅魔大作戦」とでもするか。15×2で30分以下。まぁ、できそう。公式作品のストーリー複製や作り直しは禁止? あ、無理だ。
 「ギャラクシー・クエスト」や「トラベラー」のような置き換えはできるだろうが、「スタートレック」を紹介できないなら意味がない。この条件を守るくらいなら、オリジナル作品にするよ。

パイロット版を作る

 作らないのはいいけど、作れないのは悔しい。テストショットも死蔵したくない。そこでパイロット版を組み立てることにした。オープニングテーマをフルサイズにして、世界観を説明。「謎の球体」のショットを並べて、効果音をつける。本編の作り直しにならないよう、結末は伏せておく。ブーイングが予想されるが、私だけ悔しい思いをするのはいやだ。

オープニングのブラッシュアップ

 オープニングを作り直しながら、やはりウラ少尉は黒人であるべきと思い、咲夜の肌を褐色にした。違和感あるけど、これでいい。
 【ゆっくり文庫】は人種の違いを無視してきた。現代日本人にとって意味が乏しいし、キャラ素材の加工が面倒だったから。しかしウラ少尉は象徴的な存在だ。もちろん、褐色肌の美少女キャラと黒人女性の起用はまったく異なるが、「アフリカ系女性がクルーにいたこと」を示しておきたかった。
 ついでに上半身をはだけたカーク船長に、帽子なしレミリアを採用した。

ゆっくり咲夜:褐色肌
※ゆっくり咲夜:褐色肌
ゆっくりレミリア:帽子なし
※ゆっくりレミリア:帽子なし

なにを見せたいか?

 私が「スタートレック」で見せたいのは、明るい未来のイメージだ。人類は宇宙に飛び出し、異星人たちと調和し、戦争や貧困、差別を克服し、それでいて人間性を失っていない。世界観に合わないエピソードや、ありえない設定も多いけど、陰鬱になりがちな未来予想のなかで飛び抜けた明るさである。
 ワープドライブさえ開発すれば、人類は変われるかもしれない
 根拠のない夢を、みなと分かち合いたい。

映画『スタートレック ファーストコンタクト』(1996)より
※ワープドライブの先へ:映画『スタートレック ファーストコンタクト』(1996)より

 それから冒険も強調したい。私の解釈では、カーク船長は生粋の冒険家だ。惑星連盟の領域内では暮らせない男だ。そしてクルーもまた、似たような傾向があるだろう。彼らは仲間である。そんな空気を演出したい。

映画『スタートレック』(1979)より
※未知に挑む船:映画『スタートレック』(1979)より

 といったことを考えながら、オープニングの解説を作った。文章を書き、素材を用意し、音楽に合わせて調節していく。けっこう大変だったが、満足できる仕上がりになった。こうした説明がオープニングにあれば、だいぶ親しみやすくなったと思う。

 また作りながら、『宇宙大作戦』(TOS)のあとに整理された設定が多いことを再確認した。『宇宙大作戦』だけパブリック・ドメインに入ることはないだろう。再話によって延命されることはないと思うと、気分が暗くなってしまう。ふぅ。

『新スタートレック』(1987)より
※ボーグを混ぜておく:『新スタートレック』(1987)より

【注意】
ネタバレを含みます

テストショットの公開

 オープニングだけでは魅力が伝わらないので、テストショットもつなげて公開する。セリフを読み上げさせるとシーンの不連続が目立ってしまったため、2秒ごとのスライドショーにした。そこに効果音と音楽を載せると、自分でも驚くほど盛り上がった。これで結末を伏せるのはひどいが、やむなし。

予告編

第10話「謎の球体」について

 「謎の球体」は、『宇宙大作戦』(TOS)屈指の傑作エピソードというわけではない。ただ私が好きなだけ。おそらく私はこのエピソードで、「カーク船長=ペテン師」と認識したのだろう。

紅魔大作戦
※タイトル画面

 プロットはシンプルだけど、50分の尺に合わせるためか、間延びした印象を受ける。理想的な姿ではないから整理しよう。【ゆっくり文庫】のテンポなら、あっという間にクライマックスだ。
 ドラマを見る予定もない人のため、結末を書き出しておく。

原作ドラマのエンディング

 撃沈3分前、カーク船長は宇宙回線でベイロックに通告する。エンタープライズ号には秘密兵器「コーボマイト」が搭載されている。コーボマイトに破壊的エネルギーが触れると、同じ量のエネルギーが逆作用によって敵を撃滅するだろう。
 そんな物質はないから、スポックは呆れ返る。しかしベイロックは疑心暗鬼になって、攻撃を中断した。

 エンタープライズ号はフェサリアスの誘導光線に牽引される。そのときフェサリアスの誘導線で事故が発生。救助信号をキャッチする。ついさっきまで自分たちを撃沈しようとした存在だが、カーク船長は即決する。
「船長より伝える。危機に陥った第一連合の誘導船に乗り込む。これは生死の問題だ、人類以外の生命だが生命に変わりはない。以上だ。」

 カーク、マッコイ、ベイリーが乗り込むと、凶悪な顔をした宇宙人の人形と、子どものような宇宙人(ベイロック・真)が待っていた。ベイロックもまたエンタープライズ号を恐れ、試していたのである。
 フェサリアスは全自動化されており、ベイロックは退屈を持て余していた。ベイリーが特使としてフェサリアスに残ると申し出る。
 かくしてカークたちはベイロックと打ち解けることができたのだった。

紅魔大作戦
※それは恐るべき物質、コーボマイトだ。

宇宙大作戦「謎の球体」の結末部分
※宇宙大作戦「謎の球体」の結末部分

ベイリーは必要か?

 デイヴ・ベイリー大尉はゲストキャラクター。軽挙が目立ち、プロフェッショナルなレギュラーと対比されるが、ぶっちゃけ尺稼ぎ要員だ。当初は橙に演じてもらい、本物のベイロック(八雲藍)とフェサリアスに残るプランも考えたが、さしたる感動もないので省いた。ベイリーがいないと、ストーリーはさらにシンプルになる。

紅魔大作戦:ベイリー大尉
※ベイリー(橙)

紅魔大作戦:トランスポーター室
※転送装置

エンディングを変える

 ベイリー大尉を省略すると、ベイロックを置き去りにすることになる。そこでエンディングをちょっと変えることにした。

ゆっくり文庫版のエンディング

 フェサリアスは無人で、会話の相手は人工知能だった。
 本物のベイロック司令官は200年前に亡くなっており、人工知能が主人の墓(フェサリアス)を守っていたのである。人工知能はベイロックの人格を模倣していたため、宇宙ブイで威嚇したり、即座に撃沈しなかったり、コーボマイトを恐れたり、救助信号で底意を試したのだった。
 カークたちはベイロックに黙祷を捧げる。
 人工知能はカークたちを友人として歓待する。

 かくしてエンタープライズ号はフェサリアスの座標を宇宙地図に記録。この宙域の安寧を約束するのだった。

紅魔大作戦:ベイロック司令官はすでに死んでいた
※ベイロックを模倣していた人工知能の対話

どうせ翻案するなら

 このプロットを軸に、キャラクターをていねいに描きたい。原作ドラマにない、私独自の解釈も含まれるだろう。紅魔館メンバー、および文庫劇団の関係性も練り込まれるだろう。すると出来上がった作品は、原作と似て非なるものになる。『ホームズ』や『マープル』、『犬神家の一族』のように。

紅魔大作戦
※原作にない会話

紅魔大作戦
※原作にないシーン

紅魔大作戦
※原作にないキャラ演出

紅魔大作戦
※原作にない設定

 こうなると、原作準拠にこだわる意味が揺らぐ。以前から指摘されていることだが、私の翻案に魅力があるなら、いっそオリジナル作品にすべきじゃないのか? 私は「焼き直し」をオリジナルと称することに抵抗があるが、だったら「焼き直しでない作品はあるのか?」という話になる。今回のように焼き直しが禁じられているなら、それっぽいオリジナル作品を提供するチャンスであろう。

 最後にキャスト比較を載せておく。『紅魔大作戦』を気に入って原作ドラマを見ても、『紅魔大作戦』のような空気は乏しいかもしれない。私は原作を再現しているつもりで、まるで別のものを作っているのだろうか。

紅魔大作戦

紅魔大作戦

紅魔大作戦

制作予定はありません

 現時点では「紅魔大作戦」を仕上げる予定はありません。まず私の手に余る。特殊な素材、効果が多すぎる。
 特撮パートを手伝ってくれる人があらわれても、削除される不安に悩まされたくない。ガイドラインに明確に違反するからね。
 オリジナル作品にすれば大丈夫だろうが、いまはちょっと考えられない。

雑記

 前回の投稿からずいぶん時間が空いてしまった。あのあと文庫系動画の投稿者が集まって、文庫サーバというコミュニティが作られた。その運営やらなんやらで忙しかった。

2019/04/12 - 文庫座談会:本編が投稿される。
2019/05/02 - 座談会シーズン2開催。
2019/06/02 - 座談会シーズン3開催。
2019/06/17 - 星新一作品一斉削除
2019/06/27 - 旋風計画『ゆっくり小泉八雲2』(仮題)を上演予定と発表
2019/07/06 - 座談会シーズン4開催。

 動画は作り続けて、ストックもあるが、編集後記を書く余裕がなかった。そろそろなにかしないと忘れ去られてしまうので、中途半端な作品ではあるが、本作「紅魔大作戦」を投稿した。スタートレックシリーズに興味をもったり、著作権や二次創作を考えるキッカケになればさいわいである。

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