創作  2011年12月12日(月)に書いた 妄想リメイク

[妄想] 仄暗い水の底から

[妄想] 仄暗い水の底から

少女は警告する──

まえがき

『仄暗い水の底から』は良作のホラー映画だった。幽霊より日常に潜む圧迫感の方が怖い。たよれる人のない母親を黒木瞳が好演している。私が知るかぎり、黒木瞳のベストフィルムではなかろうか。
しかしラストは納得しがたい。貯水タンクの疑惑はあいまい、水量攻撃は唐突すぎる。母親の決断も受け入れがたい。10年後のエピローグは完全な蛇足。母親も、娘も、そして例さえも救われないなんて。
そこで、ラストを再構築してみることにした。

引っ越し

仄暗い水の底から

松原淑美(よしみ)は離婚調停中。5歳になる娘・郁子(いくこ)の親権を勝ち取るため、早急に仕事と住まいを見つけなければならない。余裕がない中で引っ越した団地での暮らしは、当初は快適だったものの、安普請が目立ちはじめる。ひどい雨漏り、階上の足音、まずい水道水、広がる天井のシミ......。そして、なにかが居る気配がする。「あと少しの辛抱だから」と淑美は郁子を励ますが、先に自分がまいってしまいそうだった。

消耗

仄暗い水の底から

仕事と家事の両立は困難を極めた。管理人は雨漏りを修繕してくれない。就職先の扱いは劣悪。保育園の先生も高圧的。さらに夫が弁護士を立て、争う姿勢を示してきた。淑美に精神疾患の病歴があることを強調し、揺さぶりをかける。淑美はひどく消耗した。
そのため、郁子の世話が行き届かなくなる。郁子は「大丈夫」と言ってくれるが、かえって淑美はつらくなった。淑美は母親の愛情を受けずに育ったため、よい母親になりたいと願っていたのだ。
そんな中、郁子の奇行が目立ちはじめる。どこかで拾ってきた赤いバッグに固執したり、姿の見えない友だちと会話したり。孤独をまぎらわすため、ごっこ遊びをしているのか?

確信

仄暗い水の底から

淑美は、河合美津子という園児が行方不明になっていることを知る。近所の住人に詳細を教えてもらう。
「あれは2年前かね。美津子ちゃんが家に帰ってこなくなってねぇ。心配した母親がこうして、町中にチラシを貼ったんだけどさ、結局、見つからなかった」
美津子ちゃんは、郁子と同じ保育園に通っていた。
「事故に遭ったのか、誘拐されたのか──。
 でも河合さん──美津子ちゃんの母親は──あまり身持ちがよくなくてね。つまり、夜の商売をしていたんだ。だから交際相手が連れ出した可能性もあって、町の人もあまり本気で心配していなかった。
 ところが3ヶ月後に、母親が自殺したんだ」
「自殺?」
「首を吊ったらしいよ」
「こ、この住所は?」
「あぁ、河合さんの住所だよ」
それは、淑美が住む部屋の直上だった。今は無人なのに、なぜ足音がするのか? 美津子ちゃんが還ってきたのか?

巣窟

仄暗い水の底から

淑美は意を決し、元・河合家のドアを開けた。そこは荒廃しきっていて、水道の水があふれていた。これが雨漏りの原因だった。
部屋の奥に美津子ちゃんがいた。いや、気のせいか?
淑美は直感的に悟った。行方不明の子どもが隠れているんじゃない。美津子ちゃんは死んでいる。幽霊が、郁子を連れ去ろうとしている。
「なにが望みなの? 郁子に関わらない!」
淑美は訴えるが、美津子は応えない。たまらず逃げ出した。

変化

仄暗い水の底から

淑美は引っ越しを決意する。離婚調停に悪影響が出ると、弁護士が止める。弁護士は管理人と不動産屋を呼び、団地の修繕を指示する。水回りと換気がよくなると、部屋が明るくなった。
淑美は貯水タンクの疑惑も告げる。ひょっとしたら、美津子ちゃんの死体がタンクに入っているのではないか。開けてみると、ひどく汚れていたが、死体はなかった。弁護士は近日中の点検と清掃を指示する。
「消耗すると、ないものが見えたりするんですよ。落ち着いて対処すれば、なんでも乗り越えられます!」
アドバイスしてくれた弁護士に、思わず淑美は泣きついた。

事態が好転したかに見えたが、郁美は職場で大失態をやらかし、解雇されてしまう。しかも現場を夫に目撃された。あるいは夫が、淑美の仕事を妨害したのか。これで離婚調停をひっくり返せると高笑いする夫。郁美は絶望し、目の前が暗くなった。

決着

仄暗い水の底から

夜、団地に帰ってきた淑美は、郁子を連れて夜逃げしようとする。ここにいても仕事はないし、親権を失ったら生きていられない。
ところが郁子の姿が見えない。まさかと思って直上の部屋に行くと、郁子は水浸しの部屋で遊んでいた。淑美は郁子を連れてエレベーターに乗るが、なぜか屋上に。反応しないボタンに悪戦苦闘していると、郁子が屋上に駆け出して、あの貯水タンクに登ってしまった。あわてて追いかけ、捕まえる。ぎゅっと抱きしめ、下りようとするが、強風に煽られ目まいを起こす。なにかが足を引っ張っている。
(助けて、助けて、助けて!
 どうしてこんなことに? 私は静かに暮らしたいのに、どうして邪魔ばかりするの!)
そのとき、背後から声がした。弁護士が叫んでいる。そのかたわらに郁子が。では、この子は? 胸に抱いていたのは、美津子の遺体だった!

エピローグ

翌朝

「死体が見つかったんですか!」
警察で検証報告を聞いた弁護士が驚く。所轄の刑事が説明する。
「えぇ。美津子ちゃんの遺体は貯水タンクの底に沈んでいました。もう2年も経ってるし、フィルターによって水質汚濁はひどくありませんが、業者が定期点検を怠っていたようです。正確には、タンクの交換を迫られた不動産屋の依頼で、検査を偽装していたようです」
「それで死因は? 事故死ですか?」
「断定できませんが、殺害されたと見ています。美津子ちゃんは母親に虐待されていた可能性が高い。母親は死体を貯水タンクに投げ入れ、誘拐されたと騒いでいたのでしょう。
 その後、母親が自殺してしまったので、美津子ちゃんの行方を気にする人はいなくなっていました」
「......」
弁護士は言葉もなかった。
そこへ、郁子を連れた夫が顔を見せた。怪我した腕を吊っている。大丈夫ですか、と弁護士が気遣う。もう調停は終わった。郁子は父親が引き取ることになっていた。

あの夜、夫は淑美に刺されていた。淑美は逆上すると理性を失って暴れる性質があった。それこそが離婚の原因であり、夫が娘の親権にこだわる理由だった。いま思えば、部屋で起こった霊障も、淑美が暴れた結果だったかもしれない。
郁子も虐待を受けていた。郁子は叱られないよう、懸命にいい子になろうとした。淑美は、郁子とのいい部分しか見ていなかった。

仄暗い水の底から

警察の質問に答えながら、弁護士はあの夜を振り返る。
弁護士が団地を訪れると、淑美は不在だった。出直そうとするが、郁子ちゃんにねだられ、外出することに。そこへ淑美が帰ってきて、郁子がいないと騒ぐ。やがて幽霊を伴って屋上へ。異常に気づいた弁護士と郁子があとを追うと、
「それで、淑美さんは屋上から身を投げたわけですね」と刑事。
「はい」と答えたが、なにか言いよどんでいるようだ。刑事に促され、弁護士が告白する。
「ぼくは見てしまった。そしてたぶん、郁子ちゃんも。郁子ちゃんには、ずっと以前から見えていたようです」
「なにが?」
「淑美さんは子どもを抱きかかえていました」
「子ども?」
「あれは......美津子ちゃんでした。なのに落ちたのは淑美さんだけ。1人で飛び降りたように見えますが、ちがうんです」
父親といっしょに帰る郁子を見ながら、弁護士はつぶやいた。

「美津子ちゃんの霊は、郁子ちゃんを守っていたのかもしれません」

おわり

書き終えて、「こりゃ、ちがうなー」と思ってる。映画が「母親の愛」をクローズアップさせたのは、いい判断だったのかもしれない。そもそもホラー映画に整合性を求めることがおかしかったかも。
それでもまぁ、自分がすっきりしたのでよしとしよう。

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