第46話:悪魔の弁護 悪魔を弁護するんじゃなくて、悪魔が弁護していたって話ね。 ずいぶん前に書いたんだけど、現実の事件がホットだったので発表を控えていました。

2008年 ショートショート
第46話:悪魔の弁護

「私、悪魔なんです」

 少女は抑揚のない声でつぶやいた。
 つややかな黒髪と、白いブラウスの対比が印象的だ。しかし接見に訪れた弁護士は、発言を聞き流した。
「きみは無罪だ。ぼくがついてる!」
 鼻息の荒さに、少女は肩を落とした。

「いいえ、私は有罪です。たくさん殺しましたから」
「きみが30と2人を殺害したことは、残念ながら事実だ。しかし殺意はあっただろうか? 問われるべきは行為ではなく、動機なんだ」
「殺すつもりで殺しました」
「調書にはそう書いてある。だがね、強要された自白に信憑性はないよ」
「強要されていません」
「きみの主観ではそうだが、長時間にわたる尋問で疲れていたんだよ」
「取り調べは1時間で終わりました」
「客観的にはそうだが、主観的には長かったはずだ」
「......」
「調書なんて作文だよ。警察はまず自白内容を決めて、そのようにしゃべらせるからね!」

 少女の目に落胆の色が浮かぶ。
 この弁護士も、前の2人と同じだ。まず弁護内容を決めて、そのように事実を解釈する。死刑回避が目的なのか、警察がきらいなのか。自分のやりたい弁護のためなら事実の歪曲や隠蔽も辞さないだろう。
 テレビのせいだ、心神喪失のせいだとしゃべりつづける弁護士に、少女は眉をしかめた。

「けっこうです。私、悪魔ですから!」
「悪魔? やっぱり幻覚を見ていたんだね。だったら...」
「うるゼぇな! 悪魔だってイッテンダロ!」
 少女が爆発した。弁護士は吹き飛ばされ、壁に激突する。室内に熱風が吹き荒れた。
 いや、そう感じただけで、部屋の空気は動いていない。
 ゆっくり少女が立ち上がる。その背後に黒いオーラが揺らめいた。

 少女は本当に悪魔だった。
 人間に取り憑いて悪事を働き、死刑になる寸前で地獄に還るつもりだったが、なかなか刑が執行されない。ムカついて弁護士2人をショック死させたのに、事態は進展せず、また同じような弁護士が送られてきた。もう、うんざり!
 弁護士の首をぎりぎり締め上げる。
 そう言えば、前任の弁護士たちは同じことを言いながら死んでいった。

『悪魔なら、なおさら無罪だよ! 悪魔に人間の法律は適用されないから!』

(こいつも同じことを言うかしら?)
 そのとき、指先で電流がスパークした。
 魔素が吸収され、部屋の温度が急激に下がった...ように感じた。
 咳き込みながら、弁護士が立ち上がる。

「ヴるせぇ、小娘。おれの計画を邪魔スルナ!」

 弁護士はさらに上位の悪魔だった。


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