衰退する社会のサービスコンセプト

2012年 社会
衰退する社会のサービスコンセプト

 物議を醸したスカイマークのサービスコンセプトが改訂されていた。

スカイマークでは従来の航空会社とは異なるスタイルで機内のサービスをしております。「より安全に、より安く」旅客輸送をするための新しい航空会社の形態です。つきましては皆さまに以下の点をご理解頂きますようお願い申し上げます。

1. お客様の荷物はお客様の責任においてご自身で収納をお願いいたします。収納が困難と思われる荷物はチェックインカウンターにて事前にお預けください。

2. お客様に対しては従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けておりません。客室乗務員の裁量に任せております。安全管理のために時には厳しい口調で注意をさせていただくこともあります。

3. 客室乗務員のメイクやヘアスタイルやネイルアート等に関しては「自由」にしております。

4. 客室乗務員の服装については会社支給のポロシャツまたはウインドブレイカーの着用だけを義務付けており、それ以外は「自由」にしております。

5. 客室乗務員の私語について苦情を頂くことがありますが、客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なものと位置付けております。お客様に直接関わりのない苦情についてはお受け致しかねます。

6. 幼児の泣き声等に関してはご容認をお願いいたします。航空機とは密封された空間でさまざまなお客様が乗っている乗り物であることをご理解の上で搭乗いただきますようお願いします。

7. 地上係員の説明と異なる内容のことをお願いすることがありますが、そのような場合には客室乗務員の指示に従っていただきます。

8. 機内での苦情は運航に影響が出る可能性がある場合はお受けできません。ご理解いただけないお客様には定時運航順守のため退出いただきます。ご不満のあるお客様はスカイマークお客様相談センター(03-5708-8235)に連絡されますようお願いいたします。

スカイマーク株式会社

https://www.skymark.co.jp/ja/information/service_concept.html

 基本的なところを変えず、言い回しをソフトにしている。また「消費者センター」に丸投げしたと誤解される部分も削除した。当初は「けしからん」と騒ぐ人も多かったが、この文面を批判するのも難しいためか、あまりニュースになっていないようだ。

「うちは格安でやってますから、サービスはしませんよ」
 と言い切る姿勢は、私はおもしろいと思った。

 これに対して、
「老人が荷物を持ち上げられなかったらどうするんだ?」
 という批判もあったが、答えは明快。近くの人が手伝えばいいのだ。電車やバスでは当たり前のことが、なぜ飛行機で通じないのか? 飛行機は貴族の乗り物で、サービスされるのが当然なのか? だったら格安航空会社(LCC)なんか使わなければいい。

 最初の文面を読んだとき、私はクレーマーの脅威を感じとった。
 乗務員の身だしなみや言葉づかい、赤ん坊の泣き声などが、よくクレーマーが指摘するポイントなのだろう。さいわい私は遭遇したことはないが、クレーマーが離陸を妨害するケースはそこそこあるそうだ。天候不順は我慢できるが、クレーマーによる遅延は勘弁してほしい。
 一部のクレーマーが企業に与えるダメージは大きい。だからこそスカイマークは、刺激的な文面で予防線を張ったのだ。

 身だしなみや言葉づかいなど、ちょっとしたサービスがコストになるのか?
 おそらく心労から辞めてしまう乗務員が増えるのだろう。「ちょっとしたサービス」は、けっこうストレスになる。自分の作業範囲がわからなくなるし、果てのない追加に心が折れてしまうからだ。

 クレーマーによる無意味な負担は、結局、利用者の不利益に返ってくる。みんなが迷惑することだが、「やめろ」と注意するのも難しい。本当に困った存在だ。
 しかしクレーマーは、勝つ見込みがあるから文句を言うわけで、このサービスコンセプトがあれば大部分を抑止できるかもしれない。
 私はスカイマークの取り組みを応援したい。

 しかし不安もある。
 企業がサービス低下を許容すると、今度は歯止めが効かなくなるらしい。アメリカ社会は、海外から流入する安い労働力、安い製品に圧倒されて、サービス精神を忘れてしまったそうだ。サービス精神がなくなると、企業は利用者の選択肢を奪うことにかまけ、やがて快適さや安全性もおろそかになる。金融危機の背景にも、そうした精神性の欠如もあるんだろうな。

 私が老人になるころは、空の旅はとんでもなくギスギスしたものになっているかもしれない。それでも今は、サービスを我慢しても格安料金の方がありがたい。

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