創作  2016年04月24日(日)に書いた ゆっくり文庫

【ゆっくり文庫】アシモフ「死角」黒後家蜘蛛の会より

【ゆっくり文庫】アシモフ「死角」黒後家蜘蛛の会より

どこから漏れた?──

原作について

アイザック・アシモフ

アイザック・アシモフ
(1920-1992)

 『黒後家蜘蛛の会』は高校時代、友だちに勧められて読んだ。ぶっちゃけ本編よりアシモフのコメントがおもしろかった。ここから『ファウンデーション』、『神々自身』、『われはロボット』と読み進めた。自分の読書遍歴を振り返るのは妙な気分だ。みなさんは、どんなルートをたどっただろうか?

 安楽椅子探偵(Armchair Detective=現場に赴くことなく事件を解決する探偵)といえばミス・マープルを思い出すが、「火曜クラブ」以外のマープルはふつうの探偵と同じように現場に赴き、関係者の話を聞いている。アシモフは「火曜クラブ」を下敷きに、より理想的な安楽椅子探偵として、ヘンリーを創造した

 給仕という位置づけが白眉だ。ヘンリーはレストラン「ミラノ」から動かず、依頼人(=ゲスト)に質問することさえなく、真相を言い当てる。このスタイルを成立させるべく、6人の会員がありとあらゆる可能性を検証する。よく考えられている。
 ヘンリーは優れた給仕であるがゆえに、主人たちの話をよく聞き、その見逃した可能性に気づくが、主人たちが行き詰まるまで口を挟まない。これほど慎ましい探偵は、他に類を見ない。

「さほどの難題ではございませんでした。
 たまたま、皆さまそれそれに違う筋道を辿られました。
 わたくしはただ、残った道を行ってみただけのことでございます。」

翻案について

 「うp主アンケート」で述べたように、アシモフの作品は紹介したいと思っていた。『黒後家蜘蛛の会』は簡単そうに思えるが、舞台がレストランの一室から動かないし、回想シーンも挿入できない(視覚化するとトリックが露見する)から、映像的に単調になってしまう。またパズルストーリーだからネタバレで台無しになるため、これは無理だろうと判断していた。

 その後、YouTubeでNHKラジオドラマ版『黒後家蜘蛛の会』(1981年放送)を視聴したが──私はストーリーを知っているのに、個性的な声優が演じているのに──だれがだれだか把握できなかった。声だけで6名の会員と1名のゲスト、そして無口なヘンリーを描くのは難しいのだ。

 ふと、【ゆっくり文庫】なら全員を俯瞰できることに気づき、パイロットフィルムを制作したところ、手応えがあったので制作を決意した。当初は十六夜咲夜の初主演作として公開するはずだった(ナンバー030)が、制作期間が伸びて、「守られた約束」、「十六桜」のあとになってしまった。
 時間をかけた分、細かい演出ができたと自負している。

キャラクターの再構築

 原作の描写に近しい東方キャラはいないから、文庫劇団のイメージで再構築した。この6人はミステリーの出演回数が多かったから、一堂に会すると不思議なおもしろさがあった。
 アヴァロンに髭がないとか、ホルステッドが太ってないとか、原作ファンは違和感をもつかもしれないが、目をつむってほしい。
 このキャスティングが成立する背景には、キャストが積み重ねてきた役柄のイメージがあると思う。そういう意味でも、機が熟したと感じる。

原作 ゆっくり文庫
ジェフリー・アヴァロン 《特許弁護士》
Geoffrey Avalon

長身痩躯、口髭と顎髭がある、バリトン、元将校、堅物、仲裁役だがおちゃめ、切手蒐集、音痴、アメリカの歴史に詳しい

Geoffrey Avalon
ゆかり
(モリアーティ教授、*権力者)
マリオ・ゴンザロ《画家》
Mario Gonzalo

毎回ゲストの似顔絵(カリカチュア)を描く おしゃれ、独身、物知らず(世間知らず)、新参者

Mario Gonzalo
れいむ
(ホームズ、*芸術家)
トーマス・トランブル 《暗号専門家》
Thomas Trumbull

政府の役人だが詳細不明、しかめっ面、嫌煙家、遅刻が多い、大げさな言い回し、口が悪い、あけすけな好奇心

Thomas Trumbull
まりさ
(ワトソン)
ロジャー・ホルステッド 《数学教師》
Roger Halsted

ハイスクールの教師、少し吃音がある、リメリック(5行戯詩)に凝っている、口数は少ない、食いしん坊、やや肥満、毛が薄い、マイペース

Roger Halsted
れみりあ
(僧侶、*中軸)
イマニュエル・ルービン 《作家》
Emmanuel Rubin

小柄で分厚いメガネ、博識にして多弁、声が大きい、余計なことを言ってひんしゅくを買う、好き嫌いが多い、酒に強い

Emmanuel Rubin
きめぇ丸
(レストレード、*三枚目)
ジェイムズ・ドレイク 《有機化学者》
James Drake

細長くて四角い顔に口髭、ヘビースモーカーだがよく自分のタバコでむせる、声が聞き取りにくい、三文小説マニア、最古参メンバー

James Drake
ぱちゅりー
(マイクロフト、ポワロ)
ヘンリー 《給仕》
Henry

60代だが顔にシワ1つない

Henry
さくや
(ハドソン夫人、サムライ)

 次に配置である。原作の席順は決まってないが、【ゆっくり文庫】は固定せざるを得ない。いくつか組み合わせて、これに落ち着いた。左上にアヴァロン(リーダー)、右下にドレイク(最古参)を配置して、ゴンザロとトランブル(ホームズとワトソン)、ホルステッドとルービン(罪人と殿様)をセットにした。【ゆっくり文庫】のイメージがあると、それぞれ仲がよさそうに見える。

 それからキャラクターの名前ではなく職業を表示。愛称も使わず、一貫して名前で呼び合っている。だいぶわかりやすくなったと思う。

【ゆっくり文庫】アシモフ「死角」黒後家蜘蛛の会より
※この構図が決まったところで、動画制作の半分は終わった

エピソードを選ぶ

 シリーズ第1話は「会心の笑い」だが、ネタバレで台無しになると思って、第12話「死角」を選んぶ。制作後、どのみちネタバレは回避できないことに気づくが、まぁ、これはこれでヘンリーの位置づけをうまく示せるからいいだろう。

 『黒後家蜘蛛の会』は純粋なパズルストーリーなので、ドラマ性は皆無だ。しかしそれじゃ物足りないので、「落ち込んだロング博士を救う」というテーマを掲げた。やっぱり謎解きはハッピーエンドがいい。

 「死角」が完成すると、このフォーマットでもうちょい作りたくなって、翻案脚本を4つ書き上げた。問題が生じなければ、順次制作したい。

プロットの整理

 『黒後家蜘蛛の会』にかぎらず、ミステリーの序盤は推理に関係ない情報がたくさん盛り込まれる。これはヒントを隠す技巧であり、作品の魅力となるところだが、ゆっくり動画としては刈り込むしかない。ホルステッドのリメリック(五行戯詩)をはじめ、いろいろ削ってしまった。

 NHKラジオドラマ版ではディナーの会話後半をカットしていた。なくても推理できるが、「6人があらゆる可能性を検討するパート」なので、残すことにした。一方、「立ち話から情報が漏れた可能性」を否定するロジックはややこしいので簡略化した。

 【ゆっくり文庫】は繰り返し視聴して楽しめることを目指しているが、今回はどうだろう? ネタがわかって見直すと、不要なシーン(まちがった推理)が多いことに気づくはず。2周目以降は、6人の喧々諤々を楽しんでほしい。

【ゆっくり文庫】アシモフ「死角」黒後家蜘蛛の会より
※じつは推理に関係ない

 男だけで食事会を開く理由や、メンバー各位の人物像といった背景説明もカット。原作でもちゃんと述べられてないし、パズルストーリーに必要な情報じゃない。冒頭モノローグは推敲を重ね、必要最低限のものにした。

 『黒後家蜘蛛の会』の第1巻が発売されたのは1974年だが、アポロ計画は1972年のアポロ17号で終了したから、物語の年代は60年代末になる。船上との連絡方法が無線電話というあたりに時代を感じるが、あれこれ説明しないことにした。
 また本作はアメリカ上流階級の優雅な暮らしを描いているが、そのへんも突っ込まないことにした。

動画制作について

 一幕一場は、【ゆっくり文庫】シリーズ初の試みである。単調さをまぎらわすため、情報のアイテム化、推理の図説、ルービンの巨大化といった工夫を凝らしている。キャラクターの掛け合いを増やしたいが、初回はこのくらいが限界だろう。

【ゆっくり文庫】アシモフ「死角」黒後家蜘蛛の会より
※推理の視覚化

【ゆっくり文庫】アシモフ「死角」黒後家蜘蛛の会より
※映像作品ならではの表現を求めて

ドレイクのタバコ

 ドレイクはヘビースモーカーなので、タバコを吸う演出が欲しい。キャラクターの「口」「他」「アクセサリー」と試したが、画像をキャラ前に重ねる手法になった。紫煙を吐いたり、くゆらせる表現は実装しなかった。技術的に可能だが、制作が面倒になる。いい方法が見つかったら実装したい。

【ゆっくり文庫】アシモフ「死角」黒後家蜘蛛の会より
※喘息持ちのヘビースモーカー

ヘンリー

 最初はヘンリーを(話をするメンバーの背後で)動かしていたが、邪魔になるので固定した。ロング博士やルービンに紅茶を注ぐときも動いていない。
 ヘンリーの見えない(気づかない)サービスを演出するため、ドレイクの灰皿を出し入れしたり、メンバーが紅茶を所望するまえにポットを出すといった演出を加えた。「目立たないけど有能」を映像表現するのは難しい。

【ゆっくり文庫】アシモフ「死角」黒後家蜘蛛の会より
※推理するとき目が開く演出はお気に入り

音楽

 今回は趣向を変えてジャズ・スタンダードを使ってみた。レストラン「ミラノ」の階下から漏れ聞こえる生演奏と思ってほしい。曲名は下記のとおり。

  • Take Five「テイク・ファイブ」 ... 問題提起。サックスのメインフレーズが耳に残る。
  • Take The A Train「A列車で行こう」 ... 状況理解。軽快で親しみやすい。
  • The Girl From Ipanema「イパネマの娘」 ... 推理。ボサノヴァの歌曲。歌声がないとピンと来ないかもしれないが、落ち着いたムード。
  • Autumn Leaves「枯葉」 ... 解決。出だしの物悲しいムードがたまらない。

雑記

 「迷子のロボット」の次に発表するはずだったが、番外編「表現について」で見せたパイロット版の印象が消えるまで、寝かせておくことにした。

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