【ゆっくり文庫】日本の民話「瓜子姫と天邪鬼」 Urikohime - The Melon Princess
2020年 ゆっくり文庫 ファンタジー 日本の民話 日本文学 民話・童話
088 なにを見い出すか──
瓜から生まれた瓜子姫。油断して天の邪鬼の侵入を許してしまう。物語を読みながら、再話について考えてみよう。
原拠について

十返舎一九
「天邪鬼」
『瓜子姫』は『桃太郎』より古いが、知名度は高くない。『桃太郎』ほどポジティブじゃなく、統一されたイメージがないことが原因だろう。しかし、よくわからないところが魅力なのだ。天邪鬼は単体の妖怪キャラクターとして人気だが、瓜子姫も知ってほしい。
ネット検索すると、楠山正雄の『瓜子姫子』がヒットする。読んでみるが、自分の記憶とちがう。私はどこで瓜子姫を知ったのだろう? 瓜子姫は『まんが日本昔ばなし』で取り上げられていない。絵本で読んだのかな?
関連書籍を読むと、次から次へと発見があって収集がつかなくなった。瓜子姫伝承がここまで奥深いとは思わなかった。まだ本を読んでる最中だが、すべて知悉することはできないので、表層だけを動画化した。だれかの興味を刺激できたらさいわいである。
それから多くの人は気づいてないかもしれないが、初のコラボ動画である。
参考リンク
- 楠山正雄「瓜子姫子」
- 青空文庫で読める瓜子姫。西日本の生存ルートで、天邪鬼の惨殺もない。
- 瓜子姫普及委員会
- 日本昔話『瓜子姫』のファンサイト。いろんな情報が集められている。
- (動画)むかしむかしのものがたり#47 瓜子姫
- 石田彰 氷上恭子によるボイスドラマ。上記をベースにしているため、出演者たちは(イタズラしただけで殺害された)天邪鬼に同情している。やはり天邪鬼の恐ろしさがないと、物語が成立しない。
- (動画)The Melon Princess Urikohime (You will be surprised where this story goes) | Japanese Folktales
- 英語で『瓜子姫』を紹介する動画。こちらは東北バージョンのみ紹介してるから、「おっかない話」というイメージが強い。下記サイトで動画の日本語訳と海外の反応を読める。
(海外の反応)海外「ハッピーエンドじゃないのか...」日本の民話『瓜子姫と天邪鬼』のユニークな話に海外興味津々
コメンタリー
今回はキャラクターごとに掘り下げてみよう。
老夫婦:薄っぺらな存在
定番の「善良だが、子どもがいない老夫婦」だが、善良さを示すシーンはない。むしろ「戸を開けるな」と警告したことから、瓜子姫を閉じ込めていたのではないかと疑われる。天邪鬼の変装に気づかず、商品を出荷するように瓜子姫を差し出した。正直、不気味な印象しかない。
なので好ましくない夫婦である「こーりん×ありす」を配役した。【ゆっくり文庫】を見慣れた人は、「あー、見た目ほど平穏な夫婦じゃないな」と連想しただろう。
※親しみを感じない老夫婦
瓜子姫:油断したヒロイン
瓜子姫のキャラ素材は、鬼人正邪(天邪鬼)の改変である。正邪の髪に白と赤のふさは、殺害されたときの恐怖と血の色であろう。この物語のエンディングになるから、2つの特徴を省いたところ、だれだかわからなくなった。
![]() ※天邪鬼 |
![]() ※瓜子姫 |
![]() ※皮かぶり |
成長した瓜子姫は、美貌とスキルを獲得するが、「いえーい」と軽さが目立つ。これは「なんの落ち度もない少女が殺されてかわいそう」ではなく、「美人でも油断したらアウト」と思ってもらうためだ。バッドエンド確定でも、視聴後にストレスを抱えてほしくない。
※調子に乗ってる瓜子姫。
瓜子姫と天邪鬼は瓜二つだが、初対面で情報量が多いと混乱するので、エイリアン画像にした。エイリアンは、ぐぐっと瓜子姫に近づくが、特別な反応はない。他人への警戒心が弱い。箱入り娘であり、油断がある。
個人的には、老夫婦の教育に問題があったわけで、被害者である子ども(瓜子姫)は責められないが、ま、そこは考えないことにする。
※背後に迫る影。
※困っているけど、恐れてはいない。
天邪鬼:狂っている
変身したのか、正体を表したのか、天邪鬼が正邪(瓜子姫そっくり)の姿になる。正邪の目はきょろきょろ動くが、話すときは相手を見ない。瓜子姫が築いた栄誉を奪うことにカタルシスがあったかどうかも不明。ぶっちゃけ、天邪鬼は狂っている、というのが私の解釈。
※相手を見て話さない。
楠山正雄「瓜子姫子」で天邪鬼は老夫婦に甘える。このシーンから、「天邪鬼は両親の愛情に飢えていた」と解釈されることも多いが、私は天邪鬼の不気味さを強調した。
※老夫婦に抱きつく天邪鬼。
天邪鬼による瓜子姫殺害シーンは、ゆっくりで再現するのは困難で、再現する意味もないから、カメラの外で済ませた。手抜きだが、印象は悪くない。引き算成功である。
※瓜子姫の殺害。カメラはずっと固定。
サムライ:命令を遂行するもの
サムライは命令を遂行するだけで、善悪の判断はない。瓜子姫の真贋さえ判定しているか疑わしい。
さくや&めーりんを配役すると、機械的に動くのはおかしく思えた。そこで天邪鬼がみずから正体を明かすシーンを追加。もともと「文庫翻案」に含むアイデアだったが、本編優先である。
※大人・社会人を象徴するさくや&めーりん。
※適当に配置して、調整していく。
※さまざまなパターンを試す。
鳥:告げ口するもの
「瓜子姫が乗るかごに、天邪鬼が乗っていく」
真実を伝える(告げ口する)鳥は、稀神サグメ。動画内で述べたように、天探女は天邪鬼のルーツ。東方Projectでは、稀神サグメは「口に出すと事態を逆転させる程度の能力」を、鬼人正邪は「何でもひっくり返す程度の能力」を持っている。この2つが重なったとき、かごの中身はだれになるのだろう?
※告げ口するサグメは、つまり天邪鬼でもある。
※天邪鬼の殺害も最小限の描写にとどめている。
解説パート
「瓜子姫と天邪鬼」の魅力は、バリーションが多くて、解釈が一定しないところ。なので1つのドラマに集約させず、解説パートを挟む構成にした。
解説パートは少しずつ本編に入り込み、最後で新たなバリエーションを提示する。つまり本作の主人公は語り部2名(文庫と筋之助さん)であり、本編は劇中劇なのだ。
- 瓜子姫の誕生。
- [解説] 瓜子姫ってなに?
- 瓜子姫の成長、警告。
- [解説] 天邪鬼ってなに?
- 天邪鬼が部屋に入って入れ替わる。
- [解説] なぜ気づかない?
- 天邪鬼がサムライに斬り捨てられる。
- [解説] なぜ気づいた?
- [解説] 東西で異なる傾向。
- [解説] 独自翻案
- 文庫:双子説
- 筋之助:二重人格説
キャスティング
私は専門家じゃないから、確たることは言えない。なので「文庫自身」を登場させ、主観的・断片的情報であることを明示した。ひとりじゃ会話にならないが、架空のキャラクターである魔理沙は合わない。そこで対談した筋之助さんを相方とした。
筋之助さんのセリフはおおよそ事実に基づくが、私が勝手に付け足したものもある。「サイテーだな関西人」は私の付け足しであることを告白しておく。
※どこが真実で、どこがイマジナリーか、明らかにできない。
強調しておくが、筋之助さんはイラスト担当として参加したわけではない。筋之助さん自身が日本民話の熱心なファンで、あれこれ考える人物だったから、対談が成立し、その成果物として本作がある。私単独では作れなかった。
筋之助さんが東北人であり、その考え方が本作の説明にマッチしたのは勿怪の幸いである。私はふるさとがないので、地域性をよくわかってなかった。なので文庫サーバで瓜子姫伝承の知識および感想を聞いて回ったのだが、それはまた別の話。
物語と語り部の境界
スタート時は別所で解説していた文庫&筋之助さんは、少しずつ物語世界に入っていく。これはタイムラインを組みながら思いついた演出だが、おもしろくなったと思う。
※劇中劇に入り込む語り部
※ジム・ヘンソンのテレビドラマ「ストーリー・テラー」を彷彿させる。
明日の再話
締めくくりとして、文庫と筋之助さんが新たな解釈を示す。これは対談で出てきたネタをふくらませたもの。「らしくない」との批判もあるだろうが、現代人の感性に合わせることで物語の寿命はぐんと伸びる。「瓜子姫」は統一されたイメージがないから、破天荒な再話もしやすいのではなかろうか。
もちろん、なんでもアリとは思わない。
なにがよくて、なにがおかしいと感じるかは、日本人の古代信仰に根ざしているかで判断できそうだが、このあたりは私もうまく説明できない。
※自分が見つけたテーマで、だれかのために再話する。
文庫系動画、および舞台「ゆっくり小泉八雲 プレザントドリーム」を意識したメッセージだったが、伝わる人には伝わったようで、安堵した。
※ゆっくり文庫とは (ユックリブンコとは) [単語記事] - ニコニコ大百科より
経緯
2019年2月、文庫座談会で正井さんが「コラボやって」と要求。スケキヨさんとの対談を企画するが、スケジュールが合わない。その後、筋之助さんが文庫サーバに参加。
2019年8月20日、文庫ラジオというイベントで「まんが日本昔ばなし」について語り合う。この対談を動画化しようとするが、まとまりがなくて頓挫。このとき話題にのぼった民話のひとつが「瓜子姫と天邪鬼」である。
会話を参考に台本を書き起こす。台本を読んだ筋之助さんは、背景や小道具を描きたいと挙手。テストショット(静止画)を作成して、描いてもらったイラストに置き換えていく。
台本があって、画面構成や動きが見えても、一発でOKが出ることはない。
いろいろ大変だったが、まぁ、楽しかった。
ノウハウを文書化しようと思ったが、コラボ動画を作る人はまれなのでヤメタ。
※文章で指示して、あとから思いついたことを反映させる。
※筋之助さんの調査。
※テストショットからイラストを描き起こし、修正。
※筋之助さんの研究。
※テストショットを更新し、イメージを掴んでもらう。
※思いついたイメージを伝える。
情報のまとめ方、見せ方
最初の台本では、「桃太郎宝蔵入」から日本の絵本文化を解説するパートがあって、それは早い段階で動画化された。その後、私が瓜子姫伝承を調べて、語りたいことが増えて、まとまりを失ってしまう。一部を出力したことで、軌道修正しづらくなっていた。
文庫サーバの設立やセブンさんの来訪などもあって、動画制作は長いこと中断した。
2020年01月10日、セブンさんが「桃太郎」を投稿。ネタがかぶったわけではないが、ふっと肩の荷が下りた。「桃太郎から瓜子姫を説明するパート」を省いて、流れを作ることができた。なにが影響するかわからない。
※あらためて作り直した。
雑記
筋之助さん視点については、あまり語るなと言われているが、まぁ、今回のコラボは楽しんでいただけたようだ。下記イラストは私が指示したのではなく、筋之助さんがたぎって描いたもの。対比させるからもう一枚と注文した次第。
余談。筋之助さんが描いた赤ん坊の耳は尖っている。指示したわけじゃないが、瓜子姫が正常な人間のはずないから、これでよいと採用した。このとき私は、新たな再話パートを省く方針だった。筋之助さんは猛反対。「瓜子姫と天邪鬼は同一人物だった」という伏線になるよう、耳を尖らせたんだって。結局、新たな再話パートは復活したわけだが、そんな邪悪な考えで耳を尖らせていたとは知らなかったよ。
※赤ん坊の耳が尖っている。
2017年、筋之助さんは【ゆっくり文庫】のグリム童話関連の動画を見て、「日本民話も掘り下げてくれ!」と思ったそうだ。そのときは自分も文庫系動画を作って、文庫サーバに入って、私とコラボ動画を作るとは思わなかっただろう。
同じように、私となにか作りたいと思う人はいるのだろうか?
※別の動画のために作られたエンディング
本作は、文庫ラジオで話したことの部分でしかない。「日本民話を語る特別編」は作れるだろうか? 今のところ、流れを作れない。
日本民話は以前から興味をもってきた分野だが、あらためて調べるとおもしろい。