[アニメ] 青い文学シリーズ / すてきな二次創作

2010年 娯楽 アニメ 考察
[アニメ] 青い文学シリーズ / すてきな二次創作

深夜アニメ『青い文学シリーズ (全12話)』がおもしろかった。

2007年に、週刊少年ジャンプの人気漫画家が文学作品の表紙を描き下ろすという企画があった。まさに表紙が変わっただけなんだけど、売り上げが大幅にアップしたらしい。その余勢を駆って制作されたのアニメが、『青い文学シリーズ』。
オムニバス形式になっている。全12話で「人間失格」をアニメ化したと思っていたので、5話で絵柄と舞台が変わったときは猛烈に戸惑ったよ。

  • 1~4話 太宰治「人間失格」
  • 5~6話 坂口安吾「桜の森の満開の下」
  • 7~8話 夏目漱石「こゝろ」
  • 9~10話 太宰治「走れメロス」
  • 11話 芥川龍之介「蜘蛛の糸」
  • 12話 芥川龍之介「地獄変」

それと重要なポイントだが、本シリーズは文学作品をそのままアニメ化したのではなく、原形を留めないほど大幅な脚色が施されている。
ぶっちゃけ、文学作品の二次創作である。
とりわけ夏目漱石の『こころ』は、なにもかもオリジナルと異なるので、同じタイトルをつけちゃっていいのか気になるほどだ。

だが、おもしろかった。
忠実なアニメ化を期待していた人には噴飯ものだろうが、その大胆な解釈、斬新な演出は、1つの新しい作品として評価されうるクオリティだった。このアニメが、文学作品の売り上げに貢献するかはわからないが、興味は喚起できると思う。
各エピソードの感想をメモしておく。

★★★1~4話 「人間失格」

(原作:太宰治、キャラ原案:小畑 健、脚本:鈴木智) 大庭葉蔵はひたすら駄目人間なのに、妙に共感させるところが恐ろしい。次から次へと女性を魅了していく様は、人間失格を越えて、悪魔的なものを感じる。マッドハウスがアニメ化すると、こういうキャラクターになるのか。学生服を着た表紙絵とも印象がちがうよ。 エンディングはエンディングになってないので、いささか物足りないが、映画化されるようなので、そちらに期待してみよう。

★★★★5~6話 「桜の森の満開の下」

(原作:坂口安吾、キャラ原案:久保帯人、脚本:飯塚健) 彰子の毒のある魅力がたまらない。水樹奈々の声と、歌が、恐ろしいほど合ってる。コミカルな演出もセンスがいい。平安時代を舞台にした文学が、こんな風にアレンジされるとは思わなかった。 狂っていたのは彰子か、繁丸か。狂気に理由はあるのだろうか?

★★★★★7~8話 「こゝろ」

(原作:夏目漱石、キャラ原案:小畑健、脚本:阿部美佳) 原作から懸け離れた内容になっているが、いちばんよかった。清楚なお嬢様がふっと近づいてくる。体格のいいKが立っている。人と人の距離感というか、空気の緊張感が見事だった。前編に対する後編が、必ずしも謎解きになっていない構成もうまい。 先生とKを見た以上、お嬢様の視点を見たくなるが、そこは永劫の謎か……。

★★★★9~10話 「走れメロス」

(原作:太宰治、キャラ原案:許斐剛、脚本:川嶋澄乃) こんなシンプルで、こんなストレートな物語に2話もつかって、しかも、おもしろいから驚嘆する。結末はわかっているのに、わかっているからこそ、後編は手に汗にぎるほど興奮した。現実と小説世界を混同させる演出もうまい。しびれた。

★★★11~12話 「蜘蛛の糸」「地獄変」

(原作:芥川龍之介、キャラ原案:久保帯人、脚本:小林雄次、いしづかあつこ) まったく関係ない2つの作品をつなげ、日本人が平均的に感じる架空世界に盛り合わせたのはいいが、感動は今ひとつ。よかったのはラストの壁画。あれは圧巻だった。

考えてみると、これらの作品はパブリックドメインだ。昨今の漫画やゲームをアニメ化するのに比べ、手続きはスムースだったにちがいない。多くの人が新しい物語の創出に血道を上げているが、パブリックドメインを使った二次創作というアプローチもあるんだな。
古典の再利用がよいとは言わないが、目から鱗が落ちる思いだった。


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