[アニメ] 墓場鬼太郎 / あくまでも妖怪です

2009年 娯楽 アニメ 考察
[アニメ] 墓場鬼太郎 / あくまでも妖怪です

 友人Gが熱心に勧めるので、アニメ『墓場鬼太郎』(全11話)を見てみることにした。

 いやはや強烈だった。おもしろいとか、おもしろくないとか、そーゆー物差しでは測れない。友人Gが「強烈!」と言った理由がよくわかる。機会があれば、絶対見ておくべき。これから見る人もいるだろうから、ネタバレしない範囲でレビューを残しておく。

 『墓場鬼太郎』は、『ゲゲゲの鬼太郎』の原作マンガを忠実にアニメ化したもの。私は原作マンガを読んでないけど、読んだ人には「これだよ、これ!」と膝を叩くほど忠実な再現らしい。ちなみに『ゲゲゲの鬼太郎』は、これまでに5回、11年周期でアニメ化されている(『地獄編』、『墓場鬼太郎』をのぞく)。よく覚えているのは80年代の第3シリーズ。キャラが現代風にイメージ刷新され、「人間のせいで居場所を失った妖怪たち」「鬼太郎ファミリーは人間の味方」という構図に整理された。ストイックで正義感が強く、女の子に弱い鬼太郎は、一種のヒーローだった。

 しかし原点の墓場鬼太郎は、ヒーローどころか不吉な厄介者だった。鬼太郎に関わった人間はすべて不幸になっている。なのに鬼太郎は、自分のせいで人が死のうと、大災害が起ころうと気にすることなく、毎日をひょうひょうと暮らしている。こんなキャラクター、見たことがない。

 妖怪の位置づけも独特。妖怪は意識的に人間を襲うことはないが、逆に人間に迷惑をかけても気にしない。『墓場鬼太郎』を見ていると、善だの悪だの言うのは人間だけだとわかる。人間は余計なことをして、あっという間に死んでいく。その様子を見て鬼太郎は、
「父さん、人間っておもしろいですねぇ」
 と感想をもらす。妖怪は人間に同情しないのだ。

 振り返ると、第3シリーズは(おもしろいけど)自虐的だった。あれを見た子どもは「人間は強いのに、悪いことばかりしてる」とか「妖怪さんがかわいそう」という感想を抱くだろう。そうした自己批判も時には必要だが、行き過ぎると精神的に死んでしまう。引き替え『墓場鬼太郎』を見た子どもは、したたかで、おおらかな人物に育つだろう。善悪を超えた領域で、異質なものと共存する素養がつきそうだ。

 ストーリーは「行き当たりばったり」の一言に尽きる。なんの前振りもなく異常なキャラが登場したり、さんざん前振りしたネタを無視されたりする。唐突に話が飛ぶので、「あれ? なにか見逃しちゃったかな?」と戸惑うことも多い。このへんは見なければわからないし、見てもわからないだろう。

 あまりにも強烈で、鬼太郎のことが頭から振り払えない。鬼太郎はもともと1930年代の紙芝居だったらしいけど、こんなストーリーを紙芝居で見たら、夜も眠れなくなりそう。そういえば毎回、なにかが溶けたり、燃やされていた。汚物の描写も多い。詳しいことは知らないが、これらは子どもに強い印象を与える要素なんだろうな。水木しげるワールドの普遍性を垣間見たような気がするよ。

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