[アニメ] Another / Anotherなら死んでた、を回避するアイデア

2012年 娯楽 アニメ 考察
[アニメ] Another / Anotherなら死んでた、を回避するアイデア

 アニメ『Another』 全12話を鑑賞した。

 ぶっちゃけ、私の評価は高くない。理由はミステリーじゃなかったから。まぁ、私が勝手に期待して、勝手に落胆しただけなんだけどさ。
 では、どうすればミステリーホラーになったのか?
 あれこれ考えていたら難しくなってしまったから、日記に書き出してみることにした。なお、この日記は『Another』をはじめ、いくつかの映画のネタバレを含む。これから作品に触れる予定のある人は読まないように。

ミステリーホラーの要件

 ミステリーとは「主人公が謎を解決する物語」である。謎の解決より心理的な緊張が強調されるなら、サスペンス、恐怖ならホラー、興奮ならアクションになる。ミステリーホラーとは、「恐怖の元凶を主人公が解決する物語」となるだろう。
 そしてミステリーとは、作者から視聴者への挑戦である。謎が簡単すぎれば呆れられ、複雑すぎればアンフェアになる。視聴者は、主人公の視点を通じて情報を集め、推理して、謎に取り組むことになる。それゆえミステリーの評価は他のジャンルより厳しくなる。

主人公はなにもしていない

 『Another』はミステリーホラーと宣伝されていたので、そういうつもりで視聴した。前半はなにが起こっているのか、後半はどうすれば解決できるか推理したが......どちらも主人公の行動に関係なく解決してしまった。いや、急場をしのいだだけで、謎は解決していない。

 もう少し具体的に記述しよう。
 前半の謎は、3年3組でメイが無視される理由だった。やがてコウイチ自身も巻き込まれるが、7月の死者が出たことで解除される。コウイチの功績はなにもない。
 後半の謎は、《現象》を食い止めるため、死者を特定することだ。これも、メイの超能力によって解決される。コウイチはアイデアを出すことさえなかった。

 とりわけメイの超能力はひどい。密室殺人の手口がテレポーテーションだったみたいな話だ。そんな能力があるなら、最初から使ってくれよ。メイが早い段階で死者を特定していれば、これほど被害は大きくならなかった。物語としても、「自覚のない死者を殺せるのか?」というサスペンスになったと思う。

プレーンすぎる主人公

 コウイチはきわめてプレーンな人物である。場面ごとに善良そうな言動をするが、周囲に大きな影響を与えることはない。これはおかしいと思っても、空気を乱す場合は沈黙するわけだ。個人的には卑屈な印象を受けるが、コウイチはイケメンで、家事全般をこなし、女の子にモテて、傷を負うこともないなど、バリバリの主人公補正が効いている。やれやれ。

 まぁ、中学3年生であることを考えれば、受動的なのも無理はない。しかし彼は、ホラー小説愛好家である。ホラー小説愛好家が怪奇現象に遭遇したら、もっと切れる行動をしてもらわないと困る。
 現実のホラー小説愛好家が怪奇現象に強いとか、ミステリー小説愛好家が冴えた推理をするわけじゃない。物語の中で「ホラー小説愛好家」という設定を出すなら、それを活かしてほしかった。

Anotherの謎は解けるか?

 さて、批評はこのくらいにして、前向きに考えてみよう。私もホラー小説愛好家だから、「自分ならこうするか?」のアイデアは出しておきたい。

 まず状況を整理する。《現象》のルールは割愛するが、厄介な特徴は2つ。

  1. 怪物が襲ってくるわけじゃないから、予測も回避も不可能。
  2. 関係者の記憶を操作するため、おかしな点に気づくことができない。

 1の特徴は、『ファイナル・ディスティネーション』の死の運命に似ている。『ファイナル・ディスティネーション』の場合は対象者全員に死のフラグが立つため、その順番が問題になるが、『Another』では3年3組の全員が死ぬわけじゃない。誰が死ぬか、いつ死ぬか、何人死ぬかもわからないのは、強烈に厄介だ。
 これは対策の打ちようがない。《現象》がはじまらないようにするしかない。

 2の特徴は、小説『吸血鬼ハンターD』に出てきた貴族の記憶操作を彷彿させる。貴族は人間の遺伝子を操作して、「ニンニクと十字架が吸血鬼の弱点である」と認識した時点で記憶が消えてしまう。そのため、ニンニクと十字架を武器として使えないのだ。おもしろい設定である。
 『Another』でも、死者にまつわる記憶は、そこに触れた時点で改ざんされていくため、死者の特定は難しくなっている。しかも効果範囲は夜見山市に限定されないようだ。いかなる力が介在しているのか。

 さいわい、改ざんは卒業とともに解除されるから、卒業生をヒアリングしたり、千曳さんの記録をひもとけば、改ざんの効果を詳細に把握できるかもしれない。記憶を改ざんされた当人が気づくのは無理だが、記憶を改ざんされた人を観測することはできるだろう。つまり、調査する人と、調査する人を観測する人に分ければ、改ざんが発生するところをポイントして、死者を特定できるかも知れない。
 まぁ、このくらいしか方策を思いつけない。

原因はなにか?

 その年の死者を死に還しても、《現象》そのものはなくならない。《現象》を止めなければ、本当の意味で解決したとは言えない。

 《現象》のルールはわかっているが、原因について推測するシーンはなかった。これほど不可思議な影響をおよぼすのだから、宇宙船が落っこちたとか、異次元の神が召還されたとか、超常的な原因になるだろう。いずれにせよ、ヒントは26年前にある。きっかけとなった夜見山岬の実家をたずねるとか、当時の新聞を読むとか、そうした調査から着手することになるだろう。

 『ファイナル・ディスティネーション』の死の運命は、予言というイレギュラーな方法で死を免れたものたちが、帳尻合わせのために殺されていた。5作目の『ファイナル・デッドブリッジ』では、身代わりの死者を出すことで、自分の死を回避できるというアイデアが提示された。これを下敷きにして妄想すると、下記のようになる。

仮説

 26年前、死ぬはずだった人間が死を免れた。たとえば悪魔と取引したのに、魂を差し出さなかったヤツがいる。怒った悪魔は契約者を殺そうとするが、「3年3組の誰か、もしくはその近親者」しかわかっていないため、えんえん犠牲者が出てしまったのだ。

 最初の死者(=いないもの)はだれか? おそらく夜見山岬だろう。翌年の死者は、彼の弟だった。つまり近親者である。夜見山岬、もしくはその近親者が行った儀式の効果が、いまもつづいている。とすれば、夜見山岬は今も生きているのではないだろうか?
 死ぬはずだった男が死ななかったことが原因なら、彼を殺せば《現象》は止まるはず。

 もし私がAnotherの3年3組に編入されたら、そう考えるかなぁ。

 『Another』は、2010年版の「このミステリーがすごい!」国内編で第3位にランクインした。しかし私の感覚では、本作はミステリーではない。ただのホラーだ。しかし、きちんとした謎解きがあれば、本作がもっとおもしろくなったとは言えない。私が考える「スジが通った話」には、なんの意味も、価値もない。

 しかしそれでも、気になって考えてしまったのだから、しょーがない。
 しょーがないものは、しょーがない。