ARコミュニケーション / 追うものは追われるものに

2010年 科技 デジタル 動画
ARコミュニケーション / 追うものは追われるものに

CEATEC JAPAN 2010で、「ドコモが描く2020年のモバイル世界」というコンセプトムービーを見た。

2020年にはコンタクトレンズに情報を表示できようになり、互いに装着していれば、互いの姿をホログラムのように認識できる。また同時通訳によって、言葉の壁も気にならない。べつの国にいる、べつの言葉を話す友だちとも、気持ちを通わせることができる。
そんな時代が、あと10年で訪れるとNTTドコモは言っていた。

いささか突飛な気もするが、技術の進歩は予測しづらい。ブレイクスルーがあって、急激に普及するかもしれないし、しないかもしれない。たとえば2000年に、これほど液晶モニタが普及するとは思わなかった。
まぁ、無理だと言っても楽しくないので、そんなARコミュニケーションが実現・普及したとしよう。それはどんな変化をもたらすだろう?
N氏と話していて、ふと、BOSSのCM「宇宙人ジョーンズ・2つのタワー」篇を思い出した。

「直接会った方がいいに決まってるだろ」という中堅社員に、「メールの方がいいと思います、正確だし」という若手社員。反論しきれない中堅社員。しかし取引先が「会いに来て欲しい」と言われて、双方の面目が立つ。おそらく取引先も古い世代で、大事なことは会って話したい派なのだろう。

そして未来を想像しよう。たとえば20年後──。

メールを使いこなした若手社員も、いまは部下を育てる立場。近ごろの若者は「ARコミュニケーション」を駆使するのだが、アレは苦手だ。自分の顔や声が相手に見られる緊張感もあるが、偉い人や遠くにいる人がちょくちょくアクセスしてくるのは困惑する。メールなら落ち着いて読み書きできるが、それでは遅いと言われる。手紙より電話の方が早いのと同じで、メールよりARの方が早いのは自明の理だ。
あぁ、就業時間の半分をメールの読み書きに費やしていたころがなつかしい。
ある日、取引先に「メールで打ち合わせしましょう」と言われて、ほっとする。先方もメール世代だった。

追うものは追われる。
IT技術によって先輩たちの仕事を奪った私たちは、今度は追われる立場になる。もちろん、追ってくるのは外国人の若者だ。距離も言葉も関係ないなら、もっとも安価で、もっとも優秀な労働者が、堰を切って押し寄せてくる。
……壁がなくなるって、怖いことだね。