なぜ老人たちはもどってきたか? / トワイライトゾーン「真夜中の遊戯」(KICK THE CAN)
2013年 哲学 ドラマ 考察最近、「真夜中の遊戯」(KICK THE CAN)の意味がわかったような気がする。
1983年に公開された映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』の第2話のことだ。見てない人はたぶん見る機会もないだろうから、オチも含めて書いてしまおう。こんな話だった。
ストーリー(結末まで)
老人ホーム「太陽の谷」(Sunnyvale Rest Home)に住む老人たちは、未来への希望や生きる歓びを失くし、ただ死を待つだけの日々を過ごしていた。
ある日、ブルームという老人が新たに入居する。ブルームは底抜けに明るく、元気のない老人たちを集め、真夜中に缶けり遊びをしようと持ちかける。老人たちは身体が動かないとか、つまらないとか、規則違反だと反対するが、興味をそそられ参加することに。缶蹴りをはじめると、魔法がかかった。
老人たちは少年少女に若返った。身体が軽く、肌がみずみずしい。子どもたちは真夜中の缶蹴りを思う存分楽しんだ。しかし我に返ると、これからのことが気になった。また子どもから人生をやり直したいか? 若いころは楽しいことも多かったが、つらいことも多かった。また働いたり、競争したり、愛する人と別れるのはいやだ。彼らは老人にもどることにした。
しかし1人だけ老人にもどることを拒否し、夜の世界に飛び出していった。「太陽の谷」に住む老人たちは、以前より少し明るくなった。
そしてブルームは、次の老人ホームを訪れた。
なぜ人生をやり直さないのか?
映画を見たとき、老人たちが若返りを望まないのは奇妙に思った。どう考えても人生をやりなおす方がオトクだ。たとえ事故で死ぬとしても、もともと死人のような生活だったのだから失うものはない。納得できない。
1人だけ子どものまま出て行ったことが鮮烈だった。全員が老人にもどることを選べば、老人だから臆病なのかと割り切れるが、そうじゃない。人生に再挑戦したい人もいる。老いて死を受け入れることが正解ではない。ブルームも止めなかった。
枯れてわかる喜び
あれから30年経った。
年をとるともろもろ不自由になるが、欲望に振り回されることは減った。たとえば性欲が減れば、女の子にいいところを見せようと無理したり、空回りすることはない。好かれても、嫌われても、平穏でいられる。衰えたことで気持ちが楽になったといえる。
ある研究によると、幸福のピークが訪れるのは85歳らしい。身体的には若い方が有利だが、若いと欲望にふりまわされ、足りないことに悩む。年をとると、ないものはないとあきらめ、あるがままを受け入れられるのだろう。
私ならどうするか? もし子どもに戻ったら、もう一度人生をやり直したい。苦労があっても、期待感の方が大きい。今はそう思っているが、やがてそう思わなくなるかもしれない。
自分が85歳まで生きられるかわからない。生きられたとしても、幸福感がピークに達する保証もない。ただ、「老い」は、失うことだけでないと気づきはじめている。
というわけで、トワイライト・ゾーンの結末に納得できるようになった。30年もかかってしまった。
試さなかった人について
話を「真夜中の遊戯」にもどそう。
老人たちが缶けり遊びをすることになっても、偏屈なコンロイ氏はひとりベッドに潜り込んでしまった。そして真夜中、子どもたちが遊ぶ声で目覚め、驚く。
コンロイ氏は、窓から出ていこうとする少年が、自分の友人であると気づき、連れて行ってくれとたのむ。しかし少年は首を振って、去ってしまった。ピーター・パンのように。
コンロイ氏は、おそらく人生に納得できていなかったのだろう。しかし偏屈だったため、子どもになれるチャンスを逃してしまった。
ほかの老人たちは缶けりを経験することで、人生の喜びを再確認できた。コンロイ氏も参加すれば、考えが変わったかもしれない。しかしチャンスは失われた。彼は死ぬまで、参加しなかったことを悔やむだろう。
そう思うと、あらためて怖い話だと思った。
スピルバーグとマシスンに乾杯
この日記を書くにあたって調べてみたら、本作はトワイライト・ゾーン第3シーズン21話「Kick The Can」のリメイクだった。YouTubeに動画がアップされていたので、鑑賞する。
結末がぜんぜんちがう。老人たちは全員、子どものまま去っちゃった。つまり「老い」の全否定だ。うひゃー。
このエピソードが放映されたのが1962年だから、スピルバーグは当時16歳。37歳になってトワイライト・ゾーンを映画化するとき、自分の監督作品に本作を選んだセンスに驚愕する。ほかにもっと魅力的なエピソードがあるのに、なぜ本作を選び、このように変えたのか? スピルバーグも結末に引っかかっていただろうか? いや、それ以外に本作を選ぶ理由はない。
リメイクの脚本はリチャード・マシスンだった。あぁ、なるほど。
マニアックすぎてわかる人はいないかもしれないが、自分のメモとして残しておく。