[妄想] ALAN WAKE

2013年 妄想リメイク
[妄想] ALAN WAKE

本編も整理してみた──

まえがき

『ALAN WAKE』のストーリーを整理してみた。


Episode 1: Nightmare

湖畔で目覚めた男

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

 目覚めると、おれは硬いアスファルトの道路に倒れていた。
 頭上には満天の星空。ぐるりと山の稜線が見える。
 ちゃぷちゃぷ水の音がするのは、すぐそこに湖があるから。
 湖から足あとがつづいている。おれはずぶ濡れだった。
 たった今、湖からあがってきたようだ。

(頭が痛い。アリスは? アリスはどこだ?)

 手に紙片をもっていた。これは濡れてない。
 『ディパーチャー』という小説で、著者はアラン・ウェイクとある。

「アラン・ウェイク?
 おれだ。おれの名前だ!」

 名前がわかって、頭がまわりはじめた。
 『ディパーチャー』は次回作に使おうと思っていたタイトルだ。
 するとこれは、おれが書いたのか?
 いや、そんなはずはない。おれはスランプで、一文字も書けなくなっていた。
 だからアリスは......。

 小説を読んでみる。
 湖畔で目覚めた男が、闇をまとった怪人に襲われるシーンだった。
 まさかと思って振り向くと、今まさに森から怪人が出てくるところだった。
(どうする? どうすればいい?)
 戦い方は小説に書かれていた。影は光に弱い。灯りのあるところは安全地帯だ。そこから移動するときは、懐中電灯や発煙筒でやつらを退ける。光で影のバリアーを吹き飛ばして、銃などで攻撃する。あいつらは影。闇に取り込まれてしまった人間のなれの果てだ。

 おれは、書かれているとおりに影を追い払い、逃げた。
 わけがわからない。
 これから起こることが書かれた小説なのか、小説に書かれたことが起こっているのか?

現実を映すテレビドラマ

 おれはガソリンスタンドに逃げ込んだ。発電機を回して、灯りをつける。窓から外を見るが、あいつらは見えない。去ったのか、闇に潜んでいるのか。

 傷の手当てをしていると、テレビが勝手に点いた。『Night Springs』という深夜番組がはじまる。あぁ、おれが駆け出しのころに参加した連続テレビドラマだ。しかしブラウン管に映ったのはおれたちだった。この町にやってきたときの情景だ。おれたちは盗撮されていたのか?

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

Night Springs #1

 アラン・ウェイクはベストセラー作家。しかしスランプのため、この2年は新作を書けなくなっていた。心配した妻・アリスは、ブライトフォールズへの休暇旅行を計画してくれた。
 ブライトフォールズは風光明媚な観光地だった。アランは町の人たちに有名人として注目され、少なからず気分を害したが、コールドロンレイクの静謐な水面や、峨々たる山並みの美しさに心を洗われた。アリスが選んだ宿は、コールドロンレイクに浮かぶ小さな島に立つ、古いキャビンだった。トーマス・ゼインという表札が残っていた。あまりの古さにアリスは恐縮するが、アランは気に入った。不思議と落ち着く空間だった。

 夜、アランとアリスは喧嘩してしまう。アリスが仕事用のタイプライターを持ち込んだからだ。
「ここなら書けるんじゃないかって思って」
「冗談じゃないぞ、アリス!」
 アランはキャビンを飛び出すが、すぐ反省した。アリスは暗所恐怖症で、アランを追いかけてくることはできない。キャビンに帰ろうとすると、アリスの悲鳴が聞こえた。
「アリス?」
 キャビンに戻ると、テラスが破壊され、室内は水浸しになっていた。アリスの姿は見えない。湖からのびた触手が彼女を連れ去ったように見えたのは、錯覚か?
 アランは湖に飛び込んだ。

(つづく)

「そうだ。アリスだ! アリスを探さないと!」
 キャビンのあったDiver's Isleに戻らなければ。しかしここは湖のどのあたりだろう?
 壁の地図があった。発電所跡地、ハートマンロッジ、エルダーウッド国立公園、アンダーソン農場と蒸留所、ラバーズ峠。地図のどこにもDiver's Isleは載っていなかった。
 引き出しに原稿が入っていた。読むと、主人公が電話を見つけ、保安官事務所に救援を要請していた。訝りながらも、そのとおりに行動した。

失われた一週間

 ほどなく保安官がやってきた。小説とちがって若い男だ。ほっと安心するが、男はスタンドの持ち主で、保安官は小説に書かれたとおり、若い女性だった。
「サラ・ブレーカーです。あなたはアラン・ウェイク?」
 名前も小説に書いてあるとおりだった。おれは目まいを起こした。
「大丈夫ですか? なにがあったんです?」
「妻が、アリスが、Diver's Isleで行方不明に」
「どこですって?」
「湖の島です。そこのキャビンに泊まっていたのですが」
「湖に島はありません。1971年に湖底火山の噴火で、なくなりましたよ」
「そんな馬鹿な。いいからキャビンに行ってください」

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

 現地に行ってみると、たしかになにもなかった。
 おれは混乱した。
「あなた、小説家のアラン・ウェイクですか?
 この一週間、どこでなにをしていたんです?」
「一週間?」
「あなたがブライトフォールズに来たのは先週の土曜日。それ以来、連絡がとれなくなったとエージェントが探していたんです」
「なんだって......」
 おれは崩れ落ちた。

Episode 2: Taken

Night Springs #2

 2年前、ニューヨーク──。
 暗所恐怖症のアリスに、アランはクリッカーを贈った。幸せな日々がつづいてた。
 ある日、アランが書いた小説そっくりの殺人事件が発生する。犯人は小説に書いてあるとおりに殺害し、逮捕され、供述したが、アランの小説を読んでいなかった。
 アランが犯罪に関与した疑いはなく、世間も追及することはなかったが、本人が受けたダメージは深刻だった。
 以来、アランは一文字も書けなくなってしまった。ありえないとわかっても、書いた小説が現実になることを恐れていた。

(つづく)

誘拐犯の脅迫

 ブライトフォールズ保安官事務所。保安官にあれこれ質問されたが、なにも話さなかった。
 書いた覚えのない小説が現実になって、影に襲われたなんて、言えるはずもない。

「アラン・ウェイクさん? お電話です」
 そのとき、おれ宛の電話がかかってきた。携帯電話をなくしてしまった。おれがここにいると、だれが知っているのか? 受話器を取ると、聞き覚えのない男の声がした。
「アラン・ウェイクだな?」
「そうだが、あんたは?」
「奥さんを誘拐した。返してほしくば『ディパーチャー』の原稿をもってこい。警察には言うな」
「なんだって?」
「アラン、助けて」電話の向こうからアリスの声が聞こえた。
「アリス!」
「いいか、原稿をもってくるんだ」
「原稿は17枚しかない。あと何枚あるかも知らないんだ」
「全部そろえておけ。足りないと困ったことになるぞ」
「待て。時間をくれ。一週間あれば」
「駄目だ。明日の正午、ラバーズ峠の展望台に来い。独りでだ」
 電話が切れた。おれは真っ青になった。
「どうしました? どなたからの電話でした?」
 保安官が心配してくれる。警察にいるのに、相談できないなんて。くそっ!

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

 そこへ壮年の男がやってきた。
「私はハートマン。精神科医です。アラン・ウェイクですね? 私は奥様に依頼され、あなたを診察する予定でした」
「ふざけるな!」
 かっとなったおれは、ついハートマンを殴ってしまった。トラブルになりかけたとき、エージェントのバリーがやってきて、場を収めてくれた。

休息

 バリーはおれのエージェント。新人時代から支えてくれた親友でもある。一週間前から連絡がつかなくなったため、ブライトフォールズに駆けつけてくれたのだ。
 おれたちはエルダーウッド国立公園の山荘に泊まることにした。

 おれはバリーに事情を話したが、さすがに信じてもらえなかった。
「アリスが誘拐されたんだ!」
「いつ? どこで?」
「一週間前、存在しない島で」
「おいおい......」
「おかしな話をしてることはわかってる!
 だが、アリスの身になにかあったのは確かなんだ!
 現に誘拐犯から電話があった!」
「わかった。わかったよ。でも今は休め。なにか手伝えることはあるか?」
 たしかにおれは疲れていた。明日の正午がリミットなら、いま休んでおいた方がいい。
「あの島、Diver's Isleについて調べてほしい。過去、なにがあったのかを」
「OK、まかせろ。日が暮れる前に帰ってくる。今は休め」
 おれはベッドで眠りに就いた。バリーは調査に出かけた。

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

 目覚めると、どっぷり日が暮れていた。バリーはまだ帰っていない。
 腹が減ったので管理人事務所に向かうが、だれもいない。スナック菓子を買おうとしたら、勝手にテレビが点いた。Night Springsがはじまった。

Night Springs #3

 アランは湖に飛び込んでアリスを捜したが、見つけられなかった。30分が経過し、生存は絶望的になると、暗闇の中でアランは泣きはじめた。アリスがいない茫漠たる時間に打ちのめされていた。
 そこへ、喪服の老婆があらわれた。
「アラン。あなたなら結末を変えることができるわ」
「あなたは?」
「バーバラ・ゼイン。ここの管理人よ」
「どうすればいい?」
「物語を書くの。ついていらっしゃい」
 アランはバーバラに誘われ、キャビンの書斎にもどった。タイプライターの前に座り、一心不乱にキーを打ちはじめた。
 アリスを助かる物語を書く。それがアランに残された希望だった。

(つづく)

 公園の管理人が帰ってきた。
「おい、このテレビ!」
「あぁ、すみません。故障中なんです」
「故障中?」
 見るとコンセントが抜けていた。そんな馬鹿な。
「すみません。小説家のアラン・ウェイクさんですよね?」
「はぁ」
「ファンなんです。サイン、いただけませんか?」
 おれはうんざりしながら、サインした。
「ありがとう。ブライトフォールズの住民は、みんな、あなたのファンなんですよ」
「それはどうも」
 おれはふらふら山荘に戻った。

バーバラの来訪

 部屋に戻ると、暗がりに喪服の老婆がいた。
「あんた......何者だ!」
「アラン。物語はまだ終わっていない。早く書斎に戻りなさい」
「アリスを誘拐した一味か?」
「結末を書くの。それが奥さんを助ける唯一の道」
「近づくな!」
「仕方ない。半分くらい闇に沈めましょう。首だけ残っていればいいわ」
 足元がじわりと沈んだ。闇に呑まれる!
「わぁぁぁぁ!」
 そのとき、バリーが帰ってきて、証明をつけてくれた。
「おいっ、アラン!」
 バーバラは黒い煙になって消えてしまった。おれは腰まで闇に沈んでいたが、バリーに引っ張りだしてもらった。懐中電灯で確認すると、沈むような穴はなかった。
「なんなんだよ、今のは!」
 バリーも超常現象を見て、腰を抜かしてしまった。
 おれは怯えていた。闇に囚われたら、死ぬより恐ろしい運命が待っている。絶対に負けるわけにはいかない。

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

40年前のできごと

 バリーが買ってきてくれた食事を食べながら、おれは調査結果を聞いた。
 わずかな時間だが、バリーの調査は的確だった。

 ブライトフォールズは奇妙な土地だった。昔から失踪や変死が多いのに、まるで注目されないのだ。ほかの都市から引っ越してくる人も多いのに、ずっと人口が変わらない。怪奇現象に慣れてしまっているようだ。
 コールドロンレイクにあった島の持ち主は、トーマス・ゼイン。1970年に島もろとも沈んでしまった。ゼインは有名な小説家らしいが、著作がまったく見つからない。近影も経歴もわからない。「有名な小説家がいた」という記録だけ残っている。
 関係あるかどうかわからないが、島が沈む2週間前、ゼインの妻バーバラが湖で溺死している。しかしその後もバーバラを目撃した人がいて、ちょっとした騒ぎになったようだ。容量を得ない記事で、意味がわからない。記事を書いたシンシア・ウィーバーに聞けば、詳しいことがわかるかもしれない。シンシアは、町では「ランプおばさん」と呼ばれ、ブライトフォールズのいたるところに灯りを点してまわっているとか。発電所の跡地を買い取って住んでいるらしい。

「バーバラの名前は覚えている。あの老婆だ」
「あの婆さんが? しかしバーバラは25歳で死んでるぞ」
「もちろん、あれは人間のバーバラじゃない。小説風に表現するなら『闇の存在』だ」
「闇の存在が、アランになんの用があるんだ?」
「わからない。物語の結末を書けと言っていた」
「この小説がアランの著作なら、おれも言いたいよ。結末を読ませろと」

Episode 3: Ransom

ラバーズ峠の取引

 おれは新たに小説を書こうとしたが、一文字も書けなかった。すでにある原稿を書き写すこともできない。原稿がないまま、誘拐犯と交渉するしかない。
 おれはLover's Peakに向かった。道中、山小屋のテレビで『Night Springs』が放送されていた。いや、これは放送じゃない。だれかが、おれに、なにかを伝えようとしているんだ。

Night Springs #4

 アランは一心不乱に小説を書いたが、ふいにタイプライターを打つ指が止まった。
「アイデアが足りない」
 アランは書斎の本棚にあった本を読んだ。トーマス・ゼインの書いた詩集だ。湖に眠る力がアーティストの想像力に感応して奇跡を起こす。アランはこのアイデアを物語に取り込むことにした。
 物語はホラーの様相を呈してきた。アランは自分の正気を燃料にして、小説を書きつづけた。結末は近い。

(つづく)

 ラバーズ峠の展望台には、片腕の男が待っていた。
 男は銃を突きつけ、奇妙な要求をしてきた。
「このタイプライターで物語を書け」
「なんだって?」
「この腕を元にもどしたい。そういう物語を書くんだ。この原稿のつづきとして。そうだな。Episode3に付け足すんだ」
「ま、待ってくれ。意味がわからない」
「わかる必要はない。あんたは黙って、おれの言うとおりに書けばいい。
 おれの名はモット。彫刻家だ。そら、書くんだ!」
 銃で頭をこづかれる。タイプライターに向かうが、指がうごかない。書けないことを悟られてはならない。
「アリスは無事なのか? どうなんだ!」
「うるせえ! 早く書くんだ」
「ただ、腕がなおった書けばいいのか?」
「バカいうな。物語が必要だろう。おれの腕が元に戻る物語を考えろ」
「そんな無茶な」
 そのとき、にわかに空が曇って、雨がふりだした。周囲が急に暗くなる。男は狼狽し、照明をつけた。窓の外は夜のように暗い。暗すぎる。おかしい。

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

 電線が切れて、展望台の照明が切れた。あわてて懐中電灯を探すが、おれが先に見つけた。
「それをよこせ! やつらが来る!」
「やつらって、あの闇をまとった連中か? あれはなんだ?」
「湖に眠る力に魂を奪われた連中だ。肉体が死んでも、魂はまだ囚われている。
 闇の尖兵になって、おまえを取り戻そうとしているんだ」
「おれを? なんのために?」
「結末を書かせるためだ。闇は、物語の道をつたって顕現する」
「アリスは?」
「ふ、ふふ。アリスなんて知らないよ。おれは監視役だ。
 欲が出て、物語に踏み込んでしまっただけだ」
「おまえがアリスを誘拐したんじゃないのか?」
「誘拐なんかできるわけないだろ! おまえは!」
 ドアが吹き飛んで、突風が吹き込んできた。いや、それは闇の奔流だった。モットと名乗っていた片腕の男は、闇に吸い込まれてしまった。
 闇はおれも襲う。懐中電灯くらいの光じゃどうにもならない。万事休すと思ったが、そのとき展望台の照明が復帰した。

「アラン! 助けに来たぞ」
 頭を強打して、意識を失う寸前、ハートマン医師の顔が見えた。
 畜生。こいつは、最初から見ていたんだ。

Episode 4: The Truth

療養所にて

 おれは、ハートマン医師のロッジ(療養所)にいた。
 ハートマンはアーティスト専門の精神科医。ロッジには多くの元アーティストが収容されていた。ブライトフォールズの繁華街で会ったアンダーソン兄弟もいた。彼らはミュージシャンだった。
 おれを脅していた片腕の男・モットも、ここの患者だった。彫刻家だったが心を病んで、自分で自分の腕を切り落としてしまったらしい。

 ハートマンが録音テープを再生した。アリスがアランの診察を依頼する内容だった。ブライトフォールズへの休暇旅行は、アランを療養所に連れてくる方便だった。
「あなたは奥さんの死にショックを受け、妄想を見ていたんです」
 ハートマンはもっともらしいことを言うが、信用できない。
 ふと気づく。誘拐犯が聞かせたアリスの声は、このテープを編集したものだ。やはりハートマンはなにか知っている。ここを脱出しなければ。いや、その前に手がかりを見つけるんだ。

「ここは照明が多いんですね。異常ではありませんか?」と尋ねると、
「闇は患者を刺激しますからね。ふつうの施設より多いかもしれませんが、理由があってのことです」
 もっともらしい説明だ。しかし本当は、ハートマンも闇を恐れているのだろう。

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

マッド・ティーパーティー

 ハートマンが席を外すと、アンダーソン兄弟の口調が変わった。認知症のふりをしていたのか? 彼らはハートマンこそ異常者だと言う。
「これを持っていけ」
 原稿を渡された。やっぱり原稿はあったんだ。おれは、ハートマンの話がウソだと確信した。

「トム。おまえの書く物語は現実になる。《湖の力》に感応しているからだ。おかしなこと言っていると思うだろうが、おかしなことが起こっているんだから仕方ない。わかるな?」
「《湖の力》ってのはなんです?」
「わからねぇ。わからねぇけど、いることはわかる。
 感受性や想像力の高い人間、つまりアーティストに影響をおよぼしてくる。
 夢の中とか、夢の外とかな。
 ブライトフォールズにおかしな人間が多いのは、そのせいなんだろう。
 でも悪いことばかりじゃねぇ。
 湖の力は、インスピレーションを与えてくれる。
 おかげでおれたちのアルバムは大ヒットした。
 くそっ、酒はねぇのか」
「ハートマンはどういう人間なんです?」
「ハートマンはおまえに物語を書かせようとしている。
 物語を通じて、世界を支配するつもりだ。
 あんた、モットに襲われたんだって? 片腕の男だよ。
 モットはハートマンの指示で、あんたを監視していたんだ。
 気をつけろ。おまえが書く物語は現実になるんだ」
「でも、もう書いてしまった、らしいのです」
「最後まで?」
「いえ、結末はまだ」
「大事なのは結末だ。それですべてが決まる」
「はぁ」
「もう、バーバラのときみたいな失敗はできねぇ。
 シンシアに会ったか? 彼女が保険を預かっているはずだ」
「保険? なんです?」
「知らんよ。まだ物語に書かれてないからな」
「トム、機会があったら農場に寄ってくれ。思い出の品があるんだ」
 なぜか兄弟は、おれをトーマス・ゼインと呼ぶ。
 おれはゼインに似ているのか? 兄弟がボケているのか?

静かな夜

 夜、アランの部屋にあったテレビが点いた。例によって『Night Springs』である。見ようとすると、係員に注意された。
「スノーノイズを見てどうするんだ? 早く寝ろ」
 おれ以外の人間には見えないようだ。そもそもテレビにはなにも映っておらず、おのれ無意識が記憶を呼び覚ましているだけかもしれない。

Night Springs #5

 アランはようやくバーバラの正体に気づいた。彼女こそ闇の存在だった。アランの物語は、闇を復活させる通路になる。物語が完結したとき、すべてが終わってしまう。
「結末を書いてはならない」
 アランは、バーバラの目を盗んで脱出シーンを書き加えた。しかし独力では無理だ。そこで、かつてこの書斎にいた男──トーマス・ゼインにアクセスした。ゼインが光をもたらし、アランは水面へと脱出できた。
 なんとか岸まで泳いだが、そこで気力も体力も尽きてしまった。

(つづく)

ハートマンとの対決

 ふいにロッジが停電した。自家発電に切り替わるが、調子が悪く、明滅を繰り返す。
 あとで知ったことだが、発電機を破壊したのはバリーだった。そこにアンダーソン兄弟が便乗し、ロッジは大騒ぎになった。
 おれは部屋を抜け出し、ハートマンのオフィスを物色した。なにか手がかりを見つけるんだ。
 そこへハートマンがあらわれた。おれは銃をかまえた。

「待ちたまえ、アラン。誤解しないでくれ。私はきみの力になりたい」
「あんたはなにを知ってるんだ? 説明しろ!」
「なにから話せばいいのか」
「最初からだ」
「40年前、この町にトーマス・ゼインという小説家がいた。
 ゼインは、《湖の力》に感応できる人間だった。
 彼はあろうことか、溺死した妻を復活させてしまった。
 しかし湖から帰って来たバーバラは、もう人間じゃなかった。
 闇の存在の化身だった」
「あんたとゼインの関係は?」
「バーバラは私の姉だ。ゼインは義理の兄に当たる」
「それで?」
「私たちはバーバラの異変に気づき、封じることにした。
 あの夜、ゼインは自分の存在もろとも物語を消してしまった。
 だが、完全じゃなかった。
 闇の存在はいまもブライトフォールズに影響している。
 そしてゼインもまた、光となって戦っている」

「均衡が崩れたのは、アラン・ウェイク、きみが見つかったからだ。
 闇の存在は、きみに、新たな物語を書かせようとしている。
 巧妙に、きみをここへおびき出した。
 私自身、きみを見るまで気づかなかった。
 このままだと、きみは闇を呼び覚ましてしまうだろう。
 だからコントロールしなければならない。
 私なら、その方法を教えられる。
 きみと私が手を組めば、最高の芸術を生み出せる。君の才能と私の......」

 演説するハートマンを、おれは遮った。

「アリスはどこだ? おまえたちが誘拐したのか?」
「アリス? きみはまだ......。
 いや、なんでもない。
 アリスは死んだ。それは受け入れなければならない。
 死者に固執するな。ゼインの二の舞になるぞ」
「......おまえは信用できない」
「どこへ行く? 待て。コントロールできないなら、きみは危険だ」
「おれは支配されない。闇にも、おまえにも!」

 そのとき部屋に闇があふれ、ハートマンが飲み込まれた。
 混乱の中、おれとバリーはロッジを脱出した。

「どこへ行くんだ?」
「発電所跡地へ。シンシアに会おう」

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

Episode 5: The Clicker

ランプおばさん

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

 発電所跡地で、おれはシンシア・ウィーバーに会った。

「あぁ、やっと! 長いあいだ、あなたを待っていたのよ。
 闇を追い払うものは『照らされた部屋』にあるわ。
 ダムの中に部屋を作ったの!」

 シンシアはゼインにたのまれ、40年もゼインの「保険」を守ってきた。
 その箱に入っていたものは、クリッカーだった。
 アリスにプレゼントしたはずのクリッカーが、いま、ここにある。
 40年前からここにあったはずがない。
 クリッカーが2つあったのか、私の思い違いだったのか。
 そんな問いは、もう意味をなさない。
 現実が書き換えられたのだ。

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

「いま、ここにクリッカーがある。
 クリッカーなら、闇を完全に打ち払える!
 ありがとう。シンシア。これでアリスを救える!」

Episode 6: Departure

バリーの気付き

 バリーが振り返ると、発電所跡地は廃墟になっていた。灯りが消えただけじゃない。そこかしこ崩れ、何十年も前から廃墟だったように見える。
 考えてみれば、ただの老婆が発電所跡地に住んで、内部を改造できるはずがない。ありえないことばかり起こっている。

「シンシア・ウィーバーなんて存在しない。
 いや、今、存在しなくなった。
 役目を果たしたから」

 バリーは言葉の意味に戦慄した。
 バリーはアランに伝えなかった。アランが振り返ったら、明るい発電所に戻るかもしれないから。

アンダーソン兄弟の農場

 コールドロンレイクに向かう途中、アンダーソン兄弟の農場に立ち寄った。
 ロックスターとして財産を築いた兄弟は、農場を拡大し、醸造所も造ったようだ。
 しかし今はだれもいない廃墟になっている。
 農場を探索していると、テレビが勝手について、番組がはじまった。

Night Springs #6

 アランは現実に帰還したが、一週間分の記憶を失っていた。
 ゼインはアランの行く先々に原稿を置いていった。
 シンシアもアランのため、武器や弾薬、治療薬などを配置した。
 すべてはアランを導くためだった。
 すべては「正しい結末」を書いてもらうためだった。
 40年前、ゼインは闇の存在を駆逐できなかった。
 しかし今、アランが決着を付けてくれる。

(おわり)

 古い写真を見つけた。
 在りし日のゼインとバーバラ、ハートマン、シンシアが写っている。アンダーソン兄弟もいた。彼らは知り合いだったようだ。
 しかしどの写真もゼインの顔が見えない。フレームからはみ出したり、逆光になっていたり。まれに顔が映っている写真も、ハサミで切り取られていた。
「おい、見ろよ」
 バーバラと思われる女性は、アリスそっくりだった。

「あの婆さん、アリスの血縁者か?
 アリスが歳をとったら、あの老婆みたいになるのかね」
「アリスは孤児だ。仮に母親だとしても、こんなに似るのはおかしい。この仕草なんて、アリスそのものだ。これじゃまるで......まるで、同一人物だ」
「おいおい」
「待てよ。バリー、アリスとはどこで知り合ったんだ?」
「アリスはおれの知り合いじゃないぞ」
「なに言ってるんだ。ジェイクのパーティで紹介してくれただろ」
「おれじゃない。おれは参加していない」

 ふたりの記憶に食い違いがあった。
 気がつくと、アリスはそこにいた。当たり前のように恋人となって、結婚した。
 アリスはインスピレーションを与えてくれた。アリスは女神だった。
 すべての前提が揺らぎはじめた。

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

 バリーが疑問を口にした。
「アリスは実在したのか?」
「なんだって?」
「アリスはおまえが生み出した理想の女性なんじゃないか? つまり物語の登場人物なんだ」
「なにを馬鹿な」
「アリスだけじゃなく、ブライトフォールズも、おれも、おまえも、物語の登場人物なんだ」
「落ち着け、バリー。馬鹿なことは考えるな」
「ゼインの顔はなぜ見えない? この顔、だれの顔だろうな?」
「バリー!」
 思わずバリーを殴ってしまった。あやまると、バリーは気にするなと笑う。

「アラン、これから、どうなるんだ?」
「なにが?」
「記憶がもどったなら、書いた分の物語は思い出せるだろう? これから物語はどうなるんだ?」
「あれは......現実じゃない」
「いいから教えてくれ」
「主人公は、ロッジに戻って......最後の選択をする。
 闇の存在を封印すれば、妻とは会えなくなる。
 なぜなら妻は......アリスは、闇の存在の一部だから。
 アリスは、闇の存在を呼び覚ますアーティストを探すためにばら撒かれた分身の1つなんだ。
 アリスには自覚はない。おれにとっても、アリスはアリスだ。
 アリスが戻るなら、世界がどうなってもかまわない。
 おれは、主人公は、キャビンにもどって、そこから先は書いてない」
「おまえは、どう思ってるんだ?」
「同じだ」
「わかった。行こうぜ」
「どこへ?」
「決着をつけにさ。おれはおまえのエージェント。
 おまえのために道を作るのが、おれの仕事だ。
 それに、だ。おれはおまえの最初の読者だ。アリスは2番目。
 いつだっておれが先に読む。これまでも、これからも!」
「バリー」

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

Diver's Isle

 おれたちはコールドロンレイクに戻ってきた。
 バリーが闇人を抑えているあいだに、おれは境界を越えなければならない。

 Diver's Isleは見えないが、ここにあるはず。
 おれは口に出して唱えた。
「おれは橋を渡る。Diver's Isleへの橋だ」
 すると橋があらわれた。
「キャビンはもう、目の前だ」
 キャビンがあらわれた。

 キャビンの中を歩く。おれは言う。
「恐れるものはない。おれは、アリスと再会した」
「アラン。助けに来てくれたの!」
 抱きつくアリスを制止して、おれは言った。
「あぁ、でもきみじゃない。きみは、アリスじゃない」
 悲しげな表情を浮かべたあと、アリスはにやりと笑った。
「私とアリスは、コインの裏と表よ」バーバラの声だった。
「おまえは、アリスでもバーバラでもない。闇だ」
「そうよ、トム。
 あなたが物語を書いてくれたから、私はいのちを得た。
 私は女神になった。これでもう、あなたに殺されなくて済む」
「なんだって?」

 背後でテレビが点いた。
 テレビにアランとアリスが映っているが、それは40年前の光景だった。

Night Springs #7

 自分が書いた小説そっくりの殺人事件が起こって、ゼインは心の均衡を失った。人々もゼインを責め立てた。殺人鬼より、ゼインを恐れたのである。
 それでもバーバラはゼインに尽くした。いつかきっとゼインが立ち直ると信じて。しかしバーバラを待ち受けていたのは、絶望だった。狂気に冒されたゼインは、バーバラを地下室に閉じ込め、自分の妻を殺す小説を書いた。
 小説を発表したあと、バーバラの溺死体が発見された。ゼインが殺したという証拠はなかったが、彼が犯人であることを疑う者はいなかった。

「うそだ。おれは、そんなことをしていない!」

 もう1つテレビが点いた。

Night Springs #8

 ハートマンとシンシアの働きかけによって、束の間、ゼインに理性がもどった。ゼインは妻のために泣き、禁断の知識を紐解いた。《湖の力》を使って、妻を呼び戻したのである。
 しかし狂った人間が起こせる奇跡は、やはり狂っていた。還ってきたのはバーバラではなく、闇の存在だった。

 ゼインは、自分の存在もろとも物語を消し去った。だがゼインは妻をあきらめきれなかった。
「やりなおしたい」
 ゼインは空っぽの箱を用意して、そこに希望を込めた。

「すべて、あなたの望み通りよ。さぁ、やりなおしましょう」

 近づくアリスを、おれは拒否できなかった。
 アリスが暗所恐怖症になったのは、おれの、ゼインのせいだった。
 おれを呼び寄せたのは闇の存在ではなく、ゼインだった。

「アラン。クリッカーを返して」
 だがおれは、クリッカーを押した。
 光が爆発し、アリスは消え去った。

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

 だれもいなくなった書斎で、おれはタイプライターを叩いた。

「正しい結末を書くんだ。今度こそ」

Re: ALAN WAKE
(c)2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.

水面へ

 水底からアリスが浮かび上がってきた。
 湖畔まで泳ぐ。コールドロンレイクには、島もキャビンもなかった。

「アラン。あなたはなんてことを。
 ありがとう。本当にありがとう。
 私はもう闇を恐れない。
 あなたが、新しい命を与えてくれたから」

 アリスは腹部に手を当てる。

「いっしょに生きていきましょう」


あとがき

 投げっぱなしの謎に、すべて道筋をつけてみた。
 ゲームの展開を遮らないように工夫したけど、ここまで変えるなら、オリジナルに固執する意味もないか。
 自分ではうまくつなげたつもりだけど、映像化、ゲーム化したら、やっぱり抜けが多いのかもしれない。

ALAN WAKE
本編・DLC
ほか
考察・妄想リメイク