[妄想] 遊星からの物体X ファースト・コンタクト
2013年 妄想リメイク![[妄想] 遊星からの物体X ファースト・コンタクト](https://trynext.com/story/150/re018.jpg)
物体Xと魔女の戦い──
まえがき
『遊星からの物体X ファースト・コンタクト』(2011)は、カーペンターの『遊星からの物体X』(1982)の前日譚だが、内容はほぼリメイクだった。映像は高精細で、迫力があったけど、「だれがXなのか?」というサスペンス色が薄れ、モンスターホラーに傾いてしまったのは残念だった。主人公を女性にしたことや、言葉が通じない極地という設定はおもしろい。てなわけで、勝手にリメイクしてみることにした。
遊星からの物体X ファースト・コンタクト
序
1982年、南極
ノルウェー南極調査隊の雪上車が、氷原に埋もれた宇宙船を発見する。
カーターは未知への期待感に目を輝かせた。
南極の奥地で宇宙船が発見された。
3週間後、コロンビア大学
古生物学者ケイトの研究室に、サンダー博士とカーターがやってきた。
「サンダー博士。お久しぶりです」
「ケイト。南極できみにやってもらいたい仕事がある。すぐ出発したいから、用意してくれ」
「南極で? 今すぐですか?」
「学長の許可は取った。これがチケット。詳しいことはカーターに聞くといい」
傲慢な物言いに、カーターが割って入る。
「ちょっと待ってくださいよ、博士。ちゃんと説明しましょう」
「わかりました」とケイト。
「え?」とまどうカーター。
「やるべき仕事があるんですね?」
「そうだ。きみにたのみたい」
「では準備します」
「そうしてくれ」
立ち去るサンダー博士。カーターは頭をかいて、自己紹介する。
「ぼくはカーター。ノルウェー南極調査隊に参加している。地質学者だ」
「よろしく」
「南極のクレバスで発見したものを発掘したい。きみが適任者だと、博士が推薦した。彼はまぁ、ああいう人物だけど、彼のネームバリューが必要なんだ」
「いいの。慣れてるから」
「きみたちは、知り合いなのか?」
「彼の研究室で助手をしていたの。私が研究室をもてたのも、彼の口添えがあったからよ」
「それにしても、あの口調はよくないな。王様じゃないんだから」
「それより私の仕事はなんなの? なにを見つけたの?」
「宇宙船だ。それと、地球外生命体の遺体だ」
発掘のため、専門家のケイトが呼び出される。
DAY1
DAY1 南極上空 ヘリコプター機内
ヘリコプター機内での会話。操縦席にデレク、グリグズ。客席にケイト、サンダー博士、カーターがいる。サンダー博士は本を読んでいるが、ちらちらケイトを見ている。カーターがケイトに南極基地の状況をレクチャーする。
「いいかい、ケイト。南極はただ寒いだけの雪国じゃない。ふだんの常識が通じない異世界といっていい。訓練する時間がなかったから、ぼくがサポートする。なにかしたいときは、ぼくに言ってくれ」
「トイレも?」
「そのへんは説明したろ」
「ごめんなさい。わかっているわ」
からかわれても嬉しそうなカーター。
「ケイト。きみにはすまないと思ってる。いま、ノルウェー基地には10名の隊員がいて、ぼくらの到着で15名になる。全員、男。うち英語をしゃべれるのは、ぼくとサンダー博士、それから基地にいるエドヴァルド、ジョシュア、ベーダー、コリンで6名だ。極地で、言葉もわからず、男ばっかりで居心地悪いだろうけど、きみの協力が必要なんだ」
「私は仕事をするだけ」
デレクがノルウェー語でなにか言った。からかわれたカーターが言い返す。怪訝な顔をするケイトに通訳する。
「基地が見えてきたってさ」
窓をのぞくと、ノルウェー基地の全貌が見えた。
ヘリコプターで基地に到着
DAY1 11:00 - ノルウェー基地→発掘ポイント
雪上車に乗り換え、発掘ポイントへ。ずっと無表情だったケイトも、宇宙船を見ると衝撃を受けた。
「さすがに驚いたようだね」と博士。
「は、はい。こんな光景を目にするとは思っていませんでした」
「だろうな。これは世紀の大発見だ。世界中が注目することになるだろう」
博士は得意げに話す。うしろでカーターがジョナスに愚痴る。
「なに言ってんだ。発見したのはおれたちだろ」
「まぁ、仕方ないね」
発見に興奮する隊員たち
DAY1 13:00 - 発掘ポイント
調査隊は氷を爆破し、宇宙船の写真を撮る。そして氷漬けの宇宙人を掘り出した。
「身体に欠損はない。素晴らしい。おそらく船内から脱出しようとして、息絶えたのだろう」
「この個体だけ特別だったのでは?」
「なんだって?」
「この規模の宇宙船で、一体だけ外にいるのは不自然ではないかと」
「根拠はあるのかね?」
「い、いえ」
「ケイト。きみの仕事は発掘だ。解析は私がやる。わかっているか?」
「はい。もちろんです」
「では、きみの仕事をしたまえ」
不穏な空気に、カーターが割り込む。
「待ってくださいよ。博士は彼女のインスピレーションに期待したから招聘したのでしょう?」
博士はなにか言おうとして、言葉を飲み込んだ。
「まず調査だ。解析はそのあとだ」
氷漬けの宇宙人の遺体を掘り出した。
DAY1 17:00 - 発掘ポイント/もうすぐ日が暮れる
氷漬けの遺体を積み込み、基地に戻ろうとするが、雪上車が一台故障した。
「どうです?」
ケイトの質問に、カーターが答える。
「故障箇所はわかってるけど、いま修理するのは難しい。ここでビバークして、明日の朝に出発だな。エンジンは動くし、燃料もあるから、一泊くらい問題ない」
「それなら、私も残るわ」
「雪上車に泊まるのはきついぜ。きみは基地に帰った方がいい」
「もう少し宇宙船を調査したいの。ここまで往復するのは大変だから」
背後から博士が割り込む。
「いいだろう。そうしたまえ。我々は帰投する」
ケイト、カーター、ジョシュア、ヘンリクの4名が現地に残ることになった。
去り際、博士がカーターに声をかけてきた。
「ケイトをよろしくな。気丈に振る舞っているが、あんがい脆いところがある。わかるな?」
「え? あぁ、はい、大丈夫ですよ。ジョシュアとヘンリクもいますから」
「そうだな」
DAY1 20:00 - 雪上車の中
4人は食事を終えた。カーターがケイトに話しかける。
「きみと博士の関係は、なんだか、よくわからないな」
「博士は、私の最初の男よ」
「えぇ?」
「私、子どものころから頭がよかったから、なんでも知性で解決できると思っていたの。でも、ちがった。学会に論文を発表するにことさえ、政治力が求められる。馬鹿馬鹿しいけど、これが社会の仕組みってやつね。だから私は、もっとも効率的な方法を選んだの」
「それじゃ、そのために? きみは、博士と、その、寝たのか?」
「私って、それなりに美人でしょ? だから使えるモノを使ったの。私は博士の秘蔵っ子になり、博士を支え、私自身もアピールした。でもいつしか博士は私を疎ましく思うようになって、別れた。それだけ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「うそよ」
「え?」
「そんなストーリーが好きそうだったから、即興で考えたの」
「うそ? ほんとうに?」
「うそよ」
「ど、どっちだよ」
ジョシュアが笑い、ヘンリクがノルウェー語で説明してくれと言う。
雪上車の上は満天の星空だった。
DAY2
DAY2 10:00 - 発掘ポイント
翌朝、宇宙船の破損部分を調査していたケイトは、あやまって船内にすべり落ちる。球体に触れるとスパークして、ケイトは失神した。カーター、ジョシュアが追いかけてくる。
ケイトは宇宙船に残されたメッセージに触れた。
目覚めると、ケイトはおかしなことを言い出した。
「異物よ」
「え? なに? 大丈夫か?」
「異物が、宇宙船に、入った。それは、同化する」
「それ?」
「だから閉じ込めた。自分たちごと。外に出さない、ために。故郷に持ち帰らない、ために。故郷を、守らなければ!」
「なに言ってる?」「頭を打ったか?」
カーターとジョシュアは英語で、ヘンリクはノルウェー語で心配する。
「異物。危険な異物。閉じ込めなければ」
「ケイト!」
我に返ったケイトは、頭痛に苛まれる。球体は砕けてしまい、触れてもなにも起こらない。
「これは宇宙人の記録媒体?」
「大丈夫か?」
「イメージが、頭に飛び込んできたの。断片的で、つかみどころがない。言葉にすると、イメージが消えちゃって」
ケイトは立ち上がって、船内に目をやる。
「ここに、とても危険なものがいた。遺体だわ。あれは危険よ!」
「落ち着け。きみは夢を見たんだよ。夢でなかったとしても、証拠がない。ぼくたちが信じても、ほかの人は無理だ。わかるだろ?」
「そ、そうね。おかしなことを言ってることは自覚してる」
「船内を探索するか?」
「いえ、基地にもどりましょう。心配だわ」
DAY2 16:00 - ノルウェー基地
基地に帰ると、隊員たちが宴会の準備をしていた。
「やぁ、ケイト。待ちわびちゃったよ」
すでに飲みはじめたコリンが声をかけると、ケイトが詰め寄った。
「遺体はどこ?」
「え? 車庫にあるよ。」
「どっち?」
「通路の奥」
ケイトは走っていった。何事かとほかの隊員が集まってきた。カーターが肩をすくめる。
「カーター! みんな! 来て!」
車庫からケイトの声がした。見に行くと、氷に穴が開いていた。
「なんだこりゃ?」
「あれは、まだ死んでなかったのよ!」
「そんなバカな。ありえない」
「それより、逃げたものを探さないと」
「探すって、どこを?」
「熱でよみがえったなら、外には出ないはず」
「それじゃ基地の中に?」
「凶暴かもしれない。みんな武装して!」
ケイトはてきぱき指示して、隊員たちは捜索をはじめた。
出る幕のない博士はやや不機嫌だ。
宇宙人は死んでいなかった。
DAY2 17:00 - 厩舎
隊員たちが捜索していると、厩舎から吠え声が聞こえてきた。カーターが見に行こうとすると、グリグズが止める。以下、ノルウェー語のやりとり。
「さっき、ヘンリクが見に行ったはずだ」
「それで?」
「帰ってこない」
「おかしいな」
鳴き声がやんだ。カーターとグリグズが厩舎に入ると、暗がりからヘンリクの声がした。うっすら後頭部が見えるが、暗い。
「ヘンリク? そこにいるのか?」
「あぁ、ここは問題ない」
「なぜ灯りをつけない?」
「いま、ちょっと、取り込んで、るんだ」
顔を見合わせる。様子がおかしい。
「ふざけるのはよせ。こっちに来い!」
「待ってくれ。あと少しなんだ」
カーターが灯りを向けると、そこにいたのは怪物だった。ヘンリクの頭はちぎれ、触手の先にぶら下がっている。
「なんだぁ?」
グリグズは状況を理解できず、立ち尽くしてしまった。触手が伸びてきて、グリグズの足に巻き付く。強烈な締め上げで、足の肉が裂けた。
「いでー!」
カーターは発砲するが、効いているかどうかわからない。
「火だ! 火炎放射器をもってこい!」
ほかの隊員たちが駆けつけた。ケイトをはじめ、全員が見た。
ヘンリクの首がしゃべっている。
「待ってくれ。あと少しなんだ。あと少し」
「ヘンリク! おまえ、なのか?」
「ありえない。生きてるはずがない」
「助けてくれ!」
ラーシュが火炎放射器をかまえると、博士が止めた。
「やめろ! 価値がわかっているのか!」
しかしケイトが命令した。
「焼いて!」
ラーシュが火炎を浴びせると、触手の怪物は絶叫を上げた。
グリグズが医務室に運ばれていった。
逃げ出した宇宙人を焼き殺した。
DAY3
DAY3 07:00 - 医務室
翌朝、眠っていたケイトをベーダーが起こす。
「ケイト、これを見てくれ」
顕微鏡をのぞく。エイリアンの細胞がヘンリクの細胞を侵食し、同化していた。
「きみの言うとおりだ。エイリアンは生物に侵食し、同化する。発見されたエイリアンも、同化された犠牲者かもしれない」
ベーダーは目頭を押さえる。疲れているようだ。
「早いですね。完全同化するのに、どのくらいかかりますか?」
「わからない。1時間か、2時間か? 同化するまで動けないのか、同化しながら動けるのか? 相手の体格や体質によって変化するのか? 感染経路は? 空気感染か、それとも寄生虫のようなものが入るのか? 感染した初期状態は意識を保っているのか? ヘンリクはどの時点で死んだのか? 治療は可能なのか?
わからない。なにもわからない」
ベーダーはトレイにある金属を見せた。
「ヘンリクの躯幹からこれが見つかった」
「これは?」
「固定ボルトだ。ヘンリクは足を骨折して、金属を埋め込んでいた。それがなぜか、腹部に移動していた。一部は体外に飛び出していた」
「どういうことです?」
「たぶん、無機質は同化できないのだろう」
コリンが入ってきた。
「先生。きのうの騒ぎで怪我してたみたいでさ。血止めをくれよ」
「診せてみろ」
席を立つケイトに、ベーダーが言う。
「資料を揃えておく。これはノルウェーだけの問題じゃない。早く世界に伝えなければ」
「おねがいします」
それは生物に侵食し、同化する。
DAY3 07:10 - シャワー室
ケイトがシャワー室に入ると、そこは血まみれになっていた。
歯の詰め物が落ちている。
「無機物......」
外からヘリコプターの音が聞こえた。ケイトは走りだす。
DAY3 07:11 - ヘリポート
「あのヘリは! 誰が乗ってるの?」
「グリグズを運ぶんだ。デレクとオラフが乗ってる」
「止めて! あのヘリを飛ばしちゃダメ!」
「なんだって?」
「無線を貸して!」
操縦しているデレクは英語がわからないので、カーターが呼びかける。
以下、ノルウェー語。
「デレク。いったん戻ってくれ。ケイトがなにか確認したいようだ」
「確認? なにを?」
「よくわからない」
「わかったよ。おい、オラフ。グリグズ。お嬢さんが呼んでるってさ」
「おい、グリグズ! おまえ!」
「どうした? やめろ!」
上空でヘリが回転して、山あいに落ちてしまった。一部始終を見ていたカーターが青ざめる。
「グリグズが化け物って、どういう意味だ?」
「グリグズは、エイリアンに同化されていたのよ」
「待ってくれ。ヘリに乗る前、ぼくはグリグズと話したぞ。いつものあいつだった」
「ヘンリクを思い出して。身体だけじゃなく、記憶も同化されるのよ」
「そんなバカな」
「みんなを集めて!」
それは人間に化け、ヘリコプターで外へ出ようとしていた。
DAY3 08:00 - 食堂
ヘンリク、グリグズ、オラフ、デレクが死んで、残り9名。ケイト、カーター、サンダー博士、エドヴァルド、ヨナス、アダム、ラーシュ、コリン、ベーダー。
ケイトは全員に状況を伝えた。英語がわからない隊員のため、カーターが通訳する。
- エイリアンは細胞単位で生きていて、ほかの生物に同化できる。
- 記憶も奪われるため、見分けがつかない。
- この生き物が外の世界に出たら、人類は滅亡する。
- シャワー室で歯の詰め物を見つけたけど、さっき見たら消えていた。
- つまり、グリグズのほか、最低でもあと1人、同化された人間がいる。
- シャワー室を使ったのはだれ?
荒唐無稽な話を、博士が一笑に付す。わざとノルウェー語でしゃべって、みんなの笑いを取る。博士たちは食堂を出て行った。カーターが追いかける。
「待っててくれ。説得してくる」
隊員たちに伝えるが、緊迫感がない。
DAY3 08:10 - 物置
食堂に残されたケイトに、ジョシュアが話しかける。
「さっき、コリンがシャワー室から出るのを見たよ。様子がおかしかった」
「コリンはどこ?」
「物置に入っていった。雪上車の鍵をとるつもりかも」
「どこ?」
「こっち」
物置の奥に入っていくケイト。その背後でジョシュアが変身する。触手に噛み付かれ、ケイトは腕を怪我した。逃げ場はないと思われたが、たまたまベーダーが扉を開けたため、ケイトは逃げ延びた。しかしベーダーはジョシュアに襲われ、同化がはじまった。ケイトが大声をあげる。ラーシュが火炎放射器をもってきて、焼いた。
カーターがケイトを起こす。
「なにがあった?」
「ジョシュアが同化された。私をだまして、襲ってきた。襲われるまで、ジョシュアじゃないって、わからなかった」
「ジョシュアがいつ? どこで変わったんだ?」
「みんな信じて! エイリアンは人間に同化する! まだ安全とはかぎらない! ジョシュアとグリグズと一緒にいた人はだれ?」
「まだエイリアンがいるって言うのか?」
「可能性はある」
カーターがノルウェー語に通訳すると、みな、騒然となった。
「コリンだ。グリグズの手当をして、ジョシュアと無線室にいた」
「コリンはどこだ?」
「コリンの姿が見えないって」
探しに行こうとする隊員たちに、ケイトが警告する。
「気をつけて。1人では行動しないで!」
それはケイトを襲った。人間の会話を理解している。
DAY3 09:00 - コリンの部屋
怖い顔した隊員たちが押し入ってきて、コリンは震え上がった。しかしコリンがエイリアンだという確証はないため、コリンは怒った。ノルウェー語の応酬のため、ケイトはわからない。
「グリグズの手当はしたけど、すぐ血が止まったから、それ以上は知らないよ。そのあと博士が傷を見たはずだろ! 夜、ジョシュアが気象情報を確認に来たけど、それだけだ。あのとき、ジョシュアはジョシュアじゃなかったのか? おれのあと、ジョシュアはエドヴァルドと話していたぞ」
「そうなのか? エドヴァルド?」
「待ってくれ。立ち話しただけでエイリアンになるのか?」
「そういや、今朝の食事は誰が作ったんだ?」
「ジョシュアだ」
「食べ物は安全だったのか?」
「とにかく怪しいやつは隔離すべきだ」
「それなら全員だ」
「待て待て!」とサンダー博士。
「私たちは極地にいるんだ。この人数で隔離なんて意味がない。エイリアンも怖いが、疑心暗鬼になって破滅したら馬鹿だ」
ケイトに向かって、英語で、
「ケイト! みなを煽るのはよせ!」
「煽っていません」
「口答えするな! エイリアンが残っている可能性もあるが、もういない可能性もある。みんな、落ち着こう。しばらく単独行動は控えてくれ。なるべく、いっしょにいよう」
「それでは不足です。エイリアンの有無は、いますぐ確認しなければなりません」
「どうやって? エイリアンが侵入した穴でも探すか? 海に沈めて浮かんだらエイリアン、沈んだら人間か? 中世の魔女狩りじゃないんだぞ!」
「血液を比較します。 採血して、医務室のデータと照合すればわかるはず」
「だれが採血する? だれが比較する? ベーダーは死んだ。だれがやるにしても、そいつが人間でなかったら危険だ」
「私がやります」
「きみがエイリアンじゃない保証があるのか? 腕を噛まれたじゃないか」
「ただの怪我です。意識はハッキリしています」
「エイリアンの同化は、自覚症状がないかもしれない。きみは人間のつもりでも、じつはエイリアンに支配されていて、彼らに利する行動を取るかもしれない。その可能性を否定できるか?」
しかしケイトは折れなかった。
「公平な検査ができる装置を作りましょう」
「私が作ろう」とエドヴァルド。
「ベーダーほどじゃないが、医療の知識もある」
「独りじゃダメよ」とケイト。
「なら、ぼくも手伝おう」とカーター。
疑心暗鬼が広がる。
DAY3 13:00 - 食堂
隊員たちは食堂に集まったが、少しずつ距離を置いている。コリンが席を立つと緊張が走る。
「無線機の調子をみたいんだが、だれか来てくれないか?」
だれも返事をしない。
「独りで行動して、あらぬ誤解を招きたくない。それともなにか、まだおれを疑っているのか? おれが怖いのか!」
「いま、やらなくてもいいだろう」とラーシュ。
「犬が全滅して、やることがないのか?」とコリン。
怒ったラーシュが立ち上がるが、アダムが止める。険悪な空気が漂う。博士もイライラしている。
「くそっ、こんなことで発掘作業が滞ってしまうなんて」
窓の外を見ていたヨナスが声を上げた。
「デレクとオラフだ!」
だれがXなのか?
DAY3 17:00 - 倉庫
武装した隊員たちが、デレクとオラフを取り囲む。ふたりは墜落したヘリから生き延びたというが、だれも信じない。エドヴァルドが撃とうとするが、ケイトが止めた。
「待って。人間の可能性もある。倉庫に閉じ込めておきましょう」
オラフは怯え、デレクは怒った。
振り返ると、研究棟から煙が上がっていた。
みなで消火するが、検査装置は使えなくなった。デレクとオラフに気を取られ、だれが火をつけたかわからない。デレクとオラフの陽動だという人もいるが、説得力はない。それより確かなことは、この中にエイリアンが混じっていることだ。
DAY3 19:00 - 食堂
食堂でもめる隊員たちに、ケイトが呼びかける。
「エイリアンを識別するアイデアがあります」
「どうするんだ?」
「エイリアンは無機物と同化できません。だから、歯の詰め物が残っていれば人間です」
「そんな、あやふやな!」とエドヴァルド。
ケイトは火炎放射器を持っているラーシュに口を開けろとジェスチャーする。ラーシュの口の中を確認すると、ケイトは自分の口の中をラーシュに見せた。言葉は通じないが、ジェスチャーで確認する。
選り分けの結果、ケイト、ラーシュ、ヨナス、アダムは人間。
カーター、コリンは歯に詰め物がなく、サンダーとエドヴァルドは拒否した。
歯の詰め物があれば人間だ。
「それで、私たちをどうするつもりかね?」と博士。
「べつの識別法が見つかるまで、倉庫に入ってもらいます」とケイト。
「どうやって実行する? 英語をしゃべれる人間はいないぞ」
英語で話しかけると、ラーシュは首をふった。わからないようだ。博士がノルウェー語で話しかけたので、ケイトが遮った。
「やめてください。博士!」
「博士。おとなしく倉庫にいましょう」とカーター。
「ダメだ。それが混じっていたら、全員が感染して、全員始末される。倉庫に行くのは、ガス室送りと同じだ!」
「しかし」
博士はノルウェー語に切り替え、カーターを説得する。理解できないケイトは苛立つ。
DAY3 19:00 - デレクとオラフの乱入
そのとき、倉庫から物音がした。緊張が走る。ラーシュとアダムが様子を見に行くが、帰ってこない。やむなく全員で駆けつけると、デレクとオラフだった。ラーシュの火炎放射器をもっている。
以下、ノルウェー語のやりとり。
「おまえら、逃げてきたのか?」とエドヴァルド。
「当たり前だ。おれたちは人間だ。死にたくない」とデレク。
「雪上車の鍵をくれ。ここを出て行けば問題無いだろう」とオラフ。
「ラーシュを殺したのか?」
「気絶してるだけだ。とにかく鍵をくれ」
「駄目だ。危険を外に漏らすことになる」
火炎放射器をもったアダムがやってきた。エドヴァルドがけしかける。
「アダム、焼け!」
「やめろ。人間だ!」
「焼け!」
「よせっ!」
アダムが引き金をひく前に、デレクが発砲。アダムが倒れた。
ヨナスが反撃して、デレクも射殺される。オラフは両手をあげた。
ついに戦闘に。
アダムのタンクが爆発。オラフは破片が刺さって死亡。ショックでエドヴァルドが倒れる。ヨナスが助けようとするが、エドヴァルドが変身し、からみついてきた。顔がひっついた。ヨナスが助けを求める。
「コリン! 取ってくれ! こいつを取ってくれ!」
「い、痛いか? 苦しいか?」
「こ、こ、殺してくれ! 早く!」
ぐりんとエドヴァルドの首が前に出てきて、しゃべった。
「やめろ、コリン。おれたちは大丈夫だ。だだ大丈夫だだ」
身をよじらせ、ヨナスの首が前に来て、しゃべった。
「痛くない。恐れることはない」
恐怖に凍りつくコリンに触手が伸びて、腹に刺さった。
「ひいいいいい」
駆けつけたケイトが、エドヴァルドとヨナスを焼き払う。
「コリン! 怪我はない?」
「やられた。血が! おれの中に! 入った?」
「しっかりして!」
「ひぃ、やぁああああああああ」
コリンが逃げ出した。
同化される。
DAY3 20:00 - 無線室
コリンは無線室に閉じこもった。ケイトがドアを叩いても出てこない。
「コリン! 出てきて! 傷を診せて!」
「いやだ。おれを焼くつもりなんだろう!」
「侵食されたとはかぎらない」
「あんたも噛まれてる。おしまいだ。おれたちはおしまいだ。氷から出すべきじゃなかったんだ! おれは、おれは、おれのまま死にたい!」
銃声が響く。ドアを蹴破ると、コリンは死んでいた。
DAY3 21:00 - 食堂
食堂にもどると、カーターがアダムとデレクの口を開けて検分していた。
「アダム、デレク。オラフも人間だった。人間なのに殺し合った!」
「あとにして!」
「ケイト。もう、ぼくたちしかいない。これ以上殺すな」
「博士はどこ?」
そのとき、窓の外に雪上車のヘッドライトが見えた。博士が雪上車でどこかに出て行った。ケイトとカーターは追跡する。
基地は全焼した。
DAY3 23:00 - 夜の氷原
「どこへ行くつもりかしら?」
「この方角は、アメリカ基地だな」
「逃がさないで!」
「追いついてどうする? 殺すのか? 逃げるのが人間かエイリアンか、どうやって見抜く?」
「わからない。だけど、わからないものを外に出すわけにはいかない」
博士の雪上車が停まっていた。ケイトたちが追いつくと、博士が出てきた。火炎放射器をかまえたケイトを、博士が制止する。
「そこで止まれ。私の話を聞け! 私を警戒すると言うことは、きみたちは人間だな」
「どういう意味です?」
「この状況で逃げ出すのは、人間かエイリアンか区別できない。しかし逃げるものを追いかけるのは、人間だ。エイリアンなら放っておくだろうから」
顔を見合わせるケイトとカーター。
「ケイト、私を信じなくてもいい。論理が正しいと思うなら、こっちにきてくれ。口の中を見せる」
火炎放射器を下げ、ケイトが歩み寄る。
「大丈夫?」
ヘッドライトで博士の口の中を確認するケイト。
「博士」
「ケイト」
見つめ合うふたりに、カーターが声をかける。
「もう基地にもどりましょう」
「そうだな」
ヘッドライトに照らされたカーターを見て、ケイトの顔色が変わる。
「カーター。ピアスはどうしたの?」
「え?」カーターは右耳に手を当てる。
「逆よ」
カーターが青ざめる。ケイトが火炎放射器をかまえた。
「待ってくれ。どこかで落としたんだ。こんなことで決めつけるなんて、まちがっている!」
ケイトはカーターを焼き払った。カーターは火だるまになって、のた打ち回る。しかし変身しなかった。ケイトは念入りに燃やす。
Xを外へ出すわけにはいかない。
「もう十分だ」
博士に止められると同時に、ガスが切れた。
「人間だったの? 私、人を殺したの?」
「いいんだ。もう、いいんだ」
震えるケイトを博士が抱きしめた。
「こんなことになるなんて、思わなかった。きみに、大発見の栄誉を与えたかった。つらく当たってきたが、きみを愛している」
「博士」
銃声が響いた。ケイトが博士を撃った。
「ケイト? ど、どうして?」
血を吹きながら、博士が問いかける。
「こうするしか、ないんです」
「そんな」
どうと博士が倒れた。
可能性をつぶす。
ケイトはふらふら雪上車に行き、手榴弾で2台とも爆破した。すべての作業は右手だけで行われた。ケイトはつぶやく。
「私には南極の知識がほとんどない。これで私は帰れない」
吹雪が強くなる中、ケイトは吠えた。その左手が変異していた。
ケイトもXだった。
DAY4
DAY4 08:00 - エンディング
翌朝、マクマード基地で灯油を補充しマティアスのヘリが帰ってきた。着陸して、大声で呼びかけると、いきなり発泡された。物陰からラーシュが出てきた。マティアスに銃を突きつけ、歯を見せろと言う。
マティアスが人間とわかったとき、基地から犬が飛び出した。一気に走り去る。ラーシュはマティアスのヘリで犬を追跡する。やがてアメリカの基地が見えてきた。
犬がアメリカ基地へ!
《おわり》
あとがき
感染後も自我が残る場合があると設定してみた。エドヴァルドやカーターは、自覚なくXに協力していたことになる。
ケイトは例外的に長く自我が残ったが、いずれ侵食されると気づいた。そして、人間がいるかぎりXを撲滅できないと悟って、自決した。この結末は、ポスターのイメージをなぞっている。「あれはケイトだったのか」と思っていただければさいわいだ。
ケイトと博士の関係はあいまいにした。博士にとっては、ケイトもまた「未知の存在」であり、強く惹かれていた。ケイト自身が博士をどう思っていたかはわからない。大人の関係は複雑だ。
登場人物
- オリジナルを再構築したものです。
- (*)は英語をしゃべれる人。南極観測隊で英語がわからない人はそう多くないと思うけど。
名前 | 役割 | 末期 |
---|---|---|
ケイト* | アメリカ人の古生物学者。ノルウェー語がわからない。 | ジョシュアの触手から感染。発症前に自殺。 |
サンダー博士 * | デンマーク人。エイリアン調査隊隊長。傲慢な碩学。 | ケイトに殺害される。 |
カーター * | アメリカ人の地質学者。ケイトをサポートする。 | エドヴァルドから感染。ケイトに殺害される。 |
デレク | ノルウェー人。ヘリコプター輸送チームの操縦士。 | 人間のまま、ヨナスに撃たれる。 |
グリグズ | ノルウェー人。ヘリコプター輸送チームの副操縦士。 | ヘンリクから感染。ヘリ墜落で死亡。 |
エドヴァルド * | ノルウェー人。南極基地の隊長。サンダー博士の友人。 | ジョシュアから感染。ヨナスと融合し、ケイトに燃やされる。 |
ジョシュア * | フランス人の地質学者。気さくな優男。 | グリグズから感染。ラーシュに燃やされる。 |
ベーダー * | ノルウェー人の医師。 | ジョシュアに襲われて、同化前に燃やされる。 |
ヘンリク | ノルウェー人の機械技師。 | エイリアンから感染。ラーシュに燃やされる。 |
アダム | ノルウェー人の地質学者。 | デレクに火炎放射器を向け、先に撃たれる。 |
ヨナス | ノルウェー人の極氷研究者。 | エドヴァルドに融合され、ケイトに燃やされる。 |
オラフ | ノルウェー人の雪上車運転手。 | ボンベの爆発で死亡。 |
コリン * | 英国人の無線通信技師。変わり者。 | 絶望して自殺。 |
ラーシュ | ノルウェー人。犬飼育係。 | 気絶していたが、のちに目覚める。アメリカ基地へ。 |
マティアス | ヘリ操縦士。補給のためマクマード基地にいて不在。 | ラーシュとともにアメリカ基地へ。 |
感染順序
下記のように感染した。ヘンリクが変身したとき、エイリアンとヘンリクの遺体に気を取られ、グリグズに注意を払わなかったことが致命的だった。
- エイリアン(宇宙で)
- ヘンリク(厩舎で)
- グリグズ(厩舎で)
- ジョシュア(医務室で)
- ケイト(物置で)
- エドヴァルド(夜の廊下で)
- カーター(研究室で)
- ヨナス(食堂で)
- ジョシュア(医務室で)
- グリグズ(厩舎で)
- ヘンリク(厩舎で)
こんな物語を見てみたかったと思うんだけど、どうだろう?
遊星からの物体X | |
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