夏の吉川出張(1/4) 健菜コシヒカリのふるさと、吉川へ
2012年 新潟県 #吉川出張健菜倶楽部の吉川取材に同行させていただいた。
新潟県上越市吉川区は、なにもない山奥と聞いていたが、本当になにもない山奥だった。しかし陳腐な言い方になるが、私たちが失ったものがたくさん残っていた。1泊2日の短い滞在だったけど、受けた刺激は大きかった。諸般の事情で詳しく語れないところもあるが、体験したことをざっくり紹介したい。今回参加できなかったN氏のためにも。
※L氏の車で連れて行ってもらった
健菜倶楽部の吉川出張
健菜倶楽部は、永田農法による野菜・果物の宅配サービス。私はN氏の紹介で、社長のL氏と知り合って、そのホームページを再構築した。以来、よく3人で飲んでいる。
健菜倶楽部は全国の契約農家から野菜を仕入れている。そのうち、健菜コシヒカリは吉川の棚田で栽培されている。健菜コシヒカリはべらぼうに高いが、べらぼうに美味しい。L氏は年に何度か吉川を訪れ、販促用の写真を撮影したり、農家の方々と親睦を深めている。今回は、その出張に同行させてもらったわけだ。
私自身は仕事がないため、スタッフのあとをついて歩くだけ。らくちんだが、段取りがわからず、土地勘もないため、けっこう目がまわった。
※販促用の写真を撮影する
※モデルをしてくれた姉妹
※私は遠巻きに見てるだけ
※いろんな撮影があった
新潟県上越市吉川区
吉川区は直江津港の北東の山奥にある。標高300メートル前後で、近くにある目印と言えば、標高757メートルの尾神岳くらい。鉄道、高速道路からも離れているし、一般道さえわずか。本当の本当になにもない。
棚田のいいところ、悪いところ
ホームページを作るとき、棚田の写真はたくさん見たけど、現地を訪れるとだいぶ印象が変わる。一面に広がる棚田......ではなく、あっちに少し、こっちに少しと点在しているのだ。ブナの原生林に覆われているため、全体を把握するには空を飛ぶしかない。
(なんで、こんな山奥に棚田を作ったのだろう?)
棚田の作業効率はきわめて悪い。ちょっと移動するにも高低差があるし、水田は小さく不定型だ。しかし山の斜面で水はけがよく、幹線道路も市街地もないから空気が澄んでいる。詳しくは後述するが、水田の質のよさ、山菜の美味しさは感動的だった。
※あの山から見れば、全体が見渡せるかも
まぁ、自然の豊かさをアレコレ形容しても、耳に入らないだろう。私もそうだった。この感動は、現地を訪れないとわからない。
※田んぼにはいろんな生き物がいた
※アマガエルくん
もちろん、いいことばかりではない。このあたりは日本有数の豪雪地帯で、冬は3メートルも雪が積もる。なので毎朝1時間の雪かきをしないと、家が潰れてしまう。農家にとっては1円のトクにもならない重労働だ。田植えを終えた今ごろがもっとも過ごしやすく、美しい季節なんだって。
※山あいに作られた田畑。観光で訪れても見られない。
※いろんな水田を見させてもらった。奥に見えるのは尾神岳。
※休耕地になってしまった棚田
「集落」という単位
吉川区の世帯数1,538、総人口4,910人(2011年7月末)。いくつかの集落にわかれ、山肌を開墾した棚田や畑で農業を営んでいる。1つの集落における世帯数は3~5くらい。世帯数は減りつつあるが、ごくまれに新たに就農する若者もいるようだ。
私は山に住んだことがないので、「集落」という単位がよくわからない。健菜倶楽部は複数の集落と契約しているので、今回はあっちこっちに移動できた。GPSが使えなかったので正確な距離はわからないが、けっこう離れている。いまはクルマがあるからいいけど、むかしは集落ごとに隔絶されていたんだろうな。
※軽トラで移動する
結(ゆい)
農家は協力して田植えや草取り、畦の修復、収穫などをやっていた。「結(ゆい)」という作業制度で、1人では多大な労力、時間、費用がかかることを、集落の住民総出で助け合っている。分業じゃないから、「自分はこれしかやらない」「あっちは自分の持ち分じゃない」といったことは起こらない。相互扶助の精神である。
一方、都会の生活は「世帯」から「個人」単位に縮小している。年金にしても、生活保護にしても、すべてが個人単位になった。相互扶助の必要性が減って、なんでも個人に帰結することが、成熟した社会と言えるんだろうか? 考えさせられる。
※看板を立てるポーズ
農家は貧しいのか?
今回の取材では、たくさんの農家の方々とお会いした。やはり高齢者が多い。農作業はきついし、自然の気まぐれに振り回されてばかり。
だけど皆さん......めちゃくちゃ頑健で、めちゃくちゃ陽気だった。60を過ぎても新たな農法や新たな趣味にチャレンジしている。そのバイタリティに圧倒される。同じ国に、就職できずに自殺する若者がいるとは思えないほどだ。
※農具置き場:ときおりここで酒盛りしているそうだ
※田植えの風景
農家と言えば、受難。搾取され、苦役を強いられている人々......と思いがちだが、本当にそうだろうか? 私たちはどれほど地方の農家を知っているだろうか? たくさん稼いで、たくさん消費すれば幸福なのか?
もちろん、地方の農家が絶対的に素晴らしいとは言わない。腐海の毒に慣れた人間が清浄な空気に血を吐くように、都会の価値観に染まった私たちが地方の農家になれるとは思えない。あぁ、どうしてこうなった?
※お邪魔します
なぜ、なにもない山奥に住むのかではなく、なぜ、なにもない都会に住むのかを問うべきだった。
(つづく)
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