第9地区 District 9

2009年 外国映画 5ツ星 モキュメンタリー 地球外生命

これほど刺激されるSF映画も久しぶりだ

難民エイリアンが南アフリカで隔離されている。よくそんな状況を思いついたもんだ。ドキュメンタリー形式の映像がリアリティを高める。エイリアンを題材にしてるのに、すごく身近な問題に思えてしまう。
主人公ヴィカスは、うんざりするほど小市民。正義でも悪でもなく、自分のことで頭がいっぱい。そんな彼が見栄を張って、強がって、驚き、おびえ、のたうち、希望を見いだし、反撃して、力尽き、運命に身をゆだねる。すべてを失い、くず鉄の花が残る。なんという運命だ。

SF的な背景はほとんど言及されない。彼らはなぜ地球に来たのか(捨てられたのか)? 支配者層でなにがあった? 彼らの星はいまもあるのか? そして3年後は? 語られなかった部分が想像力を刺激しつづける。

人間がエビに変わるなら、人間とエビは同種と言える。そう考えれば、これほど短期間で交流できたことも納得できる。エビたちは無気力で、ただ消費するだけの生き物だが、彼らがそうなった理由を想像すると、ぞくりと怖くなる。
人間を人間たらしめているのは技術ではなく、教育なのだ。人間とエビの差異は、驚くほど少ない。この映画に映っていたのは、最初から最後まで「人間」だけだった。

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