ズートピア Zootopia

2016年 外国映画 5ツ星 SF 主人公は動物 刑事・警察 管理社会

どきりとするメルヘン

動物たちが文明をもち、平和に暮らす大都会「ズートピア」。子どもの絵本にありそうな世界観を楽しく、そして深く描いている。
たとえばジュディの実家には275匹の兄弟姉妹がおり、「バニーバロウ」の人口は秒刻みで増えている。天敵がいないため、爆発的増殖を抑えられないのだ。一方、劇中に出てくる食べ物はアイスやベーグルなどの植物由来のものばかり。ハンバーガーを食べていたら、「それはなんの肉?」と突っ込まれただろう。このあたりのバランスがいい。

当初の設定では、ズートピアに住む肉食動物は感情の起伏を抑える首輪を装着する義務があったらしい。SFファンは大喜びするだろうが、子どもたちは眉をひそめ、映画を見る人は半減しただろう。

最初は「人間を動物に置き換えただけのサクセス・ストーリー」と思うが、「文明が発達しても差別や偏見、動物としての本能が消えない現実」を突きつけられ、動物と人間のちがいがないことに気づく。さらに「肉食動物と草食動物がいっしょに暮らすことの矛盾」を突きつけられ、だれもが「ズートピアはありえない」と思うところで、ボゴ署長が断言する。

世界はずっと前から壊れている。
だからこそ良い警官が必要なんだ! お前みたいな!

私たちの社会と同じだ。人種、性別、宗教、能力のちがいを努力でつなぎとめている。私たちは不自然な世界に生きている。不断の努力がなければたやすく崩壊してしまうのだ。

気軽に楽しめるが、ずしりと重いものが心に残る。

いい映画だった。

ページ先頭へ