ジム・ヘンソンのストーリーテラー (全9話) Jim Henson's The Storyteller

1989年 海外ドラマ 4ツ星 ファンタジー:剣と魔法 ファンタジー:童話

即興や脱線を交えて語られる物語

When people told themselves their past with stories, explained their present with stories, foretold the future with stories, the best place by the fire was kept for the storyteller.

人々が過ぎ去った日の思い出話をする時、いま起きてることを語り合う時、はるかな未来に思いを巡らす時、なぜか好むのが暖炉のかたわら。それはこの昔ばなしの語り手も、同じこと。

80年代にレンタルビデオという商売がはじまって、テレビ放送を待ったり、映画館へ行かずとも映像作品を楽しめるようになった。私は夢中になってビデオを借りまくった。『ストーリーテラー』はそのとき出会ったタイトル。テレビ放送されなかったから、レンタルビデオがなかったら知り得なかった。

マペットの表情も素晴らしいが、影絵やお皿の絵柄で経緯を説明したり、立体を無視した表現に驚嘆した。語り部が物語に干渉したり、干渉されたり、犬との会話で展開が変わることも驚いた。そんなふうに物語を描いていいのか。
多大な影響を受けた。

エピソードリスト

ハリネズミのハンス
#01 ハリネズミのハンス Hans My Hedgehog

[あらすじ] ある夫婦がハリネズミのように醜い子ども・ハンスを授かった。父親に愛されなかったハンスは家を出た。二十年後、ハンスは王を助けたことで姫を娶る。姫はハンスを信じ、ハンスは人間に戻った。

[感想] 後半のハンスが不気味。人間の姿に戻っても不信感は拭えず。犬が「以前聞いた話がちがう」とつっこみ、勝手に語り始める。語るたび物語が変わっていきそう。そういうのもアリか。

恐怖を知らなかった少年
#02 恐怖を知らなかった少年 Fearnot

[あらすじ] 恐れ知らずと呼ばれた少年が、恐れを学ぶため旅に出た。結果的に魔物を退治して英雄になるが、恐れを知らないまま。故郷に帰ると恋人が死にかけていて、少年は恐れを知った。恋人は目覚め、ふたりは結婚した。

[感想] 恐れは知らないが、愚鈍じゃないのね。商人はなにを学んだだろう? 原拠はグリム童話4「こわがることをおぼえるために旅にでかけた男」で、落語のようなオチだった。太古の民話を、ありのまま映像化しているわけじゃない。

最後の一話
#03 最後の一話 A Story Short

[あらすじ] 語り部は一年間、毎晩ちがった話をすると王様に約束した。しかし最後の一日、最後の一話を思いつけない。語り部は1年前に助けてやった物乞いとの賭けに敗れ、全財産と妻を奪われ、自身もノミに変えられてしまった。物乞いは料理番、王様をたぶらかして、消えた。という夢を見たと語ると、王様は大喜びした。

[感想] 石のスープ(ポルトガルの民話)から、よく膨らませている。途中で物乞い視点になって戸惑うが、最後で納得。語り部に妻がいたことも新鮮。

幸運の持ち主
#04 幸運の持ち主 The Luck Child

[あらすじ] いずれ王になる幸運の赤子が生まれた。王様はその子を谷底に落とすが、赤子は生き延び、ラッキーという青年に成長した。王様はラッキーを殺そうとするが失敗、大切な姫と相思相愛になってしまう。結婚を認める条件として「グリフィンの金の羽」を所望するが、これも果たされてしまった。欲に駆られた王様はグリフィンの島へ行こうとして、渡し守の呪いを受けた。

[感想] 髪をさすると成長するシーンがかっこいい。王様がなにもしなければ、破滅することはなかった。

兵士と死神
#05 兵士と死神 The Soldier And Death

[あらすじ] 正直者の兵士は3人の物乞いにビスケットを与え、代わりに口笛、踊り、トランプと袋をもらった。兵士は鬼を退治し、死神を閉じ込めるが、冒険がたたって死ねなくなってしまう。

[感想] 真っ赤な鬼どもが楽しい。犬がギリシャ語をしゃべる。兵士は正直者だが、報われないのは意外。なにをどうすればよかったのか?

本当の花嫁
#06 本当の花嫁 The True Bride

[あらすじ] トロールに育てられた孤児の少女。白いライオンに助けられ、宮殿に住まう身となった。やがて夫となるべき人を見つけるが、結婚直前に行方不明になった。夫はトロールの娘に囚われていた。少女のひたむきな思いで、婿は心を取り戻した。

[感想] 白いライオンは実在せす、娘の魔法じゃないのか? と思っていたら、白いライオンの像が語り部の部屋にあって驚いた。グリム童話186「本当の花嫁」と比べると、継母→トロール、老婆→白いライオン、3つのドレス→3つの卵、と変わっている。

三羽のカラス
#07 三羽のカラス The Three Ravens

[あらすじ] 王様の後添えは魔女だった。魔女は3人の弟たちをカラスに変えた。長女は呪いを解くため、3年3ヶ月3週間3日間、口をきかないと約束する。長女は、とある王子の妻になったが、継母はあの魔女だった。魔女は長女の赤ん坊を取り上げ、火炙りにかけようとするが、カラスたちに邪魔され、焼け死んだ。3人の弟は人間の姿にもどった。

[感想] 魔法の糸でしか見つけられない隠れ家がいいね。黒いシャツを着た王子たちが呪われるシーンは衝撃的。王女を信じきれなかった王子は、夫として失格。3分早くしゃべってしまったため、末の王子の片手はカラスのままだった、というオチに驚いた。

運命の指輪
#08 運命の指輪 Sapsorrow

[あらすじ] じつの父親と結婚することになった娘は、動物の革を被って逃げ出した。娘は毛むくじゃらの姿のまま、よその国の王子に恋をする。姫は夜ごと美しいドレス姿を披露し、靴を落とす。王子は靴をたよりに恋人を探し、毛むくじゃらがそのひとと見抜く。姫は美しい姿に戻り、ふたりは結婚した。

[感想] グリム童話65「千匹皮」と「シンデレラ」のアレンジ。近親相姦は消されている。姫のこころは見えないが、美貌と声(吹き替え)が印象的。動物たちが千匹皮を取り去るシーンは圧巻。

心のない巨人
#09 心のない巨人 The Heartless Giant

[あらすじ] お城の地下に、罪を犯した巨人が囚われていた。三男の王子はあわれに思い、逃してしまう。巨人のため長男と次男が行方不明に。王子は巨人のすみかを見つけ、その心を小鳥、魚、狼の助けで見つけ出す。兄たちが心(心臓)を潰したことで、巨人は死んで丘になった。

[感想] 巨人がほんとに大きく見える。罪によって王子が無垢でいられなくなるのは切ない。最後まで巨人の罪は明かされない。心を潰したのは、正しいことだったのか? 犬が「心を取り戻した巨人が罪を悔いる」というアレンジを語ることで、心のつかえが取れる。物語は変幻自在だ。

 

「いいものを見た」と覚えていたが、細部を思い出せないため、2021年に再視聴。映像は素晴らしいが、ストーリーテリングは粗い。主人公が途中で変わったり、ショッキングなシーンで要点を見失ってしまうからだ。
調べてみるとけっこう独自翻案していた。「原作通り」ってわけじゃないから、映像制作の都合だろうか。まぁ、行きあたりばったりなところも民話っぽいか。

現在ならCGでもっと安く、もっと派手な映像を作れるだろうけど、この味わいは再現できないだろうなぁ。ジム・ヘンソンは1990年に他界した。この作品を創出した人物がもう地上にいないと思うと悲しい気持ちになる。

ページ先頭へ