あんなに一緒だったのに
2005年 生活 男と女ふと思い出したので、書いておこう。
結婚直前で捨てられた男の話だ。彼のことはK、彼女のことはY子と呼ぶことにする。KとY子は同棲していた。趣味やセンスも近しく、まぁ、お似合いのカップルだった。ところが、いよいよ結婚するぞというとき、破局が訪れた。
Y子が、昔の男とヨリを戻してしまったのである。
「あんなに一緒だったのに……」
※以下は、私の勝手な推測であり、事実に反する場合があることをお断りしておく。
◎
「あんなに一緒だったのに……」
とKは嘆いた。
しかしそれこそが原因だったのではあるまいか?
恋をして、手をつなぎ、キスをして……。
異性とふれあう喜びは、なにものにも代え難い。この瞬間を永遠につなぎ止めておきたいと思う。より長く、一緒にいたいと思う。邪魔が入らなければ、一緒にいる時間はどんどん増えていく。
……すると、馴れてくる。
相手がいることが当たり前になる。相手の肌に触れても、電気が走らなくなる。もはや「異」性という感じはしない。ある意味、2人はもう家族なのだ。
ところが結婚は、恋人が夫婦になるための儀式である。
なので結婚について考えるときは、どうしても恋人だった頃を思い出す。
(あのころのトキメキ、タメライ、ヨロコビはどこに消えたのだろう?
かつての恋人だった男は、すっかり亭主になってしまった。
あるいは私も、すでに?
結婚することで、私はオンナを失ってしまうのかもしれない……)
そんな状態で昔の男と出会ってしまったら、そりゃあ、イチコロさ。
◎
「伊助ちゃんよ、おれは間違っていたか?」
深夜のカラオケで、Kはビール片手に問いかけてきた。
「いやぁ……」
あいまいに答えるしかない。
「慎重すぎたのかなぁ。
結婚前に、結婚生活を予行演習しておきたかったんだ。
この同棲期間を経て、おれは確信できるようになった。
Y子となら、やっていけると。
こんなことなら、とっとと結婚しておけばよかったのか。
2年前は、あいつの方が……。
もし結婚していたら……。」
「いやぁ……」
「くそぉ……」
「いやぁ……」
カラオケの曲がスタートした。
Kはマイクをとって、大声で歌い始めた。
「もう恋なんてしないなんてぇ~ 言わないよ、絶対~♪」
私は早く帰りたかった。
1996年の話だ。