独りで映画を観てきた
2005年 哲学 孤独私は、独りでは映画を観ない。独りで観てもツマラナイからだ。
しかしそう言いながらも、私は独りで映画を観たことがない。
なので、試してきた。
どうしても観たかった映画ではない。
時間を持て余していたわけでもない。友人の誘いも断ってしまった。
独りで映画を観るために、劇場に足を運んだのだ。
◎
その感想を述べる。
映画の感想じゃなくて、独りで映画を観た感想だ。
ヤバイ……かなりヤバイ。
独りで映画を観るのはヨクナイ。イケマセンヨ、こりゃ。
独りで観ると、映画を純粋に楽しめると言う。
よけいなものに邪魔されず、作品世界に没入できると言う。
そのとおりだった。そのとおりすぎる。
映画を観たあとに、誰とも話せないと、映画の余韻がいつまでも抜けていかない。しかも自分の中で反芻(はんすう)し、自分と対話するようになるから、内圧はどんどん高まっていく。
栓が抜けない圧力鍋を熱しつづけるようなもんだ。
世界の雑踏が遠のき、自分の世界にどっぷり浸かっていく。
現実世界に戻るキッカケが掴めない。
すると……どうなるか?
内圧を保ったままにしておきたくなるのだ。
映画を観る前に、私は独りで食事をした。なんとも味気ない食事だった。
ところが映画を観たあとは、独りで酒を呑みたくなっていた。
誰かと話して、この内圧を逃がしたくない。
独りであることを楽しみたいと思うようになっていた。
呑む前から酔っている。
しかしまぁ、電話が鳴ってしらふに戻ったんだけどね。
結論:独りで映画を観るのはヤバイ。
なんだかよくわからないが、とにかくヤバイ。
強い引力を感じる。重力の落とし穴だ。
入ったら抜け出せないような気がする。
◎
ちなみに、映画はつまらなかった。
つまらない映画でも、これだけの効果があったのだ。
つまらない映画でよかった。