銀の匙 Silver Spoon (全11話) Silver Spoon

2013年 アニメ 4ツ星 ドラマ 学校 教養

人間と家畜のちがいを問いたくなる

 原作未読。早すぎるアニメ化で不安になったが、おもしろかった。中高生に見てほしい作品が深夜に放送されるのは問題だ。どうやら第2期もやるようだ。時間をかけて、彼らの卒業までを見届けたい。生きる楽しみが増えた。

ちゃんとした味覚

 物語の鍵は、八軒くんが「ちゃんとした味覚」を持っていることだろう。劇中でもたびたび指摘されるが、ちゃんとしたものを食べて、ちゃんとした味覚があればこそ、豚肉や牛乳の美味しさに感動できる。味覚が壊れていたら、「生き物を殺して食べるなんて気持ち悪い」とか「薬を使って太らせれば効率的」とか言い出しかねない。利益重視のタマコを安心して見ていられるのは、彼女がおいしそうに食べるからだ。ちゃんとした味覚があれば、悪いことはしないだろう。
 これは私の偏見だが、食文化をけなしたり、畜産業を嫌悪する人は、ちゃんとしたものを食べてないような気がする。そう考えると、タイトルの「銀の匙」も意味深長だ。

農家で聞いた話

 新潟・吉川のコメ農家を取材したときに聞いたけど、農業の生命線は消費者の「味覚」なんだって。おいしいコメを栽培しても、味覚が壊れている人は価値がわからない。消費者が食品を「価格」や「オマケ情報」で選ぶと、農家は「おいしさ」を犠牲にし、結果として衰退するわけだ。

 ちなみにオマケ情報ってのは、「身体にいい」とか「伝統の味」といった味にも価格にも寄与しない情報のこと。たとえば有機栽培は苦労が多いわりに収穫量が少なく、味もよくないが、喜んで買う人がいる。味覚よりオマケ情報に惑わされているわけだ。

「おいしいものは身体にいい。まずいものを無理して食べることが、身体にいいわけがない」
「必要な栄養素は身体が教えてくれる」
「安全な野菜は簡単に作れるが、おいしい野菜は難しい」

 農家の言葉は説得力があった。

生き物と食べ物

 話を戻そう──。
 『銀の匙』では鹿や豚を屠畜するシーンがある。直接的な描写はないが、おのずと想像できる。子どもに悪影響があると言って屠殺を隠すのは、かえって教育によくない。生き物を殺して食べていること、生産者の苦労をしれば、おのずと食べ物を粗末にしなくなるだろう。

 都市部に住んでいると、そうした現実は意識されない。私も実感できたのは大人になってから。そのせいか、食品の生産や加工、文化に並々ならぬ関心を抱いている。マニアックに掘り下げる必要はないが、食への関心がないと人間的に不安定になりそう。『銀の匙』は社会によい影響を与えてくれそうだ。

家畜と人間

 もう1つ興味深かったのは、家畜と人間の比較。八軒は子豚の生存競争を見せられ、現状に甘んじるなと教わる。農耕馬や乳牛の処分も、心に引っかかる。人間はみずからを家畜化する動物だから、身につまされることが多い。

 御影アキの境遇も気になる。産業のため自由を奪われた存在が家畜なら、婿をもらって稼業を継ぐことが決められているアキも同然だ。一郎やタマコは自発的だが、都市部の消費者にとっては同じこと。自分が家畜でないことを証明するのは至難の業だ。
 これはこういうもの、という思い込みを、八軒の苦悩が壊していく。先の展開が楽しみだ。
 実写映画の企画もあるみたいだね。いずれ原作も読んでみたい。

  1. エゾノーへ、ようこそ ... 主人公がわからない。
  2. 八軒、馬に乗る ... まだわからない。
  3. 八軒、豚丼と出会う ... おまえたちはこうなるな。
  4. 八軒、ピザを焼く ... うらやましい経験。
  5. 八軒、脱走する ... メカの魅力が描けてない。
  6. 八軒、御影家に行く ... 鹿の解体。命をいただく感謝。
  7. 八軒、ギガファームへ ... 夢がないから、夢がある人がまぶしい。
  8. 八軒、大失態を演じる ... 仕事でポカしたときの血が引いていく感じ。
  9. 八軒、豚丼に迷う ... むしろ兄貴の将来が心配だ。
  10. 八軒、豚丼と別れる ... 自分で稼いだ金で、自分が育てた豚を買う。
  11. 走り出せ、八軒 ... 生きるための逃げはアリ。なんかしなくちゃ!
勤労、協同、理不尽。

 座右の銘にしたいくらいだ。

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