生きる (主演:松本幸四郎) ikiru
2007年 日本ドラマ 4ツ星 ドラマ 夭折 家族 社会人おおむね、よいリメイク
黒澤明の映画「生きる」(1952)を、現代(2007)に置き換えたドラマ。時代背景をアップデートしているが、ストーリーはオリジナルに忠実。明るい画面とハッキリした音声に戸惑いもあるが、わかりやすく演出された、よいリメイクだった。
- | 1952 | 2007 |
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渡辺勘治 | 志村喬 冴えない、鬼気迫る |
松本幸四郎 すてき、貫禄 |
病気 | 胃がん | 膵臓がん |
医者の態度 | 事実を伏せる | 告知する |
息子との思い出 | 出征、盲腸 | いじめ、反抗 |
メフィストフェレス | 伊藤雄之助 いかつい小説家 |
北村一輝 悪人面のカーディーラー |
遊びの金 | 5万円 | 500万円 |
変化のあかし | おしゃれな帽子 | 紅いマフラー |
事務員 | 小田切みき 幼女とオバサンの合成、貧乏 |
深田恭子 天真爛漫な美女、不自由なし |
問題の場所 | 下水漏れ | ゴミの不法投棄 |
息子の気づき | 通帳と印鑑 覚悟して公園に行った |
モルヒネ 病気を隠して仕事をした |
事務員のその後 | 不明 | 立候補した助役のウグイス嬢 |
同僚たちのその後 | 変化なし |
渡辺勘治 - 隠しきれぬ存在感
オリジナルの志村喬に比べると、松本幸四郎はかっこいい。やる気がない状態でも貫禄があるから、やる気になったら手がつけられない。ヤクザの脅しも効かない。オリジナルの志村は、「死にてぇのか」と胸ぐらを掴まれ、なんとも言えぬ笑みを浮かべる。常人に理解しがたい境地。あれに比べると松本版は浅い気もするが、わかりやすい。だから安心して見ていられる。これはこれでアリ。
※やる気がない状態でも貫禄がある
※ちゃんと引き出しに私案が入ってる
※ヤクザに脅されたときの反応
メフィストフェレス - 清々しい出会いと別れ
メフィストフェレス役のカーディーラー(北村一輝)は素晴らしかった。渡辺を悪い遊びに連れ回すが、渡辺が楽しんでないことに気づき、親愛の情を抱くようになる。カネを受け取らず、来年のハワイに誘うが辞退され、故郷の墓参りをすると笑う。清々しい別れ。オリジナルの小説家(伊藤雄之助)と同じくフェードアウトするが、彼にもよい変化があったと思える。
帽子は赤いマフラーに置き換えられた。志村喬には無理だが、松本幸四郎なら似合う。
※どちらも強烈
※はじめは悪人っぽいが
※清々しい出会いとなった
事務員 - 美女が演じる醜悪
深田恭子が演じる小田切サチは、印象がよろしくない。とよ(小田切みき)は馬鹿で、行儀が悪く、身なりも貧相。渡辺は破れた靴下が気になって、新しいのを買ってやる。リメイクのサチは美しく、何不自由なく暮らしている。そんな娘に靴などを買ってやるのは、いかがわしいだけだ。
言動も共感できない。サチは縁故採用でありながら仕事をせず、文句ばかり。工場の派遣社員に転職するが、エンディングではウグイス嬢になっていた。モノづくりの喜びはどこへやら、美貌を売り物にしている。しかも支援しているのは、渡辺の功績を奪った助役。サチにとって渡辺は重要な人じゃないし、公園造成にまつわるエピソードも知らないが、あまりにも無情。サチはこの上なく美しいのに、現実の醜悪さを象徴するキャラクターになっていた。
※どちらも天使じゃないが、リメイクはギャップがひどい
※モノづくりの喜びを伝えておきながら、ウグイス嬢っすか
ほかの人々 - だれがこころを知るだろう?
渡辺の兄夫婦は登場しないが、息子夫婦の役回りはオリジナルと同じ。オリジナルは通帳と印鑑を見つけたことで、父が死を覚悟して公園に向かったと悟る。リメイクはモルヒネの錠剤を見つけたことで、病気を隠していたことを知る。なぜ教えてくれなかったのか? オリジナルより劇的だが、父に拒絶されたようにも見える息子があわれ。なんらかのフォローがほしかった。
※どちらも父の気持ちがわからない
エンディング。新しい課長のもと、役人たちは元の日常に埋没しきっている。渡辺を慕っていた部下・木村(ユースケ・サンタマリア)は、自転車で公園を見に行く。助役の選挙カーが通り過ぎる。もう誰も渡辺の仕事を覚えていない。ただただ無情。
市役所や同僚たちが変わらないのは、オリジナルもリメイクも同じ。オリジナルは公園と空のカットで終わるが、リメイクは自転車で去っていく木村の後ろ姿で終わるため、やや突き放した印象を受ける。
※お役所仕事に埋没する木村
比較すると不満を述べているように見えるが、さにあらず。オリジナルは声が聞きづらく、見てて不安になるシーンも多かった。万事が万事、オリジナルが優れているわけじゃない。よくできたリメイクだと思う。