東京より

2005年 生活 住まい
東京より

昨日に引き続き、Hの話。
Hは田舎を嫌い、都会に飛び出していった。
そのHがマンションを買ったというので、昨年、見に行ってきた。

そりゃあ、立派なマンションだった。
広くて、高くて、大きくて、清潔で、整然としていた。
そこはもう、別世界だった。

私はふと、中世の城塞都市を思い出していた。
都市をぐるっと囲む堅牢な城壁は、盗賊や疫病などの侵入を防ぎ、選ばれた市民たちの生活を守っている。
そんな城塞都市と見まがうほど、このマンションは外界から隔絶されていた

エレベータの中に、自治会からの案内が貼られていた。
サーバ構築、共同購入、フリーマーケット、料理教室……。
マンションの住民たちがいろいろな会を通じて、親睦を深めようとしているわけだ。
ここはできたばっかりのマンションだから、住民は互いに互いを知らない。昔からここに住んでいる人はいないのだ。だからこそ、住民たちは接点を増やそうとしている。生活共同体としての帰属意識を作ろうとしている。結束することで、「強さ」と「安心感」を得られるからだ。

──私はふと思った。
Hは、自由と独立を求めて東京に出てきた。その究極形態ともいえるこのマンションでも、近所づきあいは欠かせないとしたら、本末転倒ではあるまいか?

そう尋ねてみると、Hは首をかしげた。
自由と独立を求めても、孤立したいわけじゃないよ。」
Hは、マンション自治会の主要スタッフだったのだ。彼自身が主催したイベントも少なくないという。都会には都会のコミュニティがあり、そこに参加することに抵抗感はないそうだ。

思えば、Hは高校は生徒会長、大学では学生会会長を務めていた。今でも福祉関係の仕事をしている。
Hは、いつも人々の中心にいた。
それは、都会に出てきても変わらなかったわけだ。

都会に住んでいるからといって、必ずしも孤立するわけじゃない。
孤立するかどうかは、個人の問題なのだ。

そんなことを考えながら、私はHの城をあとにした。