惑星グランドツアー - ボイジャー2号

2007年 科技 宇宙
惑星グランドツアー - ボイジャー2号

 彼女はいま、闇の中で、自分が見てきた世界を思い返している。

 彼女の名はボイジャー2号。双子の姉・1号とともに、1977年に打ち上げられ、木星と土星を探査した。姉妹のミッションは、土星で終了するはずだった。

 ところが、姉の1号はタイタンに接近後、重力アシストを受けて黄道面から外れていった。姉はどこへ行くのだろう? そして彼女は天王星への軌道に乗せられた。地球で、なにがあったのか?

 地球では、科学者たちは予算追加を訴えていた。
 惑星の配列から、ボイジャーは天王星を越えて、海王星まで訪問できる。それは175年に一度の「惑星グランドツアー」を実現するチャンスだった。
 しかしボイジャーを地上管制するためには、人材も機材も必要だ。予算がなければ、交信を打ち切るしかない。ねばり強い交渉は実を結び、天王星の探査が承認された。
 ちなみに、海王星が追加承認されたのは、このあとの話。ボイジャーの旅は、こうした科学者たちの努力に支えられていたのである。

 打ち上げから9年後、ボイジャー2号は天王星に接近、新たに10個の惑星と2本のリングを発見した。旅はさらにつづく。

 打ち上げから12年後、ボイジャー2号は海王星にたどり着いた。地球から45億キロメートル──。ここまで送ってくれた父たちのために、ボイジャー2号は海王星をつぶさに観察して、新たに6個の衛星と4本のリングを発見した。それらは、地球からは見えなかったものだ。

 この先にはもう、なにもない。
 ボイジャー2号は衛星トリトンの重力アシストを受けて、姉と同じミッションに加わった。太陽系を離脱して、その向こうを目指す「星間ミッション」である。
 2007年7月現在、ボイジャー2号は太陽から124億キロメートル離れたところを、秒速15km で飛 んでいる。もうすぐ太陽系の境界面を越えるはずだ。
 惑星の姿はもう見えない。そのため科学者たちは、彼女の光学系機器のスイッチを切った。姉の1号と同じく、2020年ごろには全システムが沈黙するだろう。そして29万年をかけて、次の恒星を目指すのだ。

 彼女はいま、闇の中で、自分が見てきた世界を思い返している。

 木星......太陽から受け取るより1.5倍もの熱を発していた。
 土星......壮大なリングの厚さが、わずか数十mだったなんて。
 天王星......なぜ天王星だけが熱をもたず、凍り付いてるの?
 海王星......秒速600mの強風が吹き荒れていた。

 そして虚空──。

 お父さん、ありがとう。さようなら。

 ボイジャー2号のレンズにふたたび光が入るときは、宇宙人の姿を映しているかもしれない。