ESS(進化的に安定な戦略)

2004年 科技 思考実験
ESS(進化的に安定な戦略)

ここに、ロボットたちの国があるとしよう。

ロボットたちは当初、互いに関心を持たずに暮らしていた。
このロボットたちに欲求を与えてやる。
ロボットはまず、短絡的に欲求を満たそうとする。欲しいものを奪い、好きな女を襲い、嫌いなものを壊しはじめる。しかし周囲のロボットたちも同様に欲求と知性があるから、迷惑行為は拒絶される。私刑による報復や、法律による制裁などが発達して、短絡的な行動は割に合わなくなる。

知性があるロボットたちは、リスクが高い行動パターンを控えて、安定的に使えるものを学習・模索しはじめていく。長い時間をかけて、特殊な例外は淘汰され、平均的に効果があるものだけが残っていく。

──やがてロボットたちは相手に気を遣うようになる。
とりあえず挨拶する、相手の心情を察してコトバを選ぶ、偉い人には敬語を使う、困っている人には手を差し伸べる、自分の気持ちをダイレクトに表現しない、変態的な趣味は隠しておく……などなど。
こうした無駄に思える配慮をしておいた方が、自分の欲求を満たせる確率が高くなるからだ。

いわゆる「常識」や「道徳」、「マナー」「エチケット」「社会性」「協調性」と呼ばれるものは、じつは高度に発達した損得勘定でしかない。これを社会生物学・行動生態学などでは「ESS:Evolutionarily Stable Strategy(進化的に安定な戦略)」と呼ぶ。

現実世界の ESS は、現実の制限や特性をベースに構築された。仮想世界の ESS は、現実世界をモチーフにしつつも、独自の進化を遂げているようだ。私は研究者ではないが、こうしたことを考えるのは好きだ。

どのような行動戦略が、仮想世界では有効なのかを試していきたい。