N氏の注文
2005年 生活 N氏アメリカの宅配ピザは、オーダーメイドが基本らしい。
日本のように、「○×デラックス」とか「○×ミート」といったセットじゃなくて、生地や具材を1つずつ自分で選ぶのが主流だそうだ。
「だって、セットだと自分の嫌いなものが入っちゃうでしょ」
と、N氏はいう。
アメリカで4年間暮らしていたN氏にとって、ピザは「なんの制限もなく、自分の好きなものを、好きなだけ乗せて食べられるもの」なのだ。
もちろん、日本でもオーダーメイドはできる。
だけど、1つずつ具材を選ぶ人は少ないんじゃないかな。
セットで注文する方が楽だし、組み合わせに失敗することもない。嫌いなものが入っていたら、我慢するか、避ければいい。
「えぇー?
コーンを我慢するの? マヨネーズをどうやって避けるの?」
と、N氏はいう。
わざわざ金を払って、嫌いなものを注文するなんて信じられない。
自分が好きなものを選ぶことが、面倒なわけがない。
──言われてみれば、確かにそうだ。
だが日本では、セットじゃないとクーポンが使えないとか、割引にならないといわれる。ふつうなら、ここで折れる。思考停止して、案内に従う。
しかしN氏はゆずらない。電話で交渉するそうだ。
「コーンを減らして、なんで料金がアップすんの?」
「エビとアンチョビは同じ値段だから、交換できるでしょ」
あれこれ交渉して、言うことを聞いてくれない場合は注文しない。
◎
「流れに身を任せるんだよ」とN氏はいう。
その言葉の意味は、想像するより深いのかもしれない。