ヱビスはお好き? / 美味しんぼの呪縛
2011年 生活 スーパーにて 生活
ヱビスビールはお好きですか?
私はたまに飲むんだけど、けっこう苦手。この風味をなんと表現すればいいのだろう? どこか金属的で、独特の後味がある。私が好きなプレミアムモルツやヒューガルデンにはない味だ。
苦手なんだけど、どのくらい苦手か確かめるように買ってしまう。苦手なのに、なぜ飲んでしまうのか? おそらく『美味しんぼ』の影響だろう。
『美味しんぼ』でドライビールが取り上げられたのは1988年のこと。(『ドライビールの秘密』 第18巻収録)。読んだ人ならわかるだろうが、山岡士郎のドライビール批判はすさまじかった。あれを読むとドライビールが嫌いになるだけでなく、「ドライが好き」というヤツが馬鹿に見えてしまう。一方、山岡はヱビスビールを絶賛した。これぞ本物のビール! 飲んだあと、舌の上に黄金のピラミッドが立つ!
ドライ党は味覚音痴。
ツウはヱビスビールを好む。
当時、私は17歳でビールを飲めなかったが、強烈に刷り込まれた。あるいは自分で確かめられないからこそ、刷り込まれたのかもしれない。『新世紀エヴァンゲリオン』(1996)の葛城ミサトがYEBICHUを痛飲しているのを見ると、認識はさらに強まった。
しかしヱビスビールは本当に美味しいのか?
私はなるべくドライを避け、なるべくヱビスを飲むようにしたが、ヱビスを「うまい!」と思えることはなかった。そもそも酒の味がわからない。それでもヱビスを飲んで、「カーッ!」と叫ぶことが、かっこいいと思っていた。
ビールをうまいと思えるようになったのは、30代後半になってから。ベルギービールとの出会いが、ビールの固定概念を打ち崩した。「これがビール、それはビールじゃない」という定義を知ることより、自分の好みを確かめる方が重要だった。
あらためてヱビスを飲む。たしかに個性的だが、私の好みではない。ツウじゃないと言われても気にしない。だって、ツウじゃないんだから。
『美味しんぼ』は権威に立ち向かう若者たちの漫画だが、『美味しんぼ』そのものが1つの権威になって、人々を惑わすようになってしまった。人々は『美味しんぼ』が褒めるものを褒め、貶すものを貶した。原作者の問題もあるだろうが、それ以上に権威に迎合しやすい人々の弱さはいかんともしがたい。
話をもどそう。
ヱビスは好みじゃないとわかっても、私はヱビスを飲んでいる。家で飲むビールとしては登場頻度が高い。苦手なのに、なぜ飲むのか?
「うえー」「くー」と顔をしかめながら飲む。
あんがい私はヱビスを好きなのかもしれない。