ナズェミデルンディス! / 地下鉄にて

2012年 生活 生活
ナズェミデルンディス! / 地下鉄にて

 電車の中で、ふと、婦人と目があった。

 私はなんとなく吊り広告を読んでいた。裏面も読もうと移動したとき、近くにいた婦人が大きく身をかわした。急接近したわけでもないのに、大げさな避け方だったが、気にせず広告を読んでいた。読み終えて、目を降ろしたとき、婦人がじっと私を見ていることに気がついた。

 目が合うと、婦人は目を逸らした。「目をそむけた」と言った方がいい。ぽかんとしていると、婦人はちらり、ちらりとこちらを見て、強烈に眉をひそめた。
 な、なんなの? なぜ、そんな目で私を見るの? ナズェミデルンディス!
 汚いものでも見るような、女性専用車両にまぎれ込んだ男子高校生を見るような、そんな目つき。眉の皺も深い。うわぁ、けっこう凹むよ。

 私は自分の服装をチェックした。社会の窓は……開いてないし、窓ガラスに映った自分の顔も……ふつうだ。背中にウンコが付いてるとか、頭に花が咲いてるとか、そーゆーこともない。異常は発見できなかった。
 ふたたび婦人を見ると、また目を逸らされた。くそっ、なんなんだ? 私を見てないのに、「こっちを見るな」というプレッシャーがかかる。つらい。

 居づらいので、ドア2つ分ほど離れる。吊り広告を見るついでに婦人を見ると、もうこっちを見ていなかった。よかった。私は婦人のいる方向を見ないようにした。
 終点の中目黒で、全員が降車した。私は足早に出口に向かった。振り返るのが怖かった。

 私が自意識過剰なだけ? それとも異常なのはあっち? 真相はわからない。ただ、あの視線はきつかった。さいわい、私は自分に恥じるところはなかったが、周囲と異なる点があったら、気持ちが押しつぶされていたかもしれない。

 暴言を吐かずとも、目で殺すことはできるよ。気をつけようね。