[漫画] HUNTER×HUNTER 第30巻 / 個性バトルは奥深い

2012年 娯楽 マンガ 娯楽 考察
[漫画] HUNTER×HUNTER 第30巻 / 個性バトルは奥深い

 『HUNTER×HUNTER』の30巻を読んだ。

 すっげー、おもしろかった。
 圧倒的な強さを誇る王を、だれが、どうやって倒すのか? そればかり考えていたけど、まさかの決着。ショックが大きくて、何度も読み返してしまった。

 メルエムとコムギの充足に比べ、シャウアプフのみじめなことよ。彼が王のために死ねなかった理由を考えると、ぞっとする。また、イカルゴが情けをかけたブロヴーダとウェルフィンが、絶妙のタイミングで物語を動かしたことも驚き。なんという巡り合わせだろう。もはや善悪を問うことさえ、浅ましい。

 キメラアント編の(不定期)連載は、足かけ9年におよんだ。長い。あまりに長い。「終わってから一気に読みたい派」の私にとっては、憎々しい作品である。(やる気がないなら、とっとと完結させろ)と、何度も憤った。

 ところが、だ。
 キメラアント編が完結しても、『HUNTER×HUNTER』は終わらなかった。新たなモンスターを登場させず、三つ星ハンターを集めておきながら、まさかの政治バトル。こんなアプローチがあったのか。ハンター協会の内紛劇が、どのくらいのボリュームになるのかわからないが、長々と待たされることを思うとめまいを禁じえない。ここで読むのをやめよう、と思えないところが悔しい。

 少年漫画の基本はバトルであり、敵がどんどん強大になる「パワーのインフレ」という宿命を背負っていた。そこに一石を投じたのは『ジョジョの奇妙な冒険』であろう。ルールのある能力バトルでは、パワーの大小で勝敗が決まらない。多くの少年漫画がこのスタイルを継承した。
 『HUNTER×HUNTER』はさらに、「個性」の衝突を加えたと思う。
 現実の戦いでは、想定外のことが勝敗を分けることがある。ゆえに、敵にとって想定外のことを起こすべく、戦いの前に積み重ねておく。もちろん、積み重ねれば必ず勝てるわけじゃない。無駄になったり、邪魔になったり、卑怯に思えることもある。
 こうした盤外戦を制するのは、パワーでも能力でもなく、個性だ。キメラアント編で言えば、ネテロ会長の退路を断ったハンター協会が、真の勝者と言える。それじゃ夢がない、と思うかもしれないが、さにあらず。パワーバトルや能力バトルとちがって、個性バトルは勝つことがすべてじゃない。個性の分だけ、物語が深くなるからだ。負けたキャラ、逃げたキャラ、活躍しなかったキャラにも愛着が湧くだろう。

 『HUNTER×HUNTER』は少年漫画だが、大人も楽しめるドラマに仕上がっている。このクオリティなら、毎週連載で読めなくても仕方ない。
 もはや私は『HUNTER×HUNTER』の完結を望んでいない。数年おきでいいから、この物語を読める幸福にひたりたい。