アンジェリーナ・ジョリーが両乳房を切除したことにショックを受ける理由

2013年 生活 健康 死生観
アンジェリーナ・ジョリーが両乳房を切除したことにショックを受ける理由

 私はアンジェリーナ・ジョリーのファンではないが、このニュースは驚いた。

アンジェリーナ・ジョリー、がん予防で両乳房切除―専門家の見方は

米女優アンジェリーナ・ジョリーさん(37)が乳がんのリスクを高める遺伝子変異が見つかったとして、予防のため両乳房の切除手術を受けていたことが分かった。がんの専門家たちはこの決断について、女性ががんに関する家族の病歴を調べるきっかけとなって欲しいとの見方を示した。
WSJ.com

 がんが見つかったわけではなく、将来がんになる可能性が高いから両乳房を切除したのか。まだ37歳で、セクシー女優だから、乳房の役目が終わったとは言えないだろう。それでも切除を決断するだけの科学的な根拠はあったのか? まぁ、あるんだろうけど、このあたりは科学と信念の区別がつかないからなぁ。

 なぜ驚くのか?
 アンジェリーナ・ジョリーのおっぱいが、価値あるおっぱいだからじゃない。おっぱいに貴賎なし。そうじゃなくて病気になってない器官を切り落とすことにショックを受けているのだ。
 盲腸でさえ、虫垂炎になる前に切ったりしない。というか、盲腸でさえ、切るべき/残すべきの結論が出ていない。まぁ、医学のことはわからないから、医者や科学者が「切ったほうがよい」とデータを見せてくれるなら、信じるほかないが、それでも抵抗感は払拭できない。切ってしまえば、たぶん一生、疑念がつきまとうのではないだろうか。

 まだ悪くなってない部分を、将来の可能性によって切除する。そこになにか、恐ろしい可能性が潜んでいるような気がするのだ。映画の話をしよう。

ガタカ (1998)

 近未来。遺伝子工学の発達により、人々は病気や障害になる遺伝子を出生前に取り除けるようになった。遺伝子操作によって産まれた子ども──適正者(vailds)は、健康で優秀な肉体をもつため社会的に優遇された。一方、自然に産まれた子ども──不適正者(in-valids)は、能力の伸びしろが低かったり、若くして病気になる可能性が高いため、差別された。
 主人公ヴィンセントは、不適正者として産まれたが、適正者にしか許されない宇宙飛行士になる夢をあきらめきれなかった。

マイノリティ・リポート (2002)

 近未来。人々は「プリコグ」と呼ばれる3人の予知能力者によって犯罪を事前に察知し、事件を起こす前に逮捕できるシステム(体制や法律)を整備した。「プリコグ」の未来予知は絶対であり、犯罪の発生率は皆無になった。
 主人公ジョンは犯罪予防局の職員として働いていたが、ある日、自分が見知らぬ男を殺す未来が予知されたことで、逮捕されてしまう。

 SFでは使い古されたテーマだが、答えは出ていない。

  • 小説『すばらしい新世界』 (1932)
  • 漫画『狂四郎2030』 (1997)
  • アニメ『機動戦士ガンダムSEED』 (2002)

現実にどうする

 多くのSF作品では、劣性の排除を否定する。科学は正しくとも、人間はまちがえるからだ。たとえば10年後にがんを発症するとしても、5年後に新しい治療法が確立されるかもしれない。

 しかし人間は、配られたカードで勝負するしかない。「もしかしたら」と判断を保留すれば、もっと状況が悪くなることは珍しくない。物語なら、100万分の1の奇跡も起こりうるが、現実で100万分の1は無視すべきだ。

 よって、アンジェリーナ・ジョリーの判断を揶揄することはできない。明日、UFOの船団が飛来して、がんの治療法を教えてくれるたとしても、今日の判断が価値を失うわけじゃない。

 アンジェリーナ・ジョリーのニュースは、答えのないテーマを彷彿させる。
 だからショックを受けたのだろう。

 ここで気をつけたいのは、「有名人もやってるから」と流されないことだ。
 切除するにせよ、しないにせよ、判断は人それぞれだ。