狼よさらば Death Wish

1974年 外国映画 5ツ星 犯罪 社会人

「我々も言いたい、狼よさらばとな」

 2021年、リメイク版の『デス・ウィッシュ』から遡って鑑賞した。善良な社会人が、暴漢に妻子を襲われたことで自警活動をはじめる枠組みは同じ。しかしオリジナル『狼よさらば』はサイコホラーで、リメイク『デス・ウィッシュ』は復讐アクションだった。見比べることで、双方の工夫がわかるようになった。
 相違点をまとめると、こんな感じ。

狼よさらば:比較
- 狼よさらば (1974) デス・ウィッシュ (2018)
主演 チャールズ・ブロンソン (53) ブルース・ウィリス (63)
主人公 成功した建築家。犯罪に無関心。 一介の外科医。犯罪者でも生命を救う。
犯人 暴漢たちによる衝動的な犯行。 計画的な強盗(ゆえに追跡可能)。
被害 妻は死亡。娘は重度の精神障害。 妻は死亡。娘は意識不明の重体。
身内 娘婿。嘆くだけでなにもできない文明人。 弟。正論を述べる。目立つが、とくに活躍しない。
契機 アリゾナで西部時代の物語に感銘を受ける。 テキサスで現実な行動を見る。
戦闘技術 朝鮮戦争の良心的兵役拒否者。銃の名手。 ド素人。
行動 自警→狩り。 復讐。
別名 「まぼろしの狩人」 「シカゴの死神」
社会的影響 犯罪件数が半減するが、世間は知らない。市民だけでなく警官まで犯人の味方をする。警察は逮捕できなくなる。 SNSで有名になる。影響が議論される。模倣犯が出てくる。
変化 男らしくなる。
自分のニュースに関心を示さない。
考えがわからなくなる。
殺傷を躊躇しなくなる。
自分のニュースをチェックしている。
最後まで理性的。
ライバル オチョア警部。愚鈍そうに見えたが切れもの。主人公と話すのは最後だけ。理解者だが共存できない。 レインズ刑事&ジャクソン刑事。典型的な警察官。最初から親身に接してくれる。
クライマックス 危険な状況なのに、いつもの狩りへ。
西部劇のようなセリフが混じる。
一騎打ち。
敵を家で迎え撃つ。(西部劇のように)
報酬 なし。シカゴへ転居。 娘が覚醒する。
エンドイメージ
またやる。

もうしない(だれかがやる)。
印象 サイコホラー 復讐アクション
工夫 後半は気持ちが見えなくなる。 だれでもハンターになれる。
医者だから悩むわけじゃない。
皮肉が効いた反撃。

ブロンソンでなかったら

 上映当時は自警主義(ヴィジランティズム)を支持する映画、レイプや殺人で金儲けする低俗な映画と批判されたそうだが、47年後の視点ではむしろ抑制されていて、文芸的に優れた映画に見える。

 いちばん気になるのはチャールズ・ブロンソン。「セクシー」のイメージはないが、「ふつうの社会人」に見えない。男らしさを取り戻し、同時に得体が知れない怪物になっていく変化がわかりにくくなってしまった。これがトム・ハンクス主演だったら、異常性がきわだっただろう。

 本作は商業的に成功し、ヴィジランテ映画というジャンルが生まれた。本作も続編が制作されたが、内容は過激に、軽薄になっていったようだ。ブルース・ウィリスの『ダイ・ハード』と同じ展開だった。

 つまり観客には「悪漢をぶっ殺して、スカッとしたい」という欲求があって、その結果もたらされる無法地帯は想像できないのだ。

 ポールが「気に入らない」という理由で若者を射殺するシーンがあれば、自警主義の問題点をクローズアップできただろう。しかしブロンソン主演じゃ無理だし、観客の期待とも異なる。娯楽映画だから仕方ないのか、だからこそ意味ある映画を作るべきか・・・なんとも言えぬ。
 私としては、本作でもじゅうぶん「こわい」と思ったけどね。

セリフのない表現

 ポールが拳銃を手に入れるのは1時間33分あたり。それよりまえに、ポールはブラックジャックで暴漢を撃退しているし、娘婿に厳しいことを言っている。拳銃を手にしたから、人格が変わったわけではない

 拳銃を手にしてからの展開は早い。
 ポールの自警活動は、巡回から狩りに変わっていく。わざとすきを作って、仕掛けさせる。発砲は素早く、的確で、容赦しない。警告もない。犯行前に脱出経路を確認する描写はない。落ち着いて、堂々と去っている。大胆不敵。
 家では大音量でレコードを聞いて、ステーキ肉を焼いて、男らしさが強まる。娘婿との対比がうまい。

 しかし後半、ポールの考えはわからなくなっていく。ポールは世間の評判も、警察の動向も気にする様子がない。セリフはないが、暴走している。これが邦画なら「ぼく、どうしちゃったんだろう?」とか説明してるだろうな。

娘婿:もう開拓時代じゃありませんよ。
ポール:じゃなに時代だ?

友人:どうやら犯罪が減ってるらしいね。
ポール:それを証明する手は、今夜ひとりで公園に行ってみることだ。
友人:遠慮しておきましょう。それこそ警察の仕事だ。

娘婿:陽気だなぁ。どうかしたんですか?
ポール:かまわんじゃないか。一生沈んでる必要がどこにあるんだ?
娘婿:・・・。
ポール:ステーキの焼き加減はどうする? ミディアム? よーし、そう決めた!


※セリフがない。

死が望み、か

 ポールは電話で警告された。いきなり身体検査された。警部らしき男を見た。路上に張り込みの車がいる。にもかかわらず、狩りに出かける。迷いがない。どうして? アパートを出たところで張り込みの車を数秒見つめる。自首しようと思ったのか?


※セリフがない。

 ポールは3人の暴漢に囲まれる。2人仕留めたが、1人に撃たれ、逃げられる。なぜ銃をもってる方から撃たなかったのか? なぜ自分が逃げることより殺すことを優先するのか? そもそも、なんのため殺人を繰り返しているのか?
 なんだか当たり前のように見ていたが、ポールがやってることはおかしい。異常だ。妻子を守れなかった苛立ちか? 死にたがってるようにしか見えない。ああ、だから「Death Wish」か


※上に拳銃、下はナイフ×2。

オチョア警部がいい

 オチョア警部は原作に登場しない、映画オリジナルキャラクター。愚鈍そうに見えたが、じつは切れものだった。部下との対比でよくわかる。

(部下、ポールを探す警部に向かって)

部下:ごく単純な質問なんですが、カージーがホシなんですかね?
Can I ask a simple question? ls this Paul Kersey the bird?

警部:・・・。
...

部下:いえ、なんでもありません
I won't ask any more questions.

警部:ウチに帰ってろ。邪魔になるだけだ。
-Go home, will you? I don't need you.

部下:キツイネー。
-Weird.

 こんな状況で狩りをやるはずがない。しかし予感があった。ポールは家から消えた。事務所に拳銃を取りに行ったにちがいない。警部はポールの心理を理解している。

 令状なしの家宅捜索。上層部の政治判断にも対応。犯人の行動予測。市民や警官が「まぼろしの狩人」を味方する現状を認める。犯人を説得して、一件落着させる。びっくりするほど切れ者。当時人気だった『刑事コロンボ』(1968年-)から引用したのかもしれない。


※オチョア警部。外見は冴えないが、めちゃくちゃ切れる。

「狼よさらば」なんて言ってない

 映画の最後に「狼よさらば」というセリフが二度出てくる。気になって原語を調べてみたが、「Death Wish」に相当する言葉はなかった。


※狼よさらば。かまえろ。

(ポール、階段の上から暴漢を呼び止める)

ポール:狼よさらば。
Fill your hand.

暴漢:え?

ポール:かまえろ!
Draw.

(パトカーの音)
(失血で倒れる)
(暴漢は逃げる)

 「Draw」は西部劇でよくある掛け声。つまりポールは、西部劇に酔っていたのだ。
 それは病院でオチョア警部との会話でもわかる。

我々も言いたい、狼よさらばとな。
※我々も言いたい、狼よさらばとな。

(警察病院。ポールはベッド。警部、拳銃をポールに向けて)

警部:じつはきみの取り扱いで頭を痛めてるんだ。
We have here a peculiar situation, Mr. Kersey.

警部:撃たれて死んでくれればいちばん簡単だったんだが、ほかの手を打たにゃならなくなった。
It's necessary to make a proposition since you won't favour us by dying.

警部:どうだろう、勤め先を変えてヨソの街へ行ってくれんか?
そうすればこっちもいっさい忘れて...
...この拳銃はわしが川へ投げ捨てよう。
You work for a company with lots of offices.
Get a transfer to another city...
...and I'll drop this gun in the river.

ポール:・・・。

警部:我々も言いたい、狼よさらばとな。
Are we connecting, Mr. Kersey?

ポール:・・・。

警部:いいかニューヨークに現れるなよ。未来永劫に。
We want you to get out of New York. Permanently.

ポール:警部...
Inspector...

ポール:私が憎いかね?
...by sundown?

(警部:無言で首をふり、鼻をかみながら病室を去る。)

 ポールが言った「狼よさらば」の言葉を、警部も口にする。敬意をこめて。警察もきみのようになりたいが、できないのだ。われわれは通じ合えるが、共存できない。
 名シーンだが、原語はそんなこと言ってなかった!
 「Death Wish」を「狼よさらば」と訳すセンスもすごいが、それを映画の中に、あたかもテーマのように盛り込んでいたとは。

 「街から出ていけ」と言われ、「日没までに?(...by sundown?)」と返すのも、西部劇のお約束。ここでもポールが西部劇に酔っていたことがわかる。警部は首を振って、無言で去っていく。リスペクトのように見えたが、「コイツ、頭おかしい」とさじを投げたのかも? 本来はそうだったのに、変えてしまったのか。

 結論。おもしろかった。
 復讐者はとかく「正義」と描写されるが、本作は抑制が効いている。まぁ、そうした工夫も虚しく、ヴィジランテ映画(自警団映画)なんてジャンルができてしまったが、それはそれ。21世紀に見直す価値があると思う。

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