N氏の憂鬱
2005年 生活 仕事 N氏私の友人に、起業したプログラマがいる。彼のことを仮にN氏と呼ぼう。
N氏は今、びみょーな立場にいる。
ただ座っているだけで、高給がもらえるのだ。
もう少し説明しよう。
N氏は、大企業のSEとして招聘された。その企業内に席が用意され、毎日出社している。ときおり発生するトラブルに対処することがN氏の仕事だ。それは、壁を見張っているような仕事らしく、なぁーんにもすることがない日の方が多いそうだ。
ほんの数ヶ月の暫定勤務のハズが、なぜか6年もつづいている。
6年間、ぼーっと過ごしていたわけではないが、この1年は危機感を覚えるほどにヒマらしい。
──危機感を覚えるほどヒマ?
なかなか耳慣れない言い回しである。
N氏の憂鬱は、自分がまったく成長しなくなったことだ。
新しい技術を覚えることも、使うこともない。完全な飼い殺し状態だ。
この仕事に就く前は、明日をも知れぬ風来坊だった。
私は、そのころからN氏を知っているが、本当にいい加減な人物だった。英語が堪能なので、ふらりと国外で働いていることもあった。
そんな自由を売って、安定を得た。
……といっても、かりそめの安定にすぎない。いつかは終わる。
(そのとき、自分になにが残っているだろう? そこから先はどうするか?)
N氏の憂鬱は、他人事に思えなかった。
◎
ここまで読んで、あなたが思いつくであろうアドバイスを、私も述べた。
私「仕事の効率化して、出社日を減らしたら?」
N「考えられるかぎり効率化したよ。マニュアルも作った。ヒマだから。
でも、毎日座っていることが仕事だから、出社日は減らせない」
私「だれかを雇って、代理に座らせたら?」
N「駄目だって。ぼくが座っていることが重要なんだって」
私「土日に別の仕事をしたら?」
N「子どもができちゃったから、土日は働きたくない。平日の夜も駄目」
私「稼いだ金で、投資をしてみたら?」
N「家を買っちゃったから、あまってない。子どもに注ぎ込んでる」
私「こっそり隠れて、平日の昼間に仕事を並行させるのは?」
N「もう、やってる。小遣い稼ぎじゃ、燃えないなぁ」
私「いっそ、辞めちゃったら? 今のうちに!」
N「うーん。子どもの養育が終わったら……」
私「それはいつ?」
N「あと20年くらい……」
私「……」
N「……」
話をするうちに、N氏への同情心が薄らいできた。
こういっちゃなんだが、もう駄目かもしれない。