N氏の教え
2005年 生活 N氏「流れに身を任せるんだよ」
と、N氏は言った。
(なんに? 宇宙の大いなる氣の流れか?)
と、つっこみたくなるほど、N氏は神々しく見えた。
N氏はラッキーマンである。本人も自覚している。
──たとえばこうだ。
打ち合わせがあるのに寝坊してしまった。
20分くらい遅刻する。詫びの電話を入れようとしたら、向こうから掛かってきた。
「すみません。都合が悪くなっちゃって、打ち合わせを1時間、うしろにズラしてもらえませんか。本当に申し訳ありません!」
「あぁ、いいですよ」といって電話を切るN氏。
これでコーヒーが飲める。(ラッキー♪)
プログラム開発で、どうにも難しいパートに遭遇した。
自分でやれると言ったパートだから、今さら無理とは言えない。迫る〆切。どうする? 悩んだ末、N氏は寝てしまった。そして翌日、メールが届く。
「ご提案いただいたパートなんですが、弊社側の都合で使えなくなりました。本当に申し訳ありません。」
「もう開発しちゃってますよ」と主張して、料金は請求するN氏。
これでメモリが買える。(ラッキー♪)
◎
聞けば聞くほど、ムカついてくる。
(人としてどうなの?)と小一時間ほど問いたくなるケースもある。
「伊助さんはね、考え過ぎなんだよ。
考えても駄目なものは駄目。適当にやるんだよ。
そうすればうまくいくよ」
とN氏。とてもそうとは思えない。
物事は、放っておけば悪化していく。だから、そうならないように考える。工夫する。予見する。用意する。覚悟しておく。
それでもなお、不測の事態は起こる。
そんな極限状況においても冷静さを失わず、投げ出さず、果敢に立ち向かった者だけが栄光を掴めるのだ。
流れに逆らってこその人生ではないか?!
「ふぅん、大変だねぇ」とN氏。
胸の奥底からわき起こるドス黒い衝動。
これがたぶん、殺意というものだろう。