好きなことを仕事にするな【後編】

2006年 政治・経済 考え事
好きなことを仕事にするな【後編】

「好きな人を好きでいるために、その人から自由でいたいのさ」

映画『うる星やつら2』のクライマックスで、諸星あたるはそう述懐した。
女とみれば見境なく口説いていた あたるだが、ラムには一定の距離を保っていた。本心から愛している相手には絶対に告白も約束もしない。完全に自由な関係であればこそ、純粋に好きでいられる
......そう考えていたのかもしれない。

前編

友人Eは、筋金入りのオタクだ。彼の知識には商品価値があると私は思った。しかしEは、「好きなことを仕事にするな」という主義だった。

中編

そんなEがコミケで本を売っていた。そこそこ稼げているので、「好きなことを仕事にしているじゃん」と指摘した。しかしEにとってこれは趣味であり、仕事ではないらしい。

──では、仕事とはなんだろう?
個人の好き嫌いにかかわらず、約束をきちんと果たすことか?
だとすれば、好きなことを仕事にすべきではない。
仕事にした時点で、遠からずつらい選択を迫られることになるからだ。

2003年、友人Eはコミケから撤退した。もう本は出さないらしい。なぜって、ホームページを開設したから。ここで多くの人と交流できるし、評価も得られる。いちいち同人誌を出す必要はないそうだ。

(そんな馬鹿な! もったいない! これからだったのにッ!)
と私は惜しんだが、友人Eを説得するには至らなかった。

友人が評価されて、私は嬉しかった。そして評価とは、お金を稼ぐことだと思っていた。しかしそれは、よけいなお世話だったようだ。

好きなことを好きでいるために、それから自由であろうとする。完全に自由であればこそ、純粋に好きでいられる。

もしかしたら......と私は考える。
友人Eは、趣味であることを証明するために撤退したのかもしれない。

お金を稼げるなら、より多くの時間と労力をかけられる。「喰うための手段」としてのウェイトが高まれば、真剣にならざるを得ない。いつしか客のニーズを意識することになる。友人Eは、そんな自分自身の変化を忌避したのかもしれない。

そうかもしれない。
そうでないかもしれない。

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