好きなことを仕事にするな【中編】
2006年 政治・経済 考え事豊富な知識をもちながら、友人Eはそれで稼ごうとはしなかった。
稼ぐ手段にすれば、そこに「妥協と束縛」が発生する。
好きでやっているのかどうか、わからなくなる。
だから、Eは言う。
「好きなことを仕事にするな」と。
◎
そんな友人Eが、コミケで本を出した。
具体的な商品名は伏せるが、絶版になったシリーズの情報本だ。
細かく、びっちり記録されている。門外漢にはなんの価値もないが、わかる人にはたまらない魅力にあふれているらしい。私も何度か売り子を手伝っているけど、けっこうな売れ行きだった。
訪れた客の何人かが著者であるEに讃辞を述べていた。マニア同士の会話はサッパリわからないが、どちらも楽しそうだった。メモ魔のEは、話したポイントを書き留めていた。次の改訂版に活かすためらしい。
自分の作った本が売れるのは、Eにとっても嬉しいようだ。
──私はふと思った。
これこそ、好きなことで稼ぐ端的な例じゃないか!?
1冊の本を作るためには「妥協と束縛」もあるだろう。
しかしそれは、必ずしも不快じゃないはず。
そうさ、好きなことでお金を稼ぐのは悪くない。
そこに価値があると認められるからこそ、お金が払われるのだ。
好きなことで認められるなら、こんなに嬉しいことはない!
◎
私がそう指摘すると、友人Eは答えた。
「これは仕事じゃない。
つづけるかどうか、客の指摘を聞くかどうかは、おれが決める。
おれが主体でやっている趣味の世界だ」
そうかもしれない。
そうでないかもしれない。