伸ばされた寿命
2008年 社会 死生観 考え事グリム童話に、『じゅみょう』という話をあるのをご存じだろうか。
じゅみょう
世界を作り終えた神さまは、すべての動物に30年の寿命を与えることにしました。その話を聞いたロバは神様のところにやって来て、こう言いました。
「神さま、30年の寿命は長すぎます。
そんなに長い間、重い荷物を運びたくありません」
そこで神さまは、ロバの寿命を18年削りました。次にイヌがやってきて、こう言いました。
「神さま、30年の寿命は長すぎます。
そんなに長い間、走ったり唸ったりできません」
そこで神さまは、イヌの寿命を12年削りました。次にサルがやってきて、こう言いました。
「神さま、30年の寿命は長すぎます。
そんなに長い間、陽気で馬鹿なことをつづけられません」
そこで神さまは、サルの寿命を10年削りました。最後にニンゲンがやってきて、こう言いました。
「神さま、30年の寿命は短すぎます。
自分の家を建て、田畑が実りをもたらし、やっと暮らしを楽しもうとするときに死んでしまうのは残酷です。
もっと寿命を増やしてください!」
そこで神さまは、ロバとイヌとサルから削った寿命をニンゲンに与え、70年の寿命としました。こうしてニンゲンは、最初の30年は元気に、喜びある暮らしを送れるものの、それをすぎると重い荷物を背負う18年、走ったり唸るだけの12年、最後は人様の笑いものになる10年を過ごすことになったとさ。
グリム童話が刊行されてから200年。現代はさらに医学が進歩して、多少のけがや病気では死ななくなった。しかし寿命が延びて、ニンゲンは幸せになったと言えるだろうか?
誰だって長生きしたい。もう十分ですと寿命を返すなんて、考えられない。だけど、どんな風に生きたいかを答えられる人は少ない。高校生ならまだしも、30過ぎて「生きがい」がないなら、無駄に長生きしてると言われても仕方ないのかもしれない。