生きるとは

2008年 哲学 死生観 考え事
生きるとは

「生きるって、どういうことなんでしょう?」

部下のR子が唐突に訊ねてきた。タクシーで移動中のことだった。私は即座に、「戦うこと」と答えた。
「それじゃ戦わない人は死んでるんですか?」
「そうだ。なにかを得るため、拒絶するため、征服するために行動しないなら、その人は生きてないだろう」
期待した答えではなかったらしく、R子の首をかしげた。

R子は先日テレビで、身体障害者の特集を見たという。そこで障害者が「生きることは?」と問われ、「働くこと」と答えたらしい。この答えはR子の腑に落ちなかった。健常者であり、日々働いているR子にとって、働くことは当たり前。そこで私にも尋ねてみたらしい。
私はその番組を見てないが、「働くこと」の尊さはわかる。最近は蔑視されがちだが、「働くこと」は社会とのつながりである。大仰な言い方をすれば、自分の価値を認めさせ、存在を勝ち取ることだ。働かずに生きるのは、つまり「生かされている」のであって、あまり実感はわかないだろう。

「それじゃ、R子にとって生きるとは?」
「……楽しむこと」
「それじゃ楽しくないときは、死んでるの?」
「死んでますね」
「ふぅん」

R子は若いな、と思った。

ほどなくタクシーは目的地に到着した。