特別なあなた:A面
2008年 社会 考え事私の友人に、カメラマンからライターに転職した人がいる。
せっかく修行を積んで、ちゃんと稼いでいたのに、なぜ辞めてしまったのか? それはカメラが特別なものではなくなったからだという。
かつてカメラは特別なものだった。写真撮影は、特別な人(カメラマン)の専売特許だった。しかしデジカメが普及して、世界は変わった。カメラは当たり前の道具になり、猫も杓子もシャッターを切るようになった。
そしてプロは、膨大な数に増えたアマチュアカメラマンと戦うことになる。
プロは与えられた条件の中でベストを尽くすが、アマチュアは際限なく頑張ってしまう。いつまでも待ち、どこまでも足を運び、大量に撮影して、無償で公開する。1人では無理でも、1,000人いれば誰かがベストショットを撮るだろう。
たとえば、桜の盛りを撮るためにプロが出張しても、桜の近所に住んでいるアマチュアが何年も撮りためた写真に勝てなかったりする。
カメラが特別でなくなったとき、カメラマンという仕事も特別ではなくなった。もちろん、今でもカメラマンという仕事はある。しかしそれは、アマチュアが追いつけない領域に突き抜けた人だけだ。先の例で言えば、1,000人のアマチュアが撮れない写真を撮るのがプロなのだ。むろん、個性が強すぎて作品が理解されない人もいる。それでもあきらめず、何年もつづけていれば大成することもある(しないこともある)。いずれにせよ、まっとうな神経では到達できない。
若き日の彼は悩み、そしてカメラを捨てた。
現在、彼はカメラに関する記事を書いている。これまで知識と経験が活かされた、おもしろい文章だと思う。文章と写真にどれほど違いがあるとも言えないが、彼は自分を活かせる業界に移ったわけだ。あるいは、よりライバルの少ない(自分が特別になれる)世界に逃げたとも言える。
──彼は賢いのか、ずるいのか?
いろいろ考えてしまう夜もある。