正社員の品格

2007年 政治・経済 仕事 社会
正社員の品格

「最近ね、行き詰まっててね……」

とKは述懐した。
Kは某社に勤めるサラリーマン。とても要領がよく、テキパキ仕事をする。数年前、Kの仕事を手伝ったことがあるが、なかなか仕切り上手だった。

そのKが悩んでいた。たとえばこうだ。
上司から指示された仕事が午前中に片付いたとしても、夜まで「終わった」と報告しないようにしているんだって。なぜなら、早く片付けると次の仕事が来てしまうから

まぁ、時間で雇われている身なので、仕事をするのに否も応もないのだが、あれもこれもと際限がない。結果、まったく関係ない仕事でサービス残業するハメになる。これじゃ、早く片付けた意味がない。

それで評価や給料が上がるわけじゃない。
上司は、「早く片付いた」=「簡単な仕事だった」と解釈しているようだ。要領のよさも、背が高いとか腕が長いといった特徴と同列に認識され、Kなりの努力や工夫を訊ねられたこともない。

かたや仕事が遅くても、ペナルティはない
3倍の仕事を片付けても、3分の1しか片付けられない人と同じ給料になる。できる人は、できない人×3とチームを組まされて4人分のノルマを果たす。これを分け合うから、評価も均等になるらしい。

──この仕組みに気づいたKは考えた。

「おれはヒラのように起業する気はない。
 評価や給料のアップより、ふつうに仕事を終えて帰りたい。
 だからサラリーマン(賃金労働者)をやっているんだ。

 仕事の能率を上げると、給料の効率は悪くなる

 ならば、もっとも効率がよいところまで、能率を落とした方がいい」

で……Kは意図的に仕事を遅くした。
仕事を片付けるより、仕事を断るために努力した
結果、チームの売り上げは下がったが、給料は変わらなかった。
そして悲しいことに、評価も変わらなかった。

いや、むしろ上がったのかもしれない。
Kが能力を隠していることは、周囲も上司も気づいている。
それを引き出すために、上層部はKの昇進を検討しているらしい

Kの職場がどうなっているのかは知らない。
ただ、これだけは言える。

たとえ昇進しても、Kはもう能力を発揮しないだろう。