獄門島 (片岡千恵蔵#2-3) Gokumon-Jima

1949年 日本映画 5ツ星 #金田一耕助

「封建的な......余りに封建的な」

片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズ第2弾。映画は前篇75分、後篇94分に分けて上映された。私が鑑賞したのは2019年だから、70年の開きがある。本作以降の「獄門島」は映画もテレビドラマも見てるので、最後に最初の「獄門島」を見たことになる。
おもしろかった。こんなに楽しめるとは思わなかった。

民主主義の使者・金田一耕助

片岡千恵蔵の金田一耕助は、「ソフト帽にネクタイ、トレンチコート」が定番スタイル。変装、ピストルの達人で、美人助手・白木静子を伴っている。どもったり、頭をかきむしることはなく、きわめてスマート。明智小五郎のイメージに近い。

このように変更したのは金田一耕助を、戦前の因習に囚われた事件を、戦後の民主的な精神によって断罪する「民主主義の使者」として描くためだった。だから金田一は島では浮いた存在であり、犯人に同情することもない。ヒーローなのだ。
当時の娯楽産業は、GHQによって規制されていた。その中で作れるもの、喜ばれるものを模索した結果のアレンジだ。片岡千恵蔵はこのように述べている。

「金田一耕助は、原作者には申し訳なかったと思ってます。この名探偵は、エエカッコしてはいけないのですよ。ヨレヨレの着物ですか、これでなければいけないのです。でも当時は、それでは通らなかったですね。スマートにしないと、映画の主人公は通用しなかったのですよ。スター本位でしたから、スターのイメージを、壊してはいけなかったのですね。今なら原作通りでやれますが、当時はスマートなカッコしないと、おさまらなかったのですよ。これは今でも心苦しく思っています。」

片岡千恵蔵 - Wikipedia

謙虚に語っているが、映画はおもしろい。テーマが明瞭だから、すなおに楽しめる。
昨今の映画やテレビは善悪がハッキリしておらず、犯人に過度に同情したり、事件が解決しても問題が残るとか、つねに後味を悪くしようとしている。後味が悪いことが、高尚な作品と思い込んでいるようだが、それはちがう。

美人助手・白木静子

片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズでは、白木静子という美人助手が登場する。白木静子といえば「本陣殺人事件」の登場人物。どうやら第一弾『三本指の男』で知り合ったようだ。見てみたい。

『獄門島』では、前触れなく島に上陸するから戸惑った。金田一と同じく洋装で、丸メガネ。なにかのコスプレかと思うほどキャラが立っている。楚々とした佇まいだが、賢く、行動力があり、金田一耕助に尽くす。「耕助さん」と親しげだが、金田一の扱いは雑。それでいて、腕を組むことを自然に許容している。なにこれ? すんごいステキなんですけど。

「白木女史の捜査会議出席はありませんの?」
「女の出る幕じゃないよ」

もうひとりのダンディ、磯川警部

磯川警部(大友柳太朗)もハンサムで、かっこいい。やはり洋装で、島では目立つ。金田一を信頼しており、その推理を尊重する。金田一より硬く、積極的で、いいコントラストをなしている。有能。これまた、いい感じ。

まさかのハッピーエンド

ストーリーはびっくりするほど翻案されていた。マーガレット・ラザフォードの『夜行特急の殺人』くらい異なると言えば、わかってもらえるだろうか? おおむね下記のようなちがいがあるが、「俳句に見立てた殺人」がなく、おまけにハッピーエンドなのだ。

  • 獄門島(ごくもんじま)、分鬼頭(ぶんきとう)と呼ぶ。
  • 一(ひとし)は復員したが、家出中。
  • 三姉妹は白痴。
  • 嘉右衛門は、金田一が上陸したあと亡くなる。
  • 金田一はお志保(儀兵衛の妻)の邪心を戒める。
  • 花子の扼殺死体が漁具倉庫で見つかる。
  • 偽の電報を受けて白木静子が上陸する。
  • 雪枝の死体が、屏風岩の松の木の枝に吊るされていた。
  • 花子の死体を吊るしたのは章三(草履)。命じたのはお志保(利休下駄)。
  • 金田一はヘビをピストルで撃退する。
  • 金田一は早苗を尾行し、ギャングと洞窟内で銃撃戦。復員詐欺ではなく、かつての戦友が一のふりをしていた。
  • 月代は祈祷所で絞殺される。
  • 金田一は嘉右衛門に変装して、情報を聞き出す。
  • 儀兵衛、お志保が殺され、「幽霊」と言い遺す。
  • 金田一は了然に「動く目玉」を要求。
  • 了然は犯行を自白するが、金田一は認めず、高笑いする。
  • 天井裏に隠れていた嘉右衛門が姿を見せ、自決。
  • 事件を聞いて、一が帰ってくる。

犯人は嘉右衛門。三人の後見人と竹蔵の協力によって連続殺人を完成させ、その罪を分鬼頭の儀兵衛に転嫁しようとした。天井裏に隠れていたが、食事などの世話はお勝(嘉右衛門の妾)が担っていた。

嘉右衛門の犯罪には、同情の余地がまったくない。金田一が怒りを込めて断罪するのも無理はない。一の帰還によって島の未来も明るい。すごい。まさか「獄門島」をハッピーエンドに翻案できるとは思わなかった。

必見

場面展開が急だったり、セリフが早口で聞き取りにくいところはあるが、3回見ても飽きない。おもしろかった。本当におもしろかった。

獄門島
タイトル 金田一耕助 コメント
1949 獄門島 片岡千恵蔵 民主主義の使者!
1977 獄門島 石坂浩二 夜が暗い。
1977 獄門島(全4話) 古谷一行 「きがかわっているが仕方がない」
1997 獄門島 古谷一行 家督を継ぐのは早苗。
2016 獄門島 長谷川博己 キレる金田一。
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