悪魔が来りて笛を吹く (吉岡秀隆) The Devil Comes and Plays His Flute
2018年 日本ドラマ 5ツ星 #金田一耕助 探偵犯人も知らない動機
「悪魔が来りて笛を吹く」は、横溝作品の中で屈指の「後味の悪さ」を誇る。西田敏行(1979年版)がおちゃらけても、ぜんぜん救われなかった。2018年版は「後味の悪さ」にブーストをかけてきた。不整合もあったけど、謎解きのインパクトで吹っ飛んだ。すごい。素晴らしい。
NHKは攻めてる。2016年に長谷川博己(獄門島)と、池松壮亮(シリーズ・横溝正史短編集)で、これまでなかった金田一耕助を描いておきながら、さらに一歩踏み込んだ。アイデアは無限と言わんばかり。ひきかえフジテレビ「犬神家の一族」(加藤シゲアキ)は過去の人気作をなぞっており、志が低い。
吉岡秀隆の金田一耕助
独特だった。白髪まじりの中年だが、少年のような高い声。だらしなく、無気力だが、謎をほうっておけない。
ふつうの探偵は推理できると「わかったぁ!」と歓喜するが、吉岡秀隆はいやーな顔をする。「わかりたくないのに、わかってしまった」という雰囲気。言いたくないが、言ってしまう。そのせめぎあいが漏れている。
秌子のセックス依存症と同じ、性(さが)を感じる。
ミステリーの不整合
「悪魔が来りて笛を吹く」は、原作からして不可解な点が多い。
椿英輔は妻(秌子)と義弟(利彦)が近親相姦して悪魔(河村治雄)を産んだ事実が露見することを恐れて自殺するが、一方で悪魔の正体をほのめかす手がかりをばらまいている。美禰子、一彦にとっては迷惑な話だ。
東太郎が天銀堂事件の犯人を警察より先に見つけ、いいように使うというのも無理がある。関係者が都合よく自殺するのも不自然だ。
これらに整合性をつけることはできるが、持ち味が失われる。本作は不整合を、謎解きのカタルシスで吹き飛ばした。そんな方法もあったのか。
二度見ると、金田一が東太郎がどこまで知ってるか、探っているのがわかる。原作を知ってる人だけが感じる、「妙だな?」という感じ。これって、初見の人は感じ取っただろうか。
菊江さん、すてき
菊江さんは公丸の妾。これまでの映像化では、うるさいか、存在感がないかのいずれかだったが、本作では魅力的なキャラクターに仕上がっている。
椿家の異常性を軽蔑しているが、その情けにすがって暮らす現状もわきまえている。公丸が死んだことで性的な奉仕はなくなったが、東太郎と菊江が家事全般を引き受けているため、比較的安定した立ち位置から発言できる。
金田一をたびたびからかうが、真から軽薄というわけではなさそう。おもしろい。金田一耕助のパートナーになってほしかった。
美禰子もがんばった
椿美禰子(志田未来)は、1979年版(西田敏行)の斉藤とも子に並ぶほど快活で、可憐で、芯がある。一彦が東太郎に父の非をわびて怒られるシーンもよかった。正しく生きようと思っても、それを許さない因縁。家を売ってふたりは自由になれそうだ。
それから華子(利彦の妻)がよかった。「あたくしの夫はひどい人です。
あのひとこそ、あたしにとっては悪魔でした。だから知りたいんです。この、喜ぶ心がまちがってないことを知りたいんです。」いろんな華子さんがいたけど、本作が最高。
事件の真相
椿秌子と新宮利彦の姉弟は、結婚したのちも近親相姦を楽しんでいた。玉虫公丸の別荘で、利彦は駒子を強姦し、小夜子が産まれる。同時に秌子とまぐわい、河村治雄が産まれる。赤ん坊を河村辰五郎に引き取ってもらった。
小夜子と治雄は成長し、異母兄妹と知らず愛し合い、妊娠する。ふたりの関係に気づいた駒子(妙海)が真相を告げると、小夜子は自害。新宮利彦に殺されたと考えた治雄は、復讐のため椿家に潜入する。駒子から事情を聞いていた当主・椿英輔は、三島東太郎として雇用する。駒子はのちに自害。
天銀堂事件が起こると、三島東太郎は英輔を犯人として通報する。事件当時、治雄の素性を確かめに須磨へ行っていた英輔は、アリバイを証言できなかったが、嫌疑不十分で釈放。あちこちに「悪魔=河村治雄」の存在をほのめかす手がかりを残し、自害する。
東太郎は天銀堂事件の犯人であり、英輔そっくりの飯尾豊三郎を使って、英輔が生きているように見せかける。砂占いの悪戯、フルートの演奏などを駆使するが、玉虫公丸に素性を知られたため殺害。のちに利彦、飯尾豊三郎を殺害。秌子は毒を飲むも一命を取り留める。
金田一は関係者を集め、謎解きする。東太郎は自身の出生を知らず、殺害を繰り返していた。激昂した東太郎は秌子をナイフでめった刺しに。等々力警部に射殺された。
東太郎が暴走したのは金田一の挑発によるものだし、拘束してなかったのは等々力の落ち度だが、ふたりの責任は問われない。不自然だが、これはこれでいいのだ。
金田一耕助 | |
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石坂浩二 | |
渥美清 |
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古谷一行 |
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鹿賀丈史 |
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豊川悦司 |
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上川隆也 | |
稲垣吾郎 |
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