本陣殺人事件 (中尾彬) The Murder in the Honjin
1975年 日本映画 3ツ星 #金田一耕助 密室 探偵 推理個人の問題なのか?
あらすじ
岡山県の旧本陣・一柳家で、密室殺人が起こった。長男・賢蔵と妻・克子が、結婚したその夜に、日本刀で斬り殺されたのだ。屏風に残された血の指あと、賢蔵への脅迫状、日記の記述から、《三本指の男》が犯人と思われた。しかしだれが犯人であれ、庭の雪に足あとを残さず消えるのは不可能だった。
2019年に鑑賞。私にとって最初の「本陣殺人事件」。鈴子ちゃんの葬式と強烈な遺影からスタートするから、重要人物と思いきや、そんなことはなかった。鈴子ちゃん、目立ちすぎ。
本作には連続殺人や見立て殺人と言った派手さがない。《三本指の男》って響きは横溝正史っぽいが、おどろおどろしい人物像は(意外にも)出てこない。密使殺人のトリックは複雑だが、視聴者が推理する余地はない。犯人の動機はさっぱり共感できず。探偵がドラマを動かすこともない。これじゃ謎解きされても、「ああ、そうだったのか!」と興奮できない。
シンプルなのは原作通りかもしれないが、2時間映画にするならもっと工夫してほしかった。
金田一耕助
中尾彬の金田一耕助は、「ジーンズにサングラスのヒッピー姿」という出で立ち。名乗るまで金田一とわからなかった。もちろん原作に忠実である必要はないが、そのように変えた理由がわからない。片岡千恵蔵の金田一耕助が「ソフト帽にネクタイ、トレンチコート」だったのは、旧態依然とした村社会の闇を、民主主義の使者・金田一耕助が断罪するという構図を生み出すためだった。中尾彬の金田一耕助はたくましい若者という印象しかなく、それは事件解決に寄与しない。まぁ、現代を舞台にしたら袴姿が似合わないというだけかもしれない。
- 離れに犯人が隠れる場所はない/発見時に入れ替わることもできない → 犯人は外に出ていない。トリックがある → なぜ密室殺人に見立てたのか? → 雪が降ることは予見できなかった → 密室殺人になったのは偶然で、目的は外部の犯人と思わせるため → つまり無理心中 → なぜ結婚初夜で、雪が降ったにもかかわらず決行したのか?
- 密室殺人がトリックなら、《三本指の男》は事件に無関係 → しかし賢蔵の日記に言及があり、三郎も実在を強調する → 賢蔵・三郎は事件に関与 → その動機は?
という展開を期待したが、金田一は探偵小説マニアの三郎に注目し、揺さぶりをかける。三郎も反発して余計なことをするから、推理が補強され、全貌が露見する。魅力ある推理とは言えない。
トリックがわかれば解決する事件じゃない。無理心中と推理できても、克子が賢蔵を殺した可能性だってある。ふたりがむしろ、そう思わえておきながら逆だった、というなら、おもしろかったかもしれない。
事件について
舞台を戦前(1937)から現代(1975)に移しているが、事件はそのまま。だから「○×じゃなかった」という動機が珍妙に見える。いや、戦前の日本であっても珍妙だ。さらに賢蔵の狂気が全面に押し出されたことで、「旧家の血と因習が引き起こした悲劇」と思えなくなった。まぁ、狂っていたならしょーがない、と。
一柳家は、身分違いの克子との結婚に反対し、婚礼の席上でも無礼を働き、死後も遺骨を拒絶する。しかし当主である一柳糸子は浮気中。旧家なんて身勝手で、価値がない連中かもしれないが、そう思わせるように演出されてない。障害児である鈴子ちゃんは因習と無縁であるが、それが幸福とも思えない。ちなみに片岡鶴太郎版「本陣殺人事件」(1992)は、事件の背景(人間関係)を拡張した異色作になっている。
無理心中の再現シーンは強烈だった。克子さんの視点では、そりゃあ怖かっただろう。賢蔵が日本刀で自害する描写も痛々しい。なぜそこまで? どうして婚礼を断らなかったのか? みんなそう思う。私もそう思う。そしてその答えはなかった。
公開 | 媒体 | タイトル | 金田一耕助 | コメント |
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1947 | 映画 | 三本指の男 | 片岡千恵蔵 | (未見) |
1975 | 映画 | 本陣殺人事件 | 中尾彬 | ヒッピー金田一 |
1977 | ドラマ | 横溝正史シリーズI・ 本陣殺人事件(全3話) |
古谷一行 | 日和警部との出会い |
1983 | ドラマ | 名探偵・金田一耕助シリーズ・ 本陣殺人事件 三本指で血塗られた初夜 |
古谷一行 | そつなくまとめた |
1992 | ドラマ | 横溝正史シリーズ・ 本陣殺人事件 名探偵が挑む怪奇密室殺人の謎!? |
片岡鶴太郎 | 背景を拡張 |