非対称な話

2007年 哲学 仕事
非対称な話

知人が仕事を辞めることになった。

突然と思ったが、突飛とは思わなかった。まぁ、よくがんばったんじゃないかな。それほど深い付き合いはなかったが、退職前に飯を食うことにした。

焼き魚をつつきながら、私は訊ねた。
「これから、なにすんの?」
辞める理由は聞いても意味がない。未来に目を向けないとね。彼は答えた。
「数学の本でも読もうかと……」

私はしばし、呆気にとられた。
「数学の本を読んで、どうすんの?」
「どうもなりません。そこがいいんです
「どうして?」
「数学って、なんの役にも立たないでしょ。
 だから数学は純粋に学問なんですよ。
 実益がどうとか、効率がどうとか、そーゆーことを考えずに済むじゃないですか」
「……なるほど」
私はみそ汁をすすった。

(本なんて、働きながらでも読めるジャン!)

とは言わなかった。言えるはずもない。
要するに彼は、仕事がイヤになっちゃったわけだよね。根深いところで。

世の中には、働きたくても働けない人がいる。
そのかたわらで、働けるのに働きたくない人もいる。

これから日本は、どうなるんだろう。

※例によって写真と本文は関係ありません。