大往生
2005年 生活 健康 医療祖父が死んだ。
明治に生まれ、医者となり、戦争をくぐり抜け、5人の子を育てた祖父がこの世を去った。
97歳と10ヶ月だった。
医者だったためか、祖父は自分の死期を(かなり正確に)理解していたようだ。みずから病院に行くといい、自分の状況を担当医に告げ、延命治療を拒否したらしい。
「私の様態が悪化したら、そのまま放置しておいてほしい。
延命治療しても、どれほども生きられないから。」
担当医も、付け加える言葉はなかったそうだ。
そして……様態が悪化した。
◎
私は病院に行かなかった。これも、祖父の言いつけだった。
「来てくれても、もう、きみを識別できない。
脳が駄目になってるから。
そんな、みっともない爺ちゃんを見ないでほしい。
それよりも、自分の生活をきちっと守ってくれ。」
自分の頭を指して、「脳」というあたりが祖父らしかった。
祖父は、ちょっと変わった死生観をもっていたように思う。
自分の死を、まるで誕生日のように捉えていた。「もうすぐだから」と笑っていた祖父を覚えている。
そして、その日がやってきた。
大往生だった。
◎
今日、告別式に参列してきた。
祖父は火葬に付され、清冽な秋の空へと消えていった。
残った白い骨は、骨壺に収められた。
……私は思う。
祖父のように逝きたいと。