大往生

2005年 生活 健康 医療
大往生

祖父が死んだ。

明治に生まれ、医者となり、戦争をくぐり抜け、5人の子を育てた祖父がこの世を去った。
97歳と10ヶ月だった

医者だったためか、祖父は自分の死期を(かなり正確に)理解していたようだ。みずから病院に行くといい、自分の状況を担当医に告げ、延命治療を拒否したらしい。
「私の様態が悪化したら、そのまま放置しておいてほしい。
 延命治療しても、どれほども生きられないから。」
担当医も、付け加える言葉はなかったそうだ。

そして……様態が悪化した。

私は病院に行かなかった。これも、祖父の言いつけだった。
「来てくれても、もう、きみを識別できない。
 脳が駄目になってるから。
 そんな、みっともない爺ちゃんを見ないでほしい。
 それよりも、自分の生活をきちっと守ってくれ。」
自分の頭を指して、「脳」というあたりが祖父らしかった。

祖父は、ちょっと変わった死生観をもっていたように思う。
自分の死を、まるで誕生日のように捉えていた。「もうすぐだから」と笑っていた祖父を覚えている。

そして、その日がやってきた。
大往生だった

今日、告別式に参列してきた。
祖父は火葬に付され、清冽な秋の空へと消えていった。
残った白い骨は、骨壺に収められた。

……私は思う。
祖父のように逝きたいと。

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