レビュー  1974年11月24日  に発表された 

オリエント急行殺人事件 (アルバート・フィニー主演)
Murder on the Orient Express

4ツ星

鼻持ちならないポワロ、それが必要だった

あらすじ

仕事を終えたポワロは、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行で帰路につく。道中、アメリカの大富豪ラチェットが、寝室で刺殺体として発見される。12ヶ所もの一貫性のない刺し傷、多すぎる手がかりから、マフィアによる報復と思われた。積雪によって立ち往生した列車内で、ポワロが調査に乗り出す。

上映当時は、豪華キャストが話題になったそうだが、あいにく私はだれも知らない。そして登場人物が多く、顔と名前が一致しない。それでもクセのある演技が印象に残るから、名優はやはり名優だった。

ポワロの聞き込みによって事件の全容と、乗客たちの素性が明かされていく。そして謎解き。漠然とした違和感が、ポワロの推理によって「意味がある」「うそ」と識別されていくのは痛快だった。
私にとって最初の「オリエント急行殺人事件」だから、そりゃあ衝撃的だった。青い照明に浮かび上がる犯人たちの顔と苦悩。なるほどと合点して、はっと気づく。いまポワロは、12名の運命を決めなければならないのだ。

よりシンプルな推理が適用され、ほっと緊張感がほぐれる。名優たちが乾杯し、除雪車が線路を開通させる。動き出す汽車。陰鬱な事件でありながら、清々しいラスト。なんとエレガントな殺人事件。
おもしろかった。


2018年、ケネス・ブラナー版『オリエント急行殺人事件』を鑑賞した。思うところ書き出しておく。

あいつが犯人だ!

ポワロの尋問が終わると、ビアンキ(重役)が「あいつが犯人だ」と言い、コンスタンティン(医師)が疑問点を呈する。このヤリトリによって、状況の異質さを理解できた。ポワロがヤリトリに参加しないところがいいね。
すぐれた演出であり、ピーター・ユスティノフのポワロ作品に取り入れられが、スーシェ版、ブラナー版にはなかった。もったいない。

鼻持ちならないポワロ

ミステリーのカタルシスは、明瞭な推理によって犯人が追い詰められ、邪悪な本性が暴かれるところにある。ところが本作の犯人は邪悪ではない。謎解きが進めば進むほど、ポワロが知性という暴力をふるっているように見えてしまう。
そもそも本作のポワロは高圧的で、神経質で、頭のよさをひけらかし、愛嬌のかけらもなかった。ユーモラスな演出もあるにはあったが、好意を抱くことはない。ぶっちゃけ、「近くにいてほしくない人物」である。

しかしポワロが鼻持ちならない人物であればこそ、クライマックスが映える。たたみかける推理は、まるで知性という暴力のように犯人たちを追い詰め、まるで彼らが被害者のように見える。実際、彼らは被害者でもある。では正義とは? ポワロは彼らを警察に突き出すのか? この緊張感がなければ、安堵も
犯人たちがあわれに、被害者のように見えてくる。知性はまるで、暴力のように追い詰める。ポワロは彼らを警察に突き出すのか? この緊張感がなければ、安堵もない。
余談だが、演じたアルバート・フィニーは当時38歳だった。吹き替え(田中明夫)の効果も大きいが、えらい化けっぷりだね。

本作は「オリエント急行殺人事件」最初の映画化であり、もっとも完成度が高い。個人的にはデビット・スーシェ版の演出が好きだが、それも本作があってこそだ。後続の作品を見る人は、ぜひとも押さえてほしい減点である。

1974年 オリエント急行殺人事件 (アルバート・フィニー主演)
2001年 オリエント急行殺人事件/死の片道切符 (アルフレッド・モリーナ主演)
2010年 オリエント急行の殺人 (デビット・スーシェ主演)
2015年 オリエント急行殺人事件 (野村萬斎 主演)
2018年 オリエント急行殺人事件 (ケネス・ブラナー主演)


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オリエント急行殺人事件 (アルバート・フィニー主演)