ナイルに死す / 名探偵ポワロ#52 (デビット・スーシェ主演) Death on the Nile / Agatha Christie's Poirot #52
2004年 海外ドラマ 3ツ星 密室 探偵 @アガサ・クリスティおもしろいけど、ややこしい
あらすじ
ナイルを川下りする客船で、若き資産家のリネットが射殺された。もっとも疑わしいのはジャクリーンだが、彼女はリネットの夫サイモンの殺害未遂で、完ぺきなアリバイがあった。そして乗客全員にリネットを殺害する動機と機会があった。
翌日、メイド(ルイーズ)と作家(サロメ)が殺される。ポワロとレイス大佐が謎に挑む。
クリスティの最長編をだいぶ刈り込んでいるが、本筋に関係ない登場人物や、偶然の出来事がまだまだ多い。しかも登場人物それぞれの殺意と、殺害の可能性があまり言及されないため、ぶっちゃけ、「不審な通行人」と化している。
中盤、ポワロは一気に無関係な人物を取り除くが、あまりに強引だし、そもそも不要なら登場させなければいい。本作はクローズド・サークルなのだから、全員が容疑者であるべき。
また船の見取り図がないため、客室が右舷にあるのか左舷にあるのか、上下はどうなっているか、さっぱり把握できなかった。ドラマで推理に必要な情報を出すのは難しいな。
プロットを書き出してみよう。まだ見てない人は読まないように。
登場人物
名前 | 説明 |
---|---|
リネット・ドイル | 第1の被害者。若くて美しい資産家。親友ジャクリーンが紹介した婚約者祭文を略奪して結婚する。つきまとうジャクリーンを警戒していた。 |
ルイーズ・ブールジェ | 第2の被害者。リネットのメイド。リネットの死体を最初に発見する。証言がおかしかった。メスで喉を切られる。 |
サロメ・オタボーン | 第3の被害者。小説家。アルコール依存症。メイド(ルイーズ)殺害の現場を目撃したが、その名を口にする前に射殺される。 |
サイモン・ドイル | リネットの夫。ジャクリーンを捨て、リネットと結婚する。リネットが殺された時間、ジャクリーンに足を撃たれて動けなかった。 |
ジャクリーン・ド・ベルフォール | リネットの親友。ドイルを奪ったリネットを憎んでいる。新婚旅行をずっと付け回し、殺意を隠さなかった。リネットが撃たれたとき、コーネリアと一緒だった。 |
マリー・ヴァン・シュワイラー | 旧家の老婦人。ロザリーが川になにか投げ捨てたと証言。見つかった拳銃は婦人のショールに包まれていた。盗癖があり、リネットの真珠の首飾りを盗んでいたが、それはニセモノだった。 |
コーネリア・ロブスン | ヴァン・シュワイラーの親戚。ジャクリーンがドイルを撃った現場にいた。父親はリネットの父親に破産させられている。母親の盗癖を知っていた。 |
ロザリー・オタボーン | サロメの娘。母親が隠していたアルコールを川に捨てた。そのときティモシーを見たが、好意を寄せていたので黙っていた。 |
ティモシー・アラートン | リネットの友人、愛称ティム。マザコン。走る足音、コルクを抜く音、川になにかが落ちる音を聞いたと証言。じつは宝石泥棒で、真珠の首飾りをニセモノにすり替えていた。 |
アラートン夫人 | ティムの母。息子が宝石泥棒であることを知らない。 |
アンドルー・ペニントン | リネットの財産管理人。じつはリネットの財産を横領していた。サロメ殺害に使われた銃の持ち主。 |
ファーガスン | 共産主義の青年。ブルジョアを憎んでいる。ジャクリーンがドイルを撃った現場にいた。 |
ベスナー | 医師。ロザリーに惚れている。ルイーズ殺害に使われたメスの持ち主。 |
疑問
- なぜ犯人は銃を川に投げ捨てた? ジャクリーンに罪を着せる格好の証拠品なのに。
- なぜショールに焦げ跡が? 発射された2発は消音されなかったのに。
- なぜ犯人は、ジャクリーンの騒動が起きる前にショールを盗んだか?
- なぜポワロのワインに睡眠薬が?
- なぜリネットのマニキュアの瓶にインクが入っていた?
- なぜメイドは犯行現場を見たことをほのめかした?
推理
- 犯人はポワロに睡眠薬を飲ませた / 夕べにショールを盗んだ
- ジャクリーンの発砲は計画的だった。
- ジャクリーンとサイモンは、交互にアリバイを作っている。
- 赤いインクは血糊の代わり。
- メイドは犯人に、自分が目撃したことを伝えたかった。
- あの場にいたサイモンが実行犯。
- サイモンが部屋に入れたなら、足は怪我してなかったことになる。
- 3発目で自分の足を撃った。
- 3発撃ったことを隠すため、銃を捨てた。
- メイドは医者のメスで喉を裂かれた。
- メスはサイモンの部屋にあった。
- サイモンがジャクリーンに目撃者を伝えるチャンスがあった。
- サイモンは目撃者がいることを怒鳴った
- 隣室のジャクリーンに伝えるため。
クローズド・サークルを活かせてない
うーん、殺害のトリックはおもしろいが、冷静に考えると不合理がある。最大の疑問は、なぜ船上で決行したか、だ。おかげで容疑者は限定され、『海上の悲劇 (Problem at Sea)』のように、部外者の犯行で片付けられなくなった。リネットを憎む客が多かったから決行したなら、乗客全員が殺人の動機と機会があったことを強調すべきだろう。その場合も、宝石盗難やアルコール廃棄、恋愛模様はノイズとなる。
でもまぁ、エジプトや豪華客船の情景は素晴らしく、殺人事件の1つでも起こしたくなる気持ちもわかる。このあたり気にするのは野暮かもしれない。
比較
ユスティノフ版『ナイル殺人事件』(1978)は下記の特徴があった。今回もユスティノフ版の方がおもしろかった。スーシェ版の方が映像はきれいなんだけどね。
- 宝石盗難やアル中のようなイベントを削除、もしくは省略。
- 客たちに殺害の動機とチャンスがあったことを再現ドラマで伝える。
- ポワロがコブラに襲われる。
- サイモンが馬鹿な犯罪を起こさぬよう、ジャクリーンが入れ知恵した。
- 証拠がないため、ペテンで自白させる。
- ロザリーの結婚相手が異なる。
それでもやっぱり登場人物が多い。これ以上整理しちゃうと、2時間枠にならないか。
再視聴
ポワロはジャクリーンを説得する際、自分の人生に愛はなかったとつぶやく。いささか唐突なんだけど、シリーズを通してみたあと思うところがある。多くの人が愛ゆえに過ちを犯し、ポワロはそれを断罪してきた。そのポワロ自身の人生に、愛はなかった。ポワロは、殺人を辞さないほど人を愛せる犯人たちを、うらやんでいたのかもしれない。
※愛を知らぬポワロはひとり残される。
ポワロ:愛がすべてではありません。
ジャクリーン:すべてよ。すべて。
おわかりでしょうポワロさん。
わかってらっしゃるはずよ。
ポ:欠けておりました。それが私の人生には...
ジャ:おやすみポワロさん。
ポ:おやすみ。
アガサ・クリスティ | |
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ポワロ | |
デビット・スーシェ (David Suchet) | |
ピーター・ユスティノフ (Peter Ustinov) | |
声:里見浩太朗
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ミス・マープル | |
マーガレット・ラザフォード | |
アンジェラ・ランズベリー | |
ヘレン・ヘイズ | |
ジョーン・ヒクソン | |
ジェラルディン・マクイーワン | |
ジュリア・マッケンジー | |
声:八千草薫
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ゆっくり文庫 | |
奥さまは名探偵 | |
ほか | |
検察側の証人 | |
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