パディントン発4時50分 / アガサ・クリスティーのミス・マープル (S1E3) Agatha Christie's Marple: 4.50 From Paddington

2004年 海外ドラマ 3ツ星 探偵 @アガサ・クリスティ

いささか派手すぎる

あらすじ

汽車に乗っていたマープルさんの友人・エルスペスは、併走する別の汽車の中で殺害現場を目撃する。エルスペスは車掌に通報し、警察がその汽車を捜索するが死体は見つからない。その話を聞いたマープルさんは、犯人が汽車から死体を放り出したと推理する。

(c) ITV PLC  (c) ITV UK / Film Afrika Worldwide

1987年のヒクソン版に比べ、容疑者が容疑者らしく描かれている。「マルティーヌの手紙で紛糾する兄弟」「アリバイがないブライアンとエマ」「カレーに毒を入れる可能性」などが映像化され、印象深くなった。その時点ごとの推理もちゃんと述べている。しかし疑わしいばっかりで追加情報がなく、推理を組み立てられなかった。

トンティン方式(相続者が減るほど年支給額が増える)が割愛されたため、家族の緊張感が損なわれたのもまずい。殺人の機会があったなら、次は動機、方法を問うべきだろう。

洗練された導入部

ヒクソン版で省かれた事前の調査が映像化されたことで、クラッケンソープ家に死体があると推理するまでの流れがスムースになった。鉄道警察のふざけた態度が、ミス・マープルの闘志をうまく刺激している。

派手なルーシー・アイレスバロウ

配役で目立つのは、やっぱりルーシー。若くて、美しくて、チャーミングで、歌って踊れるスーパー家政婦。真っ赤な車で乗り付け、豹柄のコートを羽織った金髪美女が家政婦だなんて、ふざけた冗談にしか思えないが、ま、差別化も必要だろう。あんまり賢くないが、ちょこちょこ聞き耳を立てる姿は「探偵にあこがれる女の子」っぽい。これはこれで悪くない。
探偵としてはイマイチでも、女としてはベテラン。言い寄る男たちをさらっと躱すところは、熟練を感じさせる。本作ではセドリックが小僧になったため、ブライアンとの結婚は既定路線と思われたが、どんでん返しでトム警部と結ばれる。石炭の汚れを取り合っただけで、そんな惚れるものか? やはり釈然としない。
本作のトリックは粗いのだから、恋の鞘当てはきちっと描いてほしい。

キャスティング

6回くらい見返して、アルフレッド(四男→次男)とセドリック(次男→四男)の年齢が入れ替わっていることに気づいた。なぜ変えたのだろう? 原作を知ってる人ほど混乱する。ハロルドとセドリックは事件に絡むことなく退場。この程度なら省略してもよかった。
ルーサー(父)も教養と理解ある人物に差し替えられ、屋敷の緊張感がゆるんでいる。ルーシーを食事に誘うのも早いよ。そのくせ終盤はまったく出番がない。もったいないね。
ブライアン(イーディスの夫)は軍人らしくなった。ちょこちょこ怪しく描かれているが、マルティーヌ(長男の妻)を連れてきたシーンのインパクトが足りない。ミス・マープルが先に連絡したのも驚愕だが、あっさり流されてしまった。けっこう重要なポイントだったのに。
エマ(次女)はだいぶ年配になった。次女じゃなくて長女なのかな? 女性としての魅力が欠けたことで、結婚へのあこがれが切なく見えた。マクイーワン版は愛をテーマに掲げるが、ヒクソン版のほうが幸福なイメージがある。

アルフレッド殺害の理由

クインパー医師は偽りの手がかり(M. Crackenthorpe の領収書)を残すが、その現場をアルフレッドに目撃される。恐喝されたクインパー医師は、一族全員の中毒にまぎれて、アルフレッドを毒殺する。アルフレッドを殺害することで、自分のアリバイを確実なものにできるという目算もあった。けっこう冷酷な殺人なんだけど、これも愛が動機なのか?
ヒクソン版に比べれば納得できる筋書きだが、アルフレッドがクインパーにアリバイ供述をたのむシーンや、恐喝するシーンは挿入してほしかった。

愛に傾きすぎる

冒頭にルーサーの妻(アグネス)が死ぬシーンが挿入され、愛がテーマであることが強調された。ハロルドも愛に焦がれて異常行動をしていた。さらに事件解決時、ミス・マープルがエマに言う。
「慰めにならないけど、今回の犯罪の動機は愛だわ」
「大切なのは愛ですね」
うーん、そうとは思えないなぁ。新しい「ミス・マープル」は愛を前面に出しすぎている。

それから謎解き後に列車を止めてしまったのは驚き。まぁ、華があっていっか。

パディントン発4時50分:キャスティング比較


※1961 夜行特急の殺人 (ラザフォード版)


※1987 パディントン発4時50分 (ヒクソン版)


※2004 パディントン発4時50分 (NHKアニメ版)


※2007 パディントン発4時50分 (マクイーワン版)

アガサ・クリスティ
ポワロ
デビット・スーシェ (David Suchet) デビット・スーシェ (David Suchet)
ピーター・ユスティノフ (Peter Ustinov) ピーター・ユスティノフ (Peter Ustinov)
声:里見浩太朗 声:里見浩太朗
  • アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル
  • グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件
  • 安マンションの謎
  • ABC殺人事件
  • 総理大臣の失踪
  • エジプト墳墓の謎
  • エンドハウス怪事件
  • クリスマスプディングの冒険
  • プリマス行き急行列車
  • 消えた料理人
  • 二十四羽の黒つぐみ
  • ダブンハイム失踪事件
  • 雲の中の死
 
ミス・マープル
マーガレット・ラザフォード (Margaret Rutherford) マーガレット・ラザフォード
アンジェラ・ランズベリー (Angela Lansbury) アンジェラ・ランズベリー
ヘレン・ヘイズ(Helen Hayes) ヘレン・ヘイズ
ジョーン・ヒクソン (Joan Hickson) ジョーン・ヒクソン
ジェラルディン・マクイーワン (Geraldine McEwan) ジェラルディン・マクイーワン
ジュリア・マッケンジー (Julia McKenzie) ジュリア・マッケンジー
声:八千草薫 声:八千草薫
ゆっくり文庫 ゆっくり文庫
  奥さまは名探偵
ほか
検察側の証人
そして誰もいなくなった
ほか

ページ先頭へ