死者のあやまち / ポワロ (ピーター・ユスティノフ主演) Dead Man's Folly
1986年 海外ドラマ 3ツ星 探偵 @アガサ・クリスティ驚くべきは作家の直感か
あらすじ
オリヴァ夫人に喚ばれ、ポワロはナス屋敷にやってきた。オリヴァ夫人はお祭りで開催される「死体探しゲーム」の筋書きを書いたのだが、本当に殺人が起こりそうな予感がすると言う。
はたして祭りの当日、死体役だった少女(マーリーン)が絞殺死体で発見される。つづいてナス屋敷の主の妻(ハティ)が行方不明になり、舟番(ジョン・マーデル)の溺死体が発見された。
なにが起こっているのか、さっぱりわからなかった。謎解きを聞けば、そうだったのかと思わなくもないが、やはり飛躍しているように感じる。ちょっと整理してみよう。
ポワロの推理
- 3ヶ月前に投函された手紙が当日届くはずがない
- →夫人はウソをついている
- →夫人はスーザに会いたくない or 会えない
- →(?)→夫人はニセモノ
- →フォリアット夫人、スタッブス卿も知っている
- →本物の夫人は殺されている。
- →(?)→死体は阿房宮に埋まっている。
- →フォリアット夫人なぜスタッブス卿をかばう?
- →身内?→軍の記録を照会する
- マーリーンは舟番(祖父)から聞いたネタで恐喝していた
- →舟番は殺害現場を見てしまった
- →犯人の目的は恐喝者の口封じ
- →そのために祭りの「死体探しゲーム」を利用した
- →スタッブス卿は水泳が達者
- →スタッブス卿が舟番を川に引きずり込んだ
- イタリア人旅行者は顔と手の色が合ってない(ボートの上での観察)
- →(?)→夫人の変装にちがいない
- →スタッブス卿は、その旅行客を追っ払った
- →あれは演技
- →(?)→夫人はユースホステルに潜伏中。
犯人サイドの思考
- ジェイムズ・フォリアットは軍を脱走した。
- 成功し、財産を築き、スタッブス卿となる。
- フォリアット夫人は息子のため、ハティとの結婚を薦める。
- ジェイムズは結婚していたので、ハティを殺害。
- 死体を捨てる現場を舟番に見られた。
- 孫娘に脅迫された。
- 祭りの日、ハティの旧友(スーザ)がやってくる。
- 舟番と孫娘を殺し、その罪をスーザに着せようと発案。
- オリヴァ夫人に筋書きを書いてもらい、ところどころ修正する。
- 実行。
- 旅行客に化けたところをポワロに目撃されたので、追っ払う演技をする?
犯人の行動で不可解なところ
- 殺人計画に必要な筋書きを、なぜ本物の探偵小説家に依頼したのか?
- スーザがハティを殺害したとして、その現場を孫娘(マーリーン)が目撃し、口封じのため殺されたなら、死体がボート小屋で見つかるのはおかしい。孫娘がスーザを招き入れたなら、殺害現場を見ていなかったことになる。殺人容疑はゲームの企画者に絞られるため、犯人にとって不利。ボート小屋のドアを開けておくべきだった。
- 偽ハティはどうやって帰ってくるつもりだったのか? いずれ帰ってくれば、その時点でスーザの容疑は晴れて、対面してしまう。
- スーザにハティ殺害または誘拐する動機がないため、逮捕される見込みは薄い。ましてや死体なきまま立件され、死刑になるとは思えず、遠からず釈放されるだろう。つまり問題が解決しない。
- 偽ハティは2度と帰ってこないつもりなら、祭りの日を待たずに失踪すればいい。
- いずれにせよ、偽ハティがユースホステルに潜伏する必要はない。
うん、これはダメだ。
犯罪が破綻してるから、推理も飛躍する。
キャラクターはおもしろい
犯罪とトリックはダメだが、キャラクターはおもしろかった。まず、ヘイスティングスに癒やされる。ヘイスティングスは原作にいないし、さしたる行動もしないが、熱心にメモを取ったり、場面ごとに感想を述べてくれるから安心する。今回は軍隊式の考察を試みるが、ポワロに笑われ、失礼だぞと怒る。ポワロもすぐ侘びて、いっしょに推理する。なんだかんだで親友同士だね。
オリヴァ夫人も楽しい。強引で、マイペースで、しゃべりだすと止まらない。猛烈にうざいが、憎めない。出会う人に本を勧めて回るが、ポワロ含め、だれも読んでくれない。スーシェ版のゾーイ・ワナメイカーとまったく異なるが、これはこれでアリだ。
オリヴァ夫人は、関係者が口にしていない本性を見抜き、根拠なく悲劇を予知している。本作でもっとも不可解なキャラクターだ。彼女はクリスティの分身らしいから、クリスティ自身に類似する経験があったのかもしれない。あるいは類似する経験があったから、この物語を書いたのだろう。
劇中、「15年前のABC殺人事件」の話がちょこちょこ出てくる。このポワロとヘイスティングスなら、どんな「ABC殺人事件」になっただろう? そんなことことを思わせるだけの魅力があった。
スーシェ版との比較
本作視聴後、スーシェ版「#68 死者のあやまち」(2013)を見たが、おおむね下記のような特徴があった。
- オリヴァ夫人の直感が強調される。
- 舟番がフォリアット家の歌を歌わない。
- 本物のハティは知恵遅れで、財産があった。
- スーザの手紙が届いたのは3週間前。
- スーザの上着に指輪を入れることで容疑を固め、逮捕させる。
- スタッブス卿は水泳を嗜まない。
- ハティの変装が見破られない。イタリア出身の悪人に。
- ハティは行方知れずのまま。
- フォリアット夫人の悔悟が少ない。
- 結末。
どちらが優れているということはなく、ぶっちゃけ、どちらも足りない。双方の長所を足し合わせても、まだ不合理な点は残る。
フォリアット夫人が誤ってハティを殺したとか、スタッブス卿とハティを兄妹だったとか、もともと目撃者の始末だけが目的だったが、スーザの来訪で計画が狂ったとか、思い切った翻案が必要そうだ。
アガサ・クリスティ | |
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ポワロ | |
デビット・スーシェ (David Suchet) | |
ピーター・ユスティノフ (Peter Ustinov) | |
声:里見浩太朗
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ミス・マープル | |
マーガレット・ラザフォード | |
アンジェラ・ランズベリー | |
ヘレン・ヘイズ | |
ジョーン・ヒクソン | |
ジェラルディン・マクイーワン | |
ジュリア・マッケンジー | |
声:八千草薫
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ゆっくり文庫 | |
奥さまは名探偵 | |
ほか | |
検察側の証人 | |
そして誰もいなくなった | |
ほか |