レビュー  1982年03月05日  に発表された 

地中海殺人事件 / 名探偵ポワロ (ピーター・ユスティノフ主演)
Evil Under the Sun

5ツ星

ミステリーが楽しい

2016年、スーシェ版『白昼の悪魔』(2001)のあとに鑑賞するが、例によって格段にわかりやすいことに驚いた。登場人物は整理され、無駄なイベントは起こらない。要所要所で、なにが問題かが明示され、集中力が途切れない。また、最後の謎解きも唐突にはじまらず、「これからはじまります。みなさんも考えてくださいね」という間がうれしい。

原作にいたバリー少佐、レーン元牧師を省略。ブルースターを男性にして、憎まれ役とする。ロザモンド・ダーンリーを、推理マニアのオーナー・ダフネに統合。いいねぇ。「白昼にも悪魔はいる」というセリフも消えてしまったが、やむなし。

もっとも興奮したのは謎解きのあと──。
クリスティ作品の多くは「動機」と「機会」しか説明しない。ひどいときは「機会」のみ。しかし現実の犯罪捜査では「証拠」が不可欠だ。「おもしろい仮説だが、なにか証拠はありますか?」と質問されると手詰まりになるから、犯人の自白や逃走でごまかしている。
しかし本作はちゃんと踏み込んでくれた。これが楽しい。このカタルシスがあれば、ミステリーに多少の不整合があっても気にならない。

ネタバレになるが事件のプロットをまとめておく。映画を見てピンとこなった人のみお読みください。

事件

すり替えられた宝石を追って、ポワロは地中海の孤島にあるホテルにやってきた。そこで宝石を行方を知っていたであろうアリーナが扼殺される。調べると、滞在客全員にアリバイがあった。だれが、なぜ、ウソをついているのか?

  1. アリーナ・マーシャル ... 元女優。ガル湾の浜辺で扼殺された。犯行時刻は10時30分から12時。
  2. ホレス・ブラット ... アリーナに貸した宝石を探している。殺害前のアリーナと会って喧嘩したが、殺してないことは船員が証言。
  3. ケネス・マーシャル ... 大尉。浮気性の妻を嫌っていた。殺害時刻はタイプライターを打っていた。ダフネが証言。
  4. ダフネ・カースル ... ホテルのオーナー。マーシャル大尉に好意を寄せていた。殺害時刻は従業員と喧嘩。ホレス卿とアリーナの喧嘩を目撃する。推理マニア。
  5. クリスティン・レッドファン ... 色白で病弱な女性。殺害時刻はリンダといっしょだった。正午の大砲を崖の上で聞き、泳いでいるリンダに手を振った。
  6. リンダ・マーシャル ... マーシャル大尉の前妻の娘。後妻のアリーナを嫌っており、毒物の本を読んでいた。殺害時刻はクリスティンといっしょだった。崖の上から手を振るクリスティンを見た。のちに、レックスと会ったことも認める。
  7. レックス・ブルースター ... アリーナの暴露本を書いたが、出版を禁じられた。水上自転車を漕いでいると、瓶が落ちてきた。正午の大砲が鳴ったとき、泳ぐリンダに声をかけた。
  8. パトリック・レッドファン ... アリーナの浮気相手。死体の第一発見者。
  9. マイラ・ガードナー ... 滞在客。パトリックとともにアリーナの死体を発見する。
  10. オーデル・ガードナー ... 滞在客。おしゃべり。当初アリバイはなかったが、のちにダフネが本を読む姿を窓から見たと証言する。ホテルで入浴する音を聞く。

ダフネ「わかったわ。犯人がいないのね!」
ポワロ「しかし女性が1人、殺されている」

推理チャート

ポワロは調査して、推理を組み立てる。犯人がわかって、みなを集めるときの会話がいい。これは視聴者に推理する猶予を与えている。この間によって、謎解きがいっそう楽しくなった。

ダフネ「ヒントをちょうだい!」
ポワロ「水泳帽、風呂、瓶、腕時計、ダイヤモンド、昼の大砲、海の息吹、崖の高さ」
ダフネ「......」
ポワロ「では一時間後に」

  1. ブルースターとクリスティンの証言は食い違う。
  2. リンダは水泳帽をかぶっていて音が聞こえなかった。
  3. 水泳帽を勧めたのはクリスティン。
  4. クリスティンはリンダの時計をいじる機会があった。
  5. クリスティンがリンダに声をかけた崖は、高所恐怖症には立てない。
  6. クリスティンの証言はうそ。自由に行動できる。
  7. クリスティンがガル湾に来ると、アリーナは洞窟に隠れた。ダイヤモンド、香水の匂い。
  8. クリスティンはアリーナを殴って気絶させる。
  9. 肌の色は洞窟内でメークアップ。死体のふりをする。
  10. パトリックとオーデルが死体を発見する。
  11. オーデルが去ったあと、パトリックがアリーナを扼殺。
  12. クリスティンはホテルに戻る。便を海に捨て、ホテルで洗い流す。

悪魔たち

機会も動機も明かされたが、証拠がないので逃げようとする犯人たち。もう演技の必要はないから、それぞれ本性を剥き出しにする。クリスティンの衣装が白と黒で、目を引くがシックなところがいい。あまつさえダフネの衣装にダメ出し。すさまじかった。

地中海殺人事件
※本性をさらす悪魔たち

もちろん、旅先にこんな衣装をもってくる必然性はない。しかし悪辣さを遠慮なく高めるところが、本当にうまい。劇中ではさんざん嫌な人扱いされたポワロが看病されるラストは、ほんと痛快だった。

それにつけても正午の大砲──。
うまいなぁ。

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地中海殺人事件 / 名探偵ポワロ (ピーター・ユスティノフ主演)