地中海殺人事件 / ポワロ (ピーター・ユスティノフ主演) Evil Under the Sun
1982年 外国映画 5ツ星 探偵 @アガサ・クリスティミステリーが楽しい
2016年、スーシェ版『白昼の悪魔』(2001)のあとに鑑賞するが、例によって格段にわかりやすいことに驚いた。登場人物は整理され、無駄なイベントは起こらない。要所要所で、なにが問題かが明示され、集中力が途切れない。また、最後の謎解きも唐突にはじまらず、「これからはじまります。みなさんも考えてくださいね」という間がうれしい。
原作にいたバリー少佐、レーン元牧師を省略。ブルースターを男性にして、憎まれ役とする。ロザモンド・ダーンリーを、推理マニアのオーナー・ダフネに統合。いいねぇ。「白昼にも悪魔はいる」というセリフも消えてしまったが、やむなし。
もっとも興奮したのは謎解きのあと──。
クリスティ作品の多くは「動機」と「機会」しか説明しない。ひどいときは「機会」のみ。しかし現実の犯罪捜査では「証拠」が不可欠だ。「おもしろい仮説だが、なにか証拠はありますか?」と質問されると手詰まりになるから、犯人の自白や逃走でごまかしている。
しかし本作はちゃんと踏み込んでくれた。これが楽しい。このカタルシスがあれば、ミステリーに多少の不整合があっても気にならない。
ネタバレになるが事件のプロットをまとめておく。映画を見てピンとこなった人のみお読みください。
事件
すり替えられた宝石を追って、ポワロは地中海の孤島にあるホテルにやってきた。そこで宝石を行方を知っていたであろうアリーナが扼殺される。調べると、滞在客全員にアリバイがあった。だれが、なぜ、ウソをついているのか?
- アリーナ・マーシャル ... 元女優。ガル湾の浜辺で扼殺された。犯行時刻は10時30分から12時。
- ホレス・ブラット ... アリーナに貸した宝石を探している。殺害前のアリーナと会って喧嘩したが、殺してないことは船員が証言。
- ケネス・マーシャル ... 大尉。浮気性の妻を嫌っていた。殺害時刻はタイプライターを打っていた。ダフネが証言。
- ダフネ・カースル ... ホテルのオーナー。マーシャル大尉に好意を寄せていた。殺害時刻は従業員と喧嘩。ホレス卿とアリーナの喧嘩を目撃する。推理マニア。
- クリスティン・レッドファン ... 色白で病弱な女性。殺害時刻はリンダといっしょだった。正午の大砲を崖の上で聞き、泳いでいるリンダに手を振った。
- リンダ・マーシャル ... マーシャル大尉の前妻の娘。後妻のアリーナを嫌っており、毒物の本を読んでいた。殺害時刻はクリスティンといっしょだった。崖の上から手を振るクリスティンを見た。のちに、レックスと会ったことも認める。
- レックス・ブルースター ... アリーナの暴露本を書いたが、出版を禁じられた。水上自転車を漕いでいると、瓶が落ちてきた。正午の大砲が鳴ったとき、泳ぐリンダに声をかけた。
- パトリック・レッドファン ... アリーナの浮気相手。死体の第一発見者。
- マイラ・ガードナー ... 滞在客。パトリックとともにアリーナの死体を発見する。
- オーデル・ガードナー ... 滞在客。おしゃべり。当初アリバイはなかったが、のちにダフネが本を読む姿を窓から見たと証言する。ホテルで入浴する音を聞く。
ダフネ「わかったわ。犯人がいないのね!」
ポワロ「しかし女性が1人、殺されている」
推理チャート
ポワロは調査して、推理を組み立てる。犯人がわかって、みなを集めるときの会話がいい。これは視聴者に推理する猶予を与えている。この間によって、謎解きがいっそう楽しくなった。
ダフネ「ヒントをちょうだい!」
ポワロ「水泳帽、風呂、瓶、腕時計、ダイヤモンド、昼の大砲、海の息吹、崖の高さ」
ダフネ「......」
ポワロ「では一時間後に」
- ブルースターとクリスティンの証言は食い違う。
- リンダは水泳帽をかぶっていて音が聞こえなかった。
- 水泳帽を勧めたのはクリスティン。
- クリスティンはリンダの時計をいじる機会があった。
- クリスティンがリンダに声をかけた崖は、高所恐怖症には立てない。
- クリスティンの証言はうそ。自由に行動できる。
- クリスティンがガル湾に来ると、アリーナは洞窟に隠れた。ダイヤモンド、香水の匂い。
- クリスティンはアリーナを殴って気絶させる。
- 肌の色は洞窟内でメークアップ。死体のふりをする。
- パトリックとオーデルが死体を発見する。
- オーデルが去ったあと、パトリックがアリーナを扼殺。
- クリスティンはホテルに戻る。瓶を海に捨て、ホテルで洗い流す。
悪魔たち
機会も動機も明かされたが、証拠がないので逃げようとする犯人たち。もう演技の必要はないから、それぞれ本性を剥き出しにする。クリスティンの衣装が白と黒で、目を引くがシックなところがいい。あまつさえダフネの衣装にダメ出し。すさまじかった。
※本性をさらす悪魔たち
もちろん、旅先にこんな衣装をもってくる必然性はない。しかし悪辣さを遠慮なく高めるところが、本当にうまい。劇中ではさんざん嫌な人扱いされたポワロが看病されるラストは、ほんと痛快だった。
それにつけても正午の大砲──。
うまいなぁ。
白昼の悪魔
アガサ・クリスティ | |
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ポワロ | |
デビット・スーシェ (David Suchet) | |
ピーター・ユスティノフ (Peter Ustinov) | |
声:里見浩太朗
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ミス・マープル | |
マーガレット・ラザフォード | |
アンジェラ・ランズベリー | |
ヘレン・ヘイズ | |
ジョーン・ヒクソン | |
ジェラルディン・マクイーワン | |
ジュリア・マッケンジー | |
声:八千草薫
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ゆっくり文庫 | |
奥さまは名探偵 | |
ほか | |
検察側の証人 | |
そして誰もいなくなった | |
ほか |