ミス・マープル/最も卑劣な殺人 (アガサ・クリスティー「マギンティ夫人は死んだ」) Murder Most Foul
1964年 外国映画 4ツ星 探偵 @アガサ・クリスティ天使じゃありません
あらすじ
清掃夫のマギンティ夫人が殺され、下宿人が逮捕された。裁判官は有罪を確信するが、陪審員のミス・マープルが納得しないため、審議は中断される。ミス・マープルは独自に調査をはじめる。
マギンティ夫人は、13年前に起こった「なにか」で、ある劇団の「だれか」を脅迫していた。マープルはその劇団に研修生として潜入する。その矢先、劇団員が毒殺される。クラドック警部補は、マギンティ夫人を殺害した犯人が自殺したと考えるが、マープルは納得しない。
マープルは調査をつづけるが、青酸ガスで家政婦が死亡。犯人の殺意を感じ取ったマープルは、対決に備える。
マーガレット・ラザフォード演じる「ミス・マープル」シリーズ第3作。原作はポワロの『マギンティ夫人は死んだ(Mrs McGinty's Dead)』だが、登場人物や展開が大きく変えられており、ミス・マープルの新たなエピソードとして十二分に楽しめる。
デビット・スーシェ版のポワロ第58話『マギンティ夫人は死んだ』に比べ、格段にわかりやすい。マギンティ夫人が脅迫していたことが序盤で明かされ、それが物語の軸になる。「13年前にあったお芝居」で「劇団の関係者」と、調査対象も明瞭。芝居のセリフで、「マギンティ夫人は死んだ!」と言わせるのもうまい。
ただ、推理はちょっと強引。俳優ジョージが自殺ではなく殺人とする根拠が乏しいし、犯人の正体も唐突感がある。しかし霊感少女エヴァは印象的だった。タイトルの「Murder Most Foul」はハムレットからの引用らしい。だったら劇中で、マープルが犯人の卑劣さに怒るシーンが欲しかったかな。
不思議な魅力があるマープル
例によってマーガレット・マープルはパワフル。のっしのっしと歩き、マントをひるがえし、ちょっとした知恵で潜入捜査を果たし、命を狙われても動じない。原作のマープルとは似ても似つかぬが、これはこれでかっこいい。
寒がるストリンガーの膝にマントをかけて、いっしょにベンチに座るシーンは、不覚にもドキドキしてしまった。マープルは老婆だから、女の色香ではない。しかし男にはない魅力がある。不思議なものだ。
あとで知ったことだが、この2人は現実に夫婦だったのね。なるほど。
犯人との対決は舞台の上・・・と思っていたが、意外や意外、舞台の下だった。いくらマープルでも、お芝居をぶち壊すことはなかったか、と思ったが、結果的にぶち壊されてしまった。
マープルはナイフを構える犯人を、マープルはピストルで威嚇し、制圧する。銃の腕前があろうと、なかなかできることじゃない。「映画だから」と言われればそれまでだが、マープルの胆力、経験を裏付けるシーンだった。まぁ、原作のマープルはあんなことしないけど。
憎めないクラドック警部補
ミステリーの定石として、警察(クラドック警部補)は無能に描かれている。しかし場面ごとに常識的な考えを述べてくれるし、効果はなくともマープルを引き止めてくれるなど、しっかり役どころを押さえている。あれほど否定していたマープルの功績で警部に昇進したのはずるいが、憎めないキャラクターに仕上がっている。いいね。
安定しなかったコスグッド氏
マネージャーのコスグッド氏は、マープルを研修生として採用し、事件の手がかりになる脚本を読ませ、探偵という役柄を与える。例によってマープルに好意があるかと思ったが、じつは金持ち婆さんからの融資を期待していただけというオチは、がっかり。まぁ、毎度毎度、言い寄られる老婆というのも奇妙だけどさ。
それにつけても演出がいい。夜、巡回中の警官がビールを飲んで、《手》に代金を要求される。その背後の窓に、殺人の様子が照らし出される。もう、このオープニングでがっちりハートを掴まれ、そのまま最後まで興奮が維持された。
いい映画だった。
アガサ・クリスティ | |
---|---|
ポワロ | |
デビット・スーシェ (David Suchet) | |
ピーター・ユスティノフ (Peter Ustinov) | |
声:里見浩太朗
|
|
ミス・マープル | |
マーガレット・ラザフォード | |
アンジェラ・ランズベリー | |
ヘレン・ヘイズ | |
ジョーン・ヒクソン | |
ジェラルディン・マクイーワン | |
ジュリア・マッケンジー | |
声:八千草薫
|
|
ゆっくり文庫 | |
奥さまは名探偵 | |
ほか | |
検察側の証人 | |
そして誰もいなくなった | |
ほか |