レビュー  2013年11月13日  に発表された 

カーテン ポワロ最後の事件 / 名探偵ポワロ #70(デビット・スーシェ主演)
Curtain: Poirot's Last Case / Agatha Christie's Poirot #70

5ツ星

ヘイスティングスは気づいたか?

あらすじ

アーサー・ヘイスティングスは旧友ポワロの呼び出しを受け、スタイルズ荘にやってきた。老朽化したスタイルズ荘は現在、老夫婦が経営するホテルになっていた。自分を呼んだ理由を尋ねると、ポワロは言った。スタイルズ荘に殺人者がいるから、次の犯行を食い止めたい。自分の代わりに情報収集してほしい。殺人者はわかっているが、標的はわからない。ヘイスティングスは思ってることが顔に出るから、殺人者の名は明かせないと。ヘイスティングスは承知した。

登場人物
  1. エルキュール・ポアロ ... 老いた私立探偵。スタイルズ荘で殺人が起こると予言する。
  2. アーサー・ヘイスティングズ大尉 ... ポアロの友人。妻を喪ったばかり。ポワロの代わりに宿泊客を観察するが、娘のジュディスが心配でほかのことが目に入らない。
  3. ジュディス・ヘイスティングズ ... ヘイスティングズの娘。フランクリン博士の秘書をしている。奔放な性格で、父親と衝突してばかり。アラートンに魅了されている。
  4. ジョン・フランクリン ... 博士。まじめな男で、研究しか考えてない。
  5. バーバラ・フランクリン ... 病弱を装う高慢な妻。キャリントン卿に色目を使っている。
  6. スティーヴン・ノートン ... どもりがちで、余計なことを言うが、話し上手。
  7. ウィリアム・ボイド・キャリントン ... 尊大な貴族。バーバラの幼馴染み。女たらしで、クレイブンに色目を使っている。
  8. アラートン ... 女たらし。睡眠薬を処方箋無しで入手できる。
  9. ジョージ・ラトレル ... 今のスタイルズ荘の持ち主。親しみやすい紳士だが、癇癪を起こした直後、妻を狙撃してしまう。
  10. デイジー・ラトレル ... ジョージの妻。夫に対し高圧的。
  11. エリザベス・コール ... 姉が殺人事件で死刑判決を受けている。ノートンを慕っている。
  12. クレイヴン ... バーバラの看護婦。キャリントン卿と親しい。
  13. カーティス ... ポアロの従僕。身体は強いが、あまり賢くない。
  14. ジョージ ... ポアロの執事。父親の看病のためポワロの世話ができなくなった。
5つの出来事
  1. ジョージが妻デイジーを猟銃で誤射 ... さいわいデイジーが死ななかったため事件にはならなかった。誤射の直前、ジョージはデイジーの態度に強く憤慨しており、制裁として射った可能性もある。
  2. ヘイスティングスがアラートンを毒殺未遂 ... ヘイスティングスの娘、ジュディスは女たらしのアラートンに魅了されている。娘の不幸を黙ってみていられなかったヘイスティングスは、アラートンを睡眠薬で殺そうとする。しかしポワロの機転によって事なきを得る。
  3. バーバラが毒を飲んで自殺 ... フランクリンが抽出したアルカロイドによって妻バーバラが死亡。法廷でポワロは、鬱病による自殺と証言。そのとおり処理された。
  4. ノートンが拳銃自殺 ... 額を撃ち抜いた死体が発見された。部屋には鍵がかかっており、拳銃もノートンの持ち物だった。
  5. ポワロが自然死 ... ポワロは2つとも自殺ではないと断言。しかし真相を語らないまま発作を起こして死亡した。

ポワロの死から4ヶ月後、ヘイスティングスのもとに弁護士からポワロの手紙が届けられた。

おもしろかった。名探偵の最後を締めくくるにふさわしいドラマだった。しかし例によって登場人物は多く、期待される反応も乏しいため、中盤あたりで見るのがつらくなった。それでも脳裏をかすめる「可能性」が気になって鑑賞。最後の謎解きで、なるほどと納得した。
言われてみれば、そのとおり。ギスギスした雰囲気はイギリス社会特有のものと思っていたが、会話と心理をコントロールする存在があった。じつに巧妙、じつに陰湿。最大の敵と言っていい。

喪失を覚悟したポワロ

ポワロと犯人の会話は、原作にないそうだ。犯人に手口を説明させたこと、ポワロが自分の意志をはっきり述べたことで、対決の構図がはっきりした。それは殺害の瞬間に継承される。犯人は目を開けて、笑った。ポワロは明瞭かつ強固な意志で実行した。
あるいはこれも、犯人の思惑かもしれない──。などと、妄想してしまう。犯人は未来に希望をもっていたし、ポワロを警戒していなかった。わざと仕組んだなら相応の罠を仕掛けたはず。だが、そこは重要じゃない。ポワロの手紙、その最後を綴る言葉は、「Yes, they have been good days.」。弁解や悔悟ではない。たとえポワロの名誉が失われても、ふたりが過ごした日々の輝きは色あせない。そう確認しているように思えた。

格差ある友情

ポワロのヘイスティングスへの態度は尊大で、腹立たしく思ったが、ポワロ視点で見るとこれまた納得。ヘイスティングスは純朴で、すぐ影響され、本来の目的を忘れてしまう。「頭、空っぽですか?」と呆れたくなるよ。
あるいはこれも、ポワロの策略かもしれない。自分で歩くことができず、呼び寄せたパートナーはボンクラ。これなら犯人も油断するだろう。ヘイスティングスは悲しいほど無能で、ポワロの助けにもならないが、それでもふたりは友だちだった。

気になること

優れた演出がある反面、気になるところも多い。繰り返しになるが、登場人物が多すぎる。名前だけで、職業やスタイルズ荘に滞在する理由がわからないから、人物像がよく見えない。半分くらい削っていい。
反応もちぐはぐ。ラトレル夫妻は誤射事件のあと、なんの弁解も追求もせず、晩餐会で殺人の話を楽しんでいる。あきれた神経だ。フランクリン博士は妻の死後、ヘイスティングスにアフリカへ行くことを告げるが、ジュディスのことは言わなかった。義父となる相手に、その態度はどうなのさ。大人として!
ポワロもヘイスティングスを娘さんと和解させるため招いたとか言ってたのに、なんもしなかった。ジュディスよりエリザベスを気にかけている。そしてジュディスは最初から最後まで反抗的で、なんの成長もない。人間関係が雑なんだよね。

さてヘイスティングスは、どこまで真相に近づけたのか? ポワロはわざと証拠(額を撃ち抜く)を残し、4ヶ月の猶予を与えたのだから、なにかしらの成果を期待されたいたはず。ヘイスティングスの主体的な行動を見たかった。直感でいいから。

妄想リメイクを書き出してみよう。
【ゆっくり文庫】のネタっぽいが、制作することはないだろうな。

妄想リメイク

2年前、ジュディスの雇い主は、病気で偏屈になった夫を殺害したことで絞首刑に処された。雇い主を尊敬していたジュディスはショックを受け、生命や法律に対する疑念が生じる。その後、ジュディスはフランクリン博士の秘書となり、充実した日々を送っていた。博士は研究と、妻バーバラの療養を兼ねて、スタイルズ荘に長期滞在する。

ほどなくアラートンとノートンがやってきた。アラートンは若い貴族で、女たらし。ジュディスに色目を使っている。ノートンは野鳥研究家で、アラートンに強引に連れてこられた。ヘイスティングスは娘のことが気になって、ノートンから話を聞き、焦燥を募らせる。

バーバラはアラートンに興味を持ち、ノートンから話を聞いて猛烈にアタック、不倫関係になる(アラートンにとっては、なびかないジュディスの代用品)。バーバラはフランクリン博士を殺して、アラートンと再婚したいと考える(夫は自分で人体実験するかもしれない、夫の考えはわからない)。またジュディスが邪魔になるため、ヘイスティングスにあることないこと吹聴する(娘さんは悪い男に騙されている、ここを立ち去るべき)。

スタイルズ荘を経営するジョージ&デイジー夫妻は、誤射事件によって夫婦円満になる。ジョージは殺す寸前にためらった。デイジーは殺されかけたことで自分を見つめ直した。こうした変化は、ポワロがもたらしたものだった。ジュディスはポワロに興味をもつようになる。

バーバラが自殺。
ヘイスティングスがアラートンを殺人未遂。
ノートンが拳銃自殺。
ポワロが自然死。

ヘイスティングスは考える。ポワロは法廷でウソの証言をした。なんのために? バーバラが他殺なら、もっとも疑わしいのはフランクリン博士だ。
そこにフランクリン博士が訪れ、アフリカに行くと伝える。ヘイスティングスの疑問に答える。たしかにバーバラを殺したいと思っていたが、殺してない。そして自殺説にも納得していない。だれかが殺した。しかし真相を知りたくないから、アフリカに行く。ジュディスは置いていく。親子で暮らしてくださいと。

ポワロは殺人者の名前を伏せた。ヘイスティングスを傷つけないために? だとすると犯人はジュディス?
そこへジュディスが訪れ、フランクリン博士とアフリカに行きたいと訴える。ジュディスが愛していたのはフランクリン博士だった。バーバラに殺意はあったが、それ以上に自分が殺さないか不安だった。しかし私はバーバラを殺してない。フランクリン博士も殺していない。自分は疑われ、遠ざけられているかもしれないが、彼を追いかけ、支えたいと。ヘイスティングスは「行きなさい」と答えた。

次に疑わしいのはアラートン。ヘイスティングスが追求すると、アラートンは臆病な本性をあらわした。身近な人が次々と死んで、不安でたまらなかったのだ。彼はジュディスを狙っていたが、なびかないのでバーバラとの関係を楽しんだ。本気じゃないし、殺す動機もない。人間が怖くなったから田舎に引っ込むと言い、去っていった。

ジョージ&デイジー夫妻はどうか? バーバラに毒を飲ませることも、ノートンの部屋の鍵に細工することもできる。しかしあの夜、ヘイスティングスは部屋に入るノートンを見た。ジョージ&デイジー夫妻は、ノートンは虚言癖があって、自分の不実さを悔やんで自殺したというのは、ありえる話だと言う。

そしてポワロの手紙が届く。

誤射事件。ポワロはノートンの関与があった確信。しかしまだ迷っている。
バーバラ毒殺。ポワロはヘイスティングスの犯行と見抜くが、フランクリン博士とジュディスのため、自殺説を唱える。まだ迷っている。
ヘイスティングスによる殺害未遂。もう看過できない。ポワロはノートンの処刑を決意する。

すべてを知らされたジュディスは、自分が生命を軽く考えていたことを反省する。ヘイスティングスはふたりに言う。
「だれかの死を願うことは罪じゃない。心が揺れるときはある。そこにつけこむ悪は許せない。
 ふたりを祝福します。
 もし結婚式があるなら、アフリカまで行きますよ」

フランクリン博士とジュディスはアフリカに渡っていった。
ヘイスティングスはひとり呟く。

「カインの烙印でしょ。
 気づいてましたよ。あなたらしいってね。
 嘘じゃありませんよ。
 ええ、そうです。
 あなたと過ごした日々は、最高だった」

(おわり)


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